過激な走りに見合ったスタイリングがまさに「ブルドッグ」だった
1982年秋にターボを追加したシティだが、わずか一年後の83年10月シティ ターボIIを発売する。注目点はエンジンの出力アップなのだが、それ以上に話題を集めたのは、その性能を発揮させるためのスタイリング。ホンダがダイナミックフェンダーと呼んだそのブリスターフェンダーは、強化された前後のサスペンションとワイドタイヤを包み込むために作り出されたもの。エンジンの冷却効果と空力バランスのためのバンパー、フロントスカートの形状もあって、戦闘力の高さを感じさせるものだった。 ボンネットは低い方が良いと考えていそうなホンダでありながら(3代目プレリュードが代表格)、ビッグバルジと呼ばれるインタークーラーとエアクリーナーを収めるために張り出したボンネットの突起は、性能のためにはなりふり構わない潔さを発揮して、只者ではない雰囲気を醸し出していた。
やんちゃ過ぎた昭和の「ホットハッチ」! 若者文化をリードした「初代シティターボ」という衝撃
コンパクトカーの高性能モデルでここまで差別化を図るのは珍しいことであるし、ターボ同様のゼロリフトの空力性能を得ている。Cd値は0.40、ヨーイングモーメント係数Cym=0.02(ヨーアングル5度時)と横風の影響も受けにくくして、1983年の発売時に空力効果の重要性をアピールした。 また、フェンダーミラーから当時は垂涎のドアミラーになったこともポイントで、ボディ同色バンパーもあってとにかくひと目でターボIIと解るルックスは、免許を持たない子どもたちをも魅了した。 インテリアも新形状のバケットシートを装備。ハイバック形状としながら、腰部分などのサポート性を向上させている。体圧分布と安定した運転姿勢を追求したことで、横Gへのサポート性とロングドライブでの疲労軽減へとつなげている。また、後席は取り外しが可能で、後席自体もクッションを厚くして快適性をアップさせた。
スポーツカー顔負け! まさにメーカーが手がけたチューニングカー
サスペンションはストラット式4輪独立懸架と変更はないものの、トレッドを前+30mm、後+20mmと大幅に拡大。前後のスタビライザーも強化されて操縦安定性を向上させた。ブレーキも大型のセミメタルパッドが用いられ、タイヤサイズはターボが165/70R12に対してターボIIは185/60R13のスチールラジアルタイヤを装着。この時代に扁平率60%のタイヤを履くなど、とにかく走りに対しての妥協が見えない。 そしてエンジンは、1.2Lのチタニウム添加のアルミニウム合金シリンダーヘッドとマグネシウム合金ヘッドカバーを採用する、90%以上が新設計となるニュー・コンバックス・エンジンへと進化。さらにPGM-FI(電子制御燃料噴射)と燃焼室形状の改良もあって、無鉛ガソリン車で当時世界最高の過給圧0.85kg/cm2を達成。最高出力110ps/5500rpm、最大トルク16.3kg-m/3000rpmを発揮させていた。
また、排ガスの一部をバイパスさせて過給圧をコントロールするウエストゲートコントロール機構も備わっていて、過給圧力を高精度に制御。エンジン回転数が4000rpm以下でアクセルを全開にした際には、過給圧力を10秒間10%向上させるスクランブルブーストによって、低回転域でも加速レスポンス、ターボラグを抑えホットハッチとしての気持ちよさを追求した。
ホンダF1第二期のはじまりとシンクロするシティターボIIの登場
ターボII発売と同時期の1983年はホンダがF1に復帰した年で、じつはF1同様にターボIIにも空冷式インタークーラーが備わり、熱伝導効率の良いアルミニウム合金製インタークーラーは吸入空気を最大で45度も冷却できる仕様であった。 F1以前にF2に参戦しているホンダであったが、レーシングカーと市販車、おそらく同時期に一貫して開発が行われていたことが想像される。どちらが発端だかわからないが、レースは走る実験室。「レースの技術を市販車に」、「市販車の技術をレースに」とホンダならではの開発が行われたのは間違いないだろう。
カブリオレも登場! ターボと同様に攻めた商品力で大ヒット
そして1984年にはフランス語で「一頭立て二輪馬車」を意味するカブリオレが発売された。日本では希少なソフトトップを持つオシャレなカブリオレは、ボディカラーに異例といえる多彩な12色を設定して注目を集めた。スタイリングはイタリアのカロッツェリアであるピニンファリーナが手掛けたことを表明しており、外国のデザイン会社と提携して開発およびデザインをしながらその名を伏せるメーカーが多いなか、結果的に商品が良ければよいでしょう、といった感じは自由気ままのホンダらしいエピソード。ターボ同様、カブリオレも長年にわたってファンに愛されるモデルであった。 余談ながら、カブリオレのソフトトップ(幌)は1990年代にも再生産されていて、カブリオレのオーナーが幌を交換したい要望に応えたことで、多くのカブリオレを延命することができた。
1985年には量産車初のFRM(繊維強化複合材料)アルミニウム合金製コンロッドや、混合器を最適な空燃比にするLLR(リーン・リーン・リッチ)システムで燃費を向上。クラストップの低燃費である24km/L(10モード)のEIIIグレードを投入するなど、燃費についてもさまざまなチャレンジが行われた。 斬新なテレビCMで颯爽と登場した異色のトールボーイは、大ヒットモデルとなると世界最小のターボエンジンを追加。そこで人気が高まると、エボモデルと言えるインタークーラー付きのターボIIと、オシャレなカブリオレを発売。1986年秋に2代目に切り替わるまで、とにかく話題に事欠かなかった初代シティ。まさに当時のキャッチフレーズ「シティはニュースにあふれていた」。
■ホンダ・シティ ターボIISPECIFICATION
〇全長×全幅×全高:3420mm×1625mm×1470mm
〇ホイールベース:2220mm
〇トレッド 前/後:1400mm/1390mm
〇車両重量:735kg(サンルーフ装着車745kg)
〇乗車定員:5名
〇最小回転半径:4.6m
〇室内長×室内幅×室内高:1615mm×1310mm×1175mm
〇エンジン:ER型直列4気筒OHC12バルブ インタークーラーターボ
〇総排気量:1231cc
〇最高出力:110ps/5500rpm
〇最大トルク:16.4kg-m/3000rpm
〇タイヤサイズ 前後:185/60R13
〇ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/LT油圧
〇サスペンション 前後:ストラット式
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みんなのコメント
アンチホンダの突っ込み所だった気がする。
デザイナーが「いつかはやりたかった」という Hマークが中心にこない左右非対称グリルも。