新型リーフ テクノロジー詳細解説と魅力探訪 Vol.5
これまで新型リーフについて、技術的な詳細解説や走行性能を体験しての魅力などをお伝えしてきたが、今回は開発責任者にインタビューをし、開発裏話やEVならではの可能性など、わくわくするようなお話を伺った。<レポート:編集部>
第二製品開発部 第三プロジェクト統括グループ DCVEの磯部 博樹さんにお話を伺った。
編集部:2代目のリーフは何を目指して開発したのか?というあたりから伺えますか。
磯部:初代リーフは何といっても電気自動車のパイオニアですから、購入していただけるお客様はいわゆるアーリーアダプターと言われる方たちで、多少の苦労があっても購入して頂ける方たちでした。(笑)しかし、2代目はインフラの充実などもあり、一般の人達に購入してもらわなければいけないというポジショニングで開発が始まりました。
リーフ発売当初は全国で急速充電器は360数か所だったものが、2017年時点で、7200基を超える急速充電器が普及し、200Vの普通充電器を合わせれば2万3000基近くの充電インフラが整備されている。また、テスラやBMWなどからもBEV(バッテリーEV)が発売され始めたこともあり、電気自動車が「特別なクルマ」から、「一般的な普通のクルマ」へとシフトしている過程と言ってもいいだろう。
磯部:一般の方に購入頂くためには、エコカーとしての差別化を明確にしたかったですね。特にクルマの魅力である、走る、曲がる、止まるという部分で他車とは差をつけたいので、ハンドリング、e-pedal、そして動力性能にこだわって開発しました。また、それだけではなく、電気自動車ですから近未来のイメージを保つために、新技術の投入も必要だと考え、それがプロパイロット、プロパイロット・パーキングという新技術を搭載しました。
編:それがハンドリングの良さ、e-pedalでの「ワオ!」体験、中間加速も含む加速の良さ、そして便利な将来の自動運転につながるプロパイロットとなるわけですね。
磯部:はい。プロパイロット・パーキングの搭載を決めたとき、実際の路上や駐車場で、ちゃんと駐車できるのかを検証する必要があり、日本中の駐車場で、駐車が難しそうな場所を探し出し、実際にテストしましたね。地面が白っぽくて、駐車枠の白線が薄くなっていて、しかも地下の薄暗い場所で、切り返しのスペースが狭い、なんてところで試すんです。またプロパイロットは全国の高速道路を走り回る検証もしました。誤認識しないかのテストを実走行でも走りまくりました。
編:しかしこのリーフは国内専用車ではないから、同じソフトで世界中を走ることはできないですよね?
磯部:北米、欧州でも販売しますので、日本でやっている実走テストを海外でも同じようにやりました。左ハンドルですから、その時点でソフトは変更しなければ車線維持しないですから、各国によってソフトも作り分けないとダメです。細かく細かく仕向け地仕様がありますね。
磯部氏の請け負う仕事には、日産自動車の先行開発部隊が開発した技術を、実際の車両に適合させていくというタスクがあり、そのために実走行も多くあったわけだ。アウトバーンでの中間加速は日本より強い加速をするのが一般的だし、加減速のさせ方も国によって変える必要がある。そうしたひとつひとつの要件を潰していくということが必要ということだ。
編:一方で、パッケージに関してはすんなり決まったのでしょうか。
磯部:テーマは走りを磨こう!という狙いがありましたので、バッテリーの容量アップとスペックを上げるという必要性がありました。しかし、プラットフォームの変更はないので、バッテリーの搭載位置は前型と同じ。その中で性能をアップさせていくということでしたから、スペックアップさせるが外寸は同じでなければダメなので、開発メンバーが頑張ったところでもあります。また、シルエットはワイド&ローを目指しますが、ワイドにすると前面投影面積が増えて空気抵抗が増えるので、デザインの落としどころの模索でした。
空気抵抗はガソリン車よりもEV車のほうがその影響が大きい。というのは、ICE(内燃機関)の熱効率は30%から40%程度なのに対しモーターは95%とそもそも高効率。市街地をICEで走行しているときの効率は30%を切るような場面も多くある。しかし、中高速道路では、熱効率のいい回転域で一定運転になったときには、熱効率が最もいいところで走行できるので、燃費がよくなる。だが、EVではそもそも高効率なため、高速走行は単に抵抗が増えて行くだけで、電費は良くならない。そのため車両の空気抵抗は大きく影響してくるわけだ。
磯部:ガソリン車からの乗り換えのお客様は、どうしても電費がよくなることをイメージしますよね。ですから、デザインとフォルムに関しては喧々諤々いろいろやりました。それと音ですよね。エンジンがなくなって走行音だけになりますから、これまで聞こえていたものが、より目立った音として認識されるので、そこも苦労しました。
人の耳は贅沢で、昼間聞こえてた音でも夜の静かな時間になるとその音が目立ち、うるさいと感じる。リーフでも同じことがあり、音対策はEV開発のキーのひとつでもあるというわけだ。
磯部:徹底的に穴、隙を埋める作業もやりましたし、ウインドウからの音には遮音フィルムがラミネートされたガラスを採用しました。また、シートベルトのアンカーには穴が開いてますけど、そこから音がしたりするんです。ですから、その侵入の元となるところに吸音材を入れたりという、音源の探索とその対策作業もやりました。
実際、試乗レポートにもあるように新型リーフの静粛性は高く、誰もが「EVらしい」と感じることだろう。また、それがファーストインプレッションとなることも多いと思う。
■バッテリー容量が最大の難関
編:そうした空力や音対策も大変だったと思いますが、開発目標には走行性能アップというのがありました。そのあたりはどんな工夫をされたのでしょうか?
磯部:BEV車開発の最大の難関かもしれません。それはバッテリー容量を決めることでした。航続距離をどこまでやるか?ということですね。バッテリーを積めば積むほど航続距離は伸びますけど、重くなって価格も上がりますから、新型リーフのサイズとお客様の使い方、値段と重さ、そしてハンドリング要素といったもののバランスの取れたところを探すのが大変でした。
編:そうしたバランスポイントを決め、そしてEVならではなの特徴としてe-Pedalを搭載ということでしょうか。
磯部:これは面白い話があるのですが、北海道の販売店の人達と話をさせてもらった時に、「四駆を出せ、四駆をだせ」と凄く言われていたんですね。「北海道では何が何でも四駆は必要なんだ」と。でもノートでe-powerが出たときに「こんなに走りやすいんだ」という感想を持たれて、そしてリーフのe-pedalを運転してみたら「四駆はいらないよね」って変わるんですよ。それまで凄い勢いでこぶしを振り上げて四駆を出せって言ってた拳を、下げ方が正直わからない、という笑話になってますね。
多くのモータージャーナリストが語るように、e-pedalの雪道走行性能のレベルは高く、雪国であっても日常的に乗るには全く問題なく不満もない。それを北海道のディーラースタッフが実感しているのだから、説得力も高い。
編:そのe-pedalは当初から低μ路を考えての開発だったのですか?
磯部:リーフの目標は走りでしたから、その走りをよくするためという狙いが本当でして、雪上性能はある意味我々も「こんな使い方ができるんだ」という驚きはありました。これはEV車の可能性の高さの一面だと思います。まだまだ、可能性がいっぱいあって、トルクを綿密にコントロールできるということは、非常に広がりのあることだと思います。
編:例えばどんな可能性ですか?
磯部:ICEでは要求トルクに対して、これくらいの燃料を噴射するという信号を出すのですが、そこは推定の残る部分がある制御になります。モーターでは、指示したものが正確に即反応するので、推定はなくなり正確性が増します。そうすると制振制御やコーナリング時のタイヤの使い方など、もっと発展させられますよね。そうすると、運動性能の考え方自体がかわり、乗り心地、使い方、操安性、動力性能といったものへの進化が間違いなくおきます。ですからシャシーへの要求もより高度になり、できなかったことができるようになるというのは、そうしたより高度なものへと変化していくと思います。ですから、EV車生産には容易に他業種から参入でき、個性のない白物家電的にコモデティー化していくという話もありますが、絶対にそうはならないと思います。だって、簡単にEVは造れないですから。動くだけのEVは造れますけど、やはり自動車メーカーが築いてきた知見と経験から得たものがなければ、お客様に納得して頂けるEV車は提供できないと思いますね。
まだまだ、電気自動車は特別なクルマかもしれないが、それは可能性を秘めているという意味で特別だ。インタビューにはなかったが、この先インターネットとの常時接続が普及し、リアルタイムで状況がわかるようになれば、クルマに乗っているときは、スマホが要らないということにもなり、その可能性は限りなく大きいものが存在していることがわかった。
まずは、ディーラーへ行って試乗してみてはいかがだろうか。その魅力はすぐに感じられることは間違いない。
> 特集:新型リーフ テクノロジー詳細解説と魅力探訪
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