日本のモータースポーツ界をさらに活性化させるためには、若く優秀な人材が数多く業界に入ってくることも重要なピースのひとつと言えるが、何せ情報不足の感が否めず、レース業界への就職に関心のある若者にとっては自分が働く姿をイメージしにくいのではないだろうか。
そこで本企画では、業界の“解像度”を高めるべく、レース関係の様々な業種で働く人たちにフォーカスを当てたインタビューを紹介している。今回は、スーパーフォーミュラに参戦するTGM Grand Prixでチーム代表を務める池田和広氏に話を聞いた。
■良くも悪くも自分次第、意志と決断力が高みに連れていく。レースエンジニアの実態をローソン、岩佐と組んだMUGEN小池氏に聞く|モタスポ就職白書
F1雑誌を読んで感じた“憧れ”。やがてメカニックからチーム代表に
国内トップカテゴリーを戦うレーシングチームは、かつてドライバーとして活躍したレジェンドが代表を務めるチームも多いが、池田代表はメカニック出身。レースの世界に飛び込んだのも、10代の頃ふとしたきっかけでF1雑誌を手に取り、“かっこよさ”を感じたからだという。
「私の記憶の中では、本屋で雑誌を見たことなんですよ。1994年のF1開幕直前号だったかな。それまでモータースポーツや車にも興味がなかったんですけど、たまたまそれを見た時に、かっこいいなと思ったんです」
「まだどんなチームかも分からないけど、(雑誌を見ると)カラーリングや選手の顔があって、雰囲気かっこいいな、応援したいなと。それでテレビ中継もやっていたので見たところ、すごい世界だな、かっこいいなと思いました。そういうところがきっかけでしたね」
その後自動車整備の専門学校に入り、メカニックとしてレースの世界に。2004年には、チームゴウのメンバーとしてル・マン24時間レースの総合優勝も経験した。そこからは、レーシングチームのメンテナンスやエンジニアリングを請け負う企業、セルブスジャパンの代表として、スーパーGTやスーパーフォーミュラといった国内トップカテゴリーのチームの実働部隊として、ある意味黒子的な活躍をしてきた。
いわゆる“受け仕事”が主軸ととなっていた中、2022年にはスーパーフォーミュラに新規参戦するTEAM GOHのチーム代表に就任した。ついにチームの舵取りをする立場となったのだ。TEAM GOHとしての活動はその年限りとなったが、翌2023年からは“TGM Grand Prix”として再出発し、チーム代表は池田氏、オペレーションはセルブスジャパンという体制を維持して今に至る。
「当然、受け仕事も素晴らしい仕事なのですが、自分自身でチーム運営をやったらどうなのか、そこはいずれ経験しなければいけないことだと思っていました」
ただTGM Grand Prixとしては、他のチームのように自動車メーカーからのバックアップがあるわけでも、資金的に大きな後ろ盾があるわけでもない。そういった状況下でチームを運営していくのは当然簡単ではないが、その中でも池田代表は挑戦的な試みを続けて話題を提供してきた。
最終的には実現しなかったものの、今シーズンに向けてはF2のタイトルコンテンダーやF1のリザーブドライバーとも参戦交渉していた。また、女性ドライバーJujuの起用は賛否の声もあったとはいえ、大手マスメディアがこぞってサーキットに押し寄せるほど話題を呼んだ。さらには、元F1ドライバーでインディ500覇者の佐藤琢磨の息子・凛太郎を、父がかつて優勝したマカオGPのドライバーとして発表したことも記憶に新しい。
「もちろんビジネスの面もありますが、その反面、自分自身がモータースポーツファンですから。いちファンとして『これ見たいよね』というものは非常に心がけています。だってそれがなかったら、やったってつまらないじゃないですか」
「まだ誰もやっていないこと、こうしたらどうなんだろうとか、これがあったら面白いなとか……そういうことを仕掛けていきたいなと思っています」
“競争”の美しさ
ここまでは池田代表の略歴を紹介したが、話を本題である業界の人材不足に移そう。当然業界としても、新たな人材の採用を行なっていないわけではない。しかしながら、その実情にギャップを感じて退職する者も一定数いる。これは本稿の冒頭でも述べた“情報不足”も一因と言えそうだが、池田代表は、特にエンジニアやメカニックといった技術職は“プレイヤー”的な要素が求められることにギャップを感じるケースが多いのではないかと語った。
このプレイヤー的要素は、以前本企画にご登場いただいたTEAM MUGENの小池智彦エンジニアも言及していた。彼曰く、レースエンジニアは自分の裁量で仕事を決められる点が「楽な点であり大変な点でもある」として、結果を残すにはスポーツ選手のように日頃から鍛錬を積むことが必要になると述べていた。
池田代表はこう語る。
「この業界に入る人たちは、レースの世界で働きたい、という憧れで入る人が多いです。ただ入ったものの、自分にはキツいと思って辞めていくパターンが昔からありますよね。今はどうか分かりませんが、大きくは変わっていないかもしれません」
「ではそういったギャップをどうやって埋めるか……事前に調べたり、インターンシップに参加する(※)などして確かめることも重要だと思います。ただ一般企業とは、少しだけ違うところがあると思っています」
※セルブスジャパンでは11月にエンジニアを目指す学生向けのインターンシップを実施予定
「特に技術者はプレイヤーのような感じなんですよ。 野球選手やサッカー選手のように、技術を身に付けてそれをお金に変えていく仕事ですから、個々の能力がかなり問われます。そこにマニュアルがあって、それを言われた通りにこなせばいいとか、そういうことではないんですよね」
「だからこそ、入ってからもトレーニングや勉強が大事になってきますよね。それがレーシングチームで働くということだと思います。そういうことを入る前に知っているかどうか……その辺のギャップがあると思います」
モータースポーツはチームスポーツとはよく言ったものだが、競争しているのはレーシングドライバーだけではない。エンジニアもメカニックも、日々高め合い、己を磨く必要があるのだ。池田代表は、そういった“競争”の素晴らしさを若い世代に伝えたいという。
「レース屋としては、“競争”というのをテーマにやっています。相手と競って勝ちたいという競争心は常にみんなが持っていますし、競争心があるからこそ、新しい技術、価値観、文化だったりが出てきます。それがなければ発展もないと思います」
「でもそれは、“戦い”とは違うんですよね。戦いというと、人を蹴落とすようなイメージがありますが、相手をリスペクトしながら相手に負けないようにその上を行こうとする……それが競争だと思います」
「その世界観が素晴らしいから、レースをやっています。それをもっと若い人たちにも伝えたいなと思っていますし、それがTGM Grand Prixをやっている意味でもあります」
見据える先は日本にとどまらず。夢は「多くの人と信頼関係を築くこと」
“縁の下の力持ち”から、自社チームTGM Grand Prixとして動き出して2年。セルブスジャパンは、2025年以降にさらなる活動拡大を目指しており、海外レースへの参戦機会増加も目論んでいる。それに伴い、エンジニア、メカニック、アシスタントマネージャーの採用募集を行なっているところだ。
インタビューの最中、筆者に「お金が有り余るほどある時、何がしたいか」と尋ねた池田代表。非常に壮大な質問ということもあり回答に窮してしまったのだが、池田代表は自身の“答え”を明かしてくれた。
「その答えになるものが、自分の真実であったり、この先本当にやりたいことだったりするんじゃないかと思っています」
「その答えは変わっていくものだと思いますが、現状チームのエンジニアやメカニック、そして私も含めて、『強いチームを作って、速いドライバーを乗せて、チャンピオンを獲りたい』と言うと思います」
「でもそれはプレイヤーとしての考えです。私もその考えはなくはないのですが、本当にこの先何がしたいかを考えた時、F1やインディなど、世界のレース村から『日本にはセルブスがある、池田がいる』……そういう風に言われたいと思いました」
「そう言われるというのは、信頼関係ができるということだと思うんです。 そういった信頼関係を、日本だけではなく世界でも築いていきたい。それが1番やりたいことだと思っています。何年にチャンピオンを獲ったということよりも、ひとりでも多くの人と信頼関係ができていく方が、人として生きていて財産というか、幸せだなって」
セルブスジャパンの採用ページには、業務内容な応募資格に加え、具体的な勤務時間や年間休日、想定される給与帯などについても詳細に記載されている。今回は即戦力募集ということもあり、メカニックとエンジニアについては基本的に経験者採用となるが、業界での就職に関心のある方はぜひ目を通していただきたい。
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