ポルシェ・カイエンのベストはクーペ
スタイリッシュなクーペボディのSUVは、ワゴンボディの兄弟モデルより実用性で劣ることが通例。しかも、価格は高いことが多い。合理的には選びにくい。
【画像】一線を画す運転体験 ポルシェ・カイエン GTSクーペ しのぎを削る高級・高性能SUVたち 全151枚
しかし、ポルシェ・カイエンをお考えなら別。ダイナミックな運転体験を叶えた、このモデルのベストはクーペだろう。今回試乗したターボE ハイブリッドやGTSなら、通常のカイエンにはない軽量化パッケージを選べるのも魅力だ。
3代目カイエンは、ポルシェ史上最も広範囲だと主張されるアップデートを受けた。フロントガラスやサスペンションは一新され、パワートレインは強化と高効率化が図られ、ラインナップも変更された。
2026年には、まったく新しいカイエン・エレクトリックが登場予定。それまで、新鮮さを保つことが狙われている。
通常のカイエンとカイエン・クーペは、ハード的には共通。明確に違うのはスタイリングで、全高が20mm低い滑らかなルーフラインを背負う。全長と全幅は、数mm拡大されている。
これにより、見た目の印象にはギュッと締まりがある。BMW X6ほど、個性の強いデザインでもない。ポルシェ・マカンの兄貴分以上といえる、風格を漂わせる。
テールゲートの上部には、ひさしのようなスポイラーが載る。リアガラスの付け根には、90km/h以上で135mm展開される、アクティブスポイラーが仕込まれている。18mm広がったリアアクスルへ、効果的にダウンフォースを加えるという。
テールライトは真一文字。PORSCHEとレタリングされる処理は、最近の流行りだ。
やや狭い車内 全体的な雰囲気は共通
英国仕様のパワートレインは、354psの3.0L V6ガソリンがエントリーユニット。これを主体とするプラグイン・ハイブリッドも2種類ある。4.0L V8には474psと501psの2種類が設けられ、740psのV8プラグイン・ハイブリッドが頂点に据えられる。
共通して、カイエンは電子制御の四輪駆動。サスペンションには、スチールコイルと2バルブのPASMアダプティブダンパーが、多くの標準として組まれる。
車高調整できるエアサスペンションは、トルクベクタリング機能付きのリアデフ、PTVプラスとともに、GTSとターボ E-ハイブリッドの標準。アクティブ・アンチロールバーと後輪操舵システムも選択できる。
カーボンファイバー製ルーフやスポーツエグゾースト、防音材の省略などが主なメニューの軽量化パッケージは、GTSとターボ E-ハイブリッドのオプション。これには、3種類がある。
ドアを開くと、ワゴンボディより高さ方向がやや狭いことへ気づく。とはいえ、ワイドなモニターが仕込まれたダッシュボードなど、全体的な雰囲気は同じ。助手席側モニターの表示は、特殊な加工で運転席からは見えない。
リアシートは、中央に小物入れとカップホルダーが仕込まれ、標準では2名がけ。ただし、無償オプションで3名がけへ変更は可能。30mm低い座面がルーフラインを相殺し、大人でも快適に座れる。
荷室容量は、通常のカイエンは745Lだが、クーペでは625L。後席を折りたためば、1540Lへ拡大できる。ターボ E-ハイブリッドでは、600Lと1510Lへ若干狭まる。
有り余るほどパワフルなV8ツインターボ
内装の素材や品質はトップクラス。高級感に溢れ、弧を描く天井が特別な雰囲気を生み出している。GTSグレードではアルカンターラが奢られ、スポーツシートも組まれる。
ローレット加工されたシフトセレクターは、ダッシュボード側。上がRで下がN、押し込めばDと、操作はわかりやすい。センターコンソールには、ドリンクホルダーとワイヤレス充電パッドが与えられた。
さて、公道へ出てみよう。カイエンのパワートレインは、V6でもV8でも不満ない走りを叶え、幅広いニーズへ応える。
4.0L V8ツインターボの740psのターボ E-ハイブリッドは、間違いなく万能。スポーツクロノとGTパッケージを組めば、0-100km/h加速を3.4秒でこなすという。実際にアクセルペダルを蹴飛ばせば、反社会的な勢いで速度を上昇させていく。
2000rpmから4500rpmで湧出する最大トルクは、81.4kg-mと極太。ドライバーの気持ちを先読みするように動く8速ATと融合し、目的地まで高速・安楽に移動できる。
ただし、必ずしも高額なトップグレードを選ぶ必要はない。GTSに載る、非ハイブリッドのV8エンジンも素晴らしい。粘り強く、有り余るほどパワフルだ。スポーツエグゾーストを組めば、ドラマチックな排気音も響かせる。
V6エンジンのE-ハイブリッドも有能。エンジンとモーターの協調性に優れ、V8へ近い印象を与える。ただし、電気の力でギャップを埋めるとはいえ、トルクバンドはさほど広くない。カイエンとしては、少し物足りなさを感じる場面はあるかもしれない。
多くの高性能SUVとは一線を画す運転体験
乗り心地は、高級SUVの中では硬め。そのかわり、ドライバーとの一体感は高い。グレードによって洗練性はだいぶ異なるが、GTSの豊かなフィードバックは、スポーティさを求める人を喜ばせるだろう。
カイエン・クーペの真価が現れるのは、高い速度域。僅かに全高が低いとはいえ、大柄なボディの質量を殆ど感じさせない。
ターボ E-ハイブリッドの車重は約2.5tあるが、その質量とグリップ力を支配下にした、滑沢で鋭敏な回頭性には舌を巻く。純粋なスポーツカーには及ばないものの、多くの高性能SUVとは一線を画す体験を味わえる。
そんな運転の楽しさは、GTSでも同様。濃密な感覚で、身のこなしは機敏だ。
フロントアクスルを通じ、ステアリングホイールには不足ない情報が伝わり、シャシーはレスポンシブでダイレクト。アクセルペダルを踏み込んだ時のバランスは、後輪駆動のスポーツサルーンに迫る。ここでも、多くのライバルを凌駕する。
アダプティブダンパーは優しく入力を吸収し、落ち着いた乗り心地を保ちつつ、引き締まった姿勢制御も両立。最もハードなモードを選んでも、我慢するほど硬くはならない。路面へ呼吸を合わせるような、好ましいフィーリングがある。
走行中の車内は、GTSやターボ E-ハイブリッドでは、一定のロードノイズが響く。走りとの引き換えに、遮音性は劣る。他方、アルミホイールが小径でサスペンションがソフトなE-ハイブリッドなどの静けさは、レンジローバーへ匹敵する。
速くて豪華な21世紀のグランドツアラー
燃費は、大きなSUVだけに優秀とはいえない。GTSでは、7.8km/Lがうたわれる。V6のE-ハイブリッドが1番良く、カタログ値は66.6km/Lだが、現実的には駆動用バッテリーの充電が切れると約7.0km/Lまで悪化する。こまめな充電が欠かせない。
アップデートを受けたカイエン・クーペ。実際のところ、ワゴンボディのカイエン自体が、多くの上級SUVと比べれば「クーペ」へ近い存在といえた。本当にポルシェが必要とするSUVなのか、今でも疑問がないわけではない。
それでも巧みな改良を重ね、現在のラインナップ下で確固たる地位を築いたことは否定できない。最もダイナミックでスタイリッシュなカイエンをお望みなら、クーペが最適解となるだろう。
乗員空間と荷室は狭まるが、実用性へ大きな影響が及ぶほどではない。最新のカイエンらしい、魅力はしっかり備わる。最高水準のインテリアも魅力だ。
運転体験と普段使いのしやすさ、特別感を叶えた、速くて豪華な21世紀のグランドツアラーが、カイエン・クーペだといえる。アストン マーティンDBXやフェラーリ・プロサングエに劣らない、訴求力があると思う。
◯:内装の質感 最新のデジタル技術 強力で個性のあるV8エンジン プラグインHVでもスムーズ スーパーSUVと評したい操縦性と運転体験
△:やや犠牲になる実用性 GTSでは乗り心地や外界との隔離性 プラグインHVではさほど長く走れないEVモード
ポルシェ・カイエン GTSクーペ(英国仕様)のスペック
英国価格:12万4130ポンド(約2358万円)
全長:4930mm
全幅:1983mm
全高:1678mm
最高速度:275km/h
0-100km/h加速:4.4秒
燃費:7.8km/L
CO2排出量:293g/km
車両重量:2220kg
パワートレイン:V型8気筒3996cc ツイン・ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:501ps/6000rpm
最大トルク:67.2kg-m/2100-4500rpm
ギアボックス:8速オートマティック(四輪駆動)
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みんなのコメント
数年後、激しく値落ちしたのを買ってぶっ飛ばす貧乏人が目に浮かぶわ
やはりポルシェは911以外はねぇ。