1960年代に、数多く誕生した少量生産スポーツカー・メーカー。彼らのクルマの多くは、商業的に成功することなく消えていった。だが、作り手が理想を求めたクルマの中には、驚くほど高い完成度を誇るものもあった。イギリス製の珍しい2台をご紹介しよう。
少量スポーツカーメーカーの矜持
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そもそもスポーツカーは、どんなに人気があるモデルでも大量に売れるわけではない。とはいえ、ある程度数が売れなければ、採算が取れないのも事実で、今も続く老舗スポーツカー・メーカーは、そうした面で、価格も含めて巧みにバランスを取っているわけだ。
一方で、通常より遥かに少ない数しか生産しない、少量生産メーカーというものも昔から存在する。こうした会社の作るスポーツカーは、大手や老舗が作るものとはひと味もふた味も違うものが多く、味わい深かったりする。ただし商業的に成功するのはごく一握りで、多くは多額の投資を回収できないまま、会社を存続させることができずに姿を消していく。
ではなぜ彼らは、リスクを承知でスポーツカーを作るのか? こうした少量生産メーカーが無数に存在した1960年代初頭のイギリスで誕生し、共に僅か数百台の生産で終わった2台のスポーツカー、リライアント・セイバーとトルネード・タリスマンを元に、理想と現実のギャップを検証してみた。そこから見えてきたのは、少量生産スポーツカー・メーカーの矜持とも言うべきものだった。
1961 RELIANT SABER4
3輪車の生産で知られるリライアント社は1935年の創立で、戦後は1953年から本格的に操業。FRP加工技術の先駆者でもあり、イスラエルやトルコにも工場を進出させていた。そんな中、提携先であるイスラエルのオートカー社のY.シュビンスキーが、1960年のロンドン・レーシングカー・ショーを訪問。そこに展示されていた、レスリー・バラミー社のラダーフレームと、アシュレイ・ラミネーツ社のFRPボディを組み合わせてスポーツカーを作ることを計画する。その開発をリライアントが行い、サブラ(SABRA/サボテン)として100台以上をオートカーに納入。イスラエル国内と一部北米市場でも販売されたという。
リライアントはこのサブラに改良を加え、1961年にセイバー(SABRE/サーベル)として、イギリスで発売した。FRP製のオープントップ・ボディはフロント部をリデザイン。サスペンションは、フロントがリーディングアーム独立、リアがワッツリンクを使うリジッド。エンジンはフォード・コンサルMk2 用直4OHV1703cc(204E)で73PSを発揮。ZFの4速フルシンクロミッションを装備していた。
1962年モデルから、ファストバック風ルーフを持つGTと、フォード・ゾディアック用直6OHV2.6リッターエンジンを搭載するセイバー6が登場。これに伴い直4仕様はセイバー4となった。またフロントデザインがMGB風の端整なものに変更されていた。
ただ販売は芳しくなく、1964年までにセイバーが208台、セイバー6が77台(内オープン2台)生産されただけに終わった。
今回取材したのは、クラシックカーのメンテナンスと販売が専門のオートメディックさんからお借りした、1961年式セイバー4。後期型ノーズと前期型の四角いリアホイールアーチを持つ過渡期の仕様で、数台しか現存していないという希少なモデルだ。
1961年と言えば、MGはAの最終期で、トライアンフはTR4が誕生した年だ。そこにこのスタイリッシュなオープンとクーペは、相当なインパクトだっただろう。撮影のため少し運転したのだが、エンジンはトルクフルで、軽量ボディをジェントルに走らせる。また足周りは乗り心地がソフトで、セイバーがMGAやTR3より高級な路線を狙い、かなり高い完成度を有していたのがわかった。
少量生産ゆえ価格が高価だったのが、商業的に成功しなかった最大の理由だろうが、当時のイギリス・スポーツカー市場のニッチを狙っていたことは明らか。リライアントのニッチ狙いは、この後シミターGTEで結実することになるのだが、セイバーの経験が役立ったのは間違いないだろう。
1963 TORNADO TALISMAN GT Mk.2
イギリスのビル・ウッドハウスが1957年に創設したのがトルネード。彼らは入手が容易なフォードのパーツを使ったキットカーを開発し、1958年にタイフーンの名で市販する。
丸パイプを組んだフレームに、当時先進素材だったGRP(グラスファイバー)のボディを載せた軽量スポーツカーは、安価だったこともあり400台が売れるヒットとなり、モータースポーツでも活躍。1960年には改良型のテンペストも発売されている。
ウッドハウスは次なるステップとして、当時英国車になかった、2+2の軽量クーペを企画する。おそらくアルファロメオ・ジュリエッタ・スプリント辺りをイメージしたと思われるが、狙いは良かったのではないだろうか。
太いパイプで網目状に組んだフレームの前後に、細いサブフレームを繋げたシャシーに、トライアンフ・ヘラルドのフロント・ダブルウイッシュボーンと、当時のフォーミュラカー・スタイルであるリアの4リンクを組み合わせた4輪独立サスペンションを採用。ボディは得意のGRP製(プロトタイプはアルミ製)で、584kgと極めて軽量に仕上げられていた。
エンジンはフォード109E直4OHV1340ccをコスワースがチューンし、75PSとしたものを搭載。フォードの4速フルシンクロMTと組み合わせた。
トルネード・タイフーンは2座オープン(写真)の他にクーペや2+2、スポーツワゴンも存在。発展型のテンペストなども作られた。タリスマンはMk.3が試作されたが、財政難のためトルネードは1964 年に車両製作を断念。以後1986 年まで修理専門の会社として存続した。
1961年にタリスマン(お守り)GTと名付けられ発売されたこのクルマは、性能面で非常に高い評価を受けた。コーリン・チャプマンが、ロータス・ブランドでの販売を打診したというから、当時かなりの衝撃を与えたようだ。ただそれまでと違い、タリスマンはほとんどが完成車だったこともあり、これも価格が高く販売は苦戦。翌年フォード116Eベースで86PSを発揮する1498ccエンジンのMk2を発売したが、その年までに200台弱を販売しただけで、生産を終了している。
今回取材したのは、これもオートメディックさんが在庫している1963年式タリスマンGT Mk2で、ヒストリックカー・ラリー用にモディファイされた1台。車体は小さ目ながら、車内スペースはきちんと確保されており、ノーマルであれば後席にも大人が座れそうだ。また内外装はかなり高品質に設えられていた。
こちらは街中で少し運転させていただいたのだが、ボディ剛性はしっかりしており、足周りはやや硬めながらダンピングが効いていて乗り心地は良好。エンジンは低中速型ながら小気味よく回り、ステアリングも正確に思えた。
今乗っても、はっきり意欲作とわかるタリスマン。ウッドハウスの先見性と審美眼、そしてモータースポーツを通して培った技術は本物だったと断言できそうだ。
【写真44枚】マイナーながら高い完成度を誇ったセイバー&タリスマンの詳細をギャラリーで見る
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みんなのコメント
旧き佳きじだいだな。
見た目だけでも圧勝だし、どこが失敗作なのやら。