日本の高速道路にも120km/h時代がやってきた。
昨年12月22日に新東名の御殿場JCT~浜松いなさJCT間の145kmが上り下り合計完全6車線化となり、最高速が正式に120km/hに引き上げられたのだ。
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国産車も含めて普通乗用車の性能が高くなっていたこともあり、これまでの100km/h制限に疑問の声が高かったのだが、これでやっと海外(特に欧州)並みになったわけだ。
しかし、日本には海外にはない特別なクルマが存在する。そう、それは軽自動車。
その昔、高速道路における軽自動車の最高速は80km/hだったのだが、性能向上により2000年10月より普通車と同じ100km/hに引き上げられ今日に至っている。つまり100km/hになってからすでに20年以上の月日が流れているのだ。
この20年余りの間に軽自動車界に何が起きたのか? というとハイト系、スーパーハイト系といった背の高い軽自動車が大人気。スーパーハイト系軽自動車で120km/hは大丈夫なのか?
さっそく三菱eKスペース&eKクロススペースの2台で走ってみることにした。
●今回検証した7つのポイント
・「ハンドリング」はどう変わる?
・「クルマの挙動」はどう変わる?
・「加速性能」はどう変わる?
・「乗り心地」はどう変わる?
・「ADAS(運転支援機能)」はどう変わる?
・「室内騒音」はどう変わる?
・「燃費」はどう変わる?
※本稿は2021年2月のものです
文/松田秀士 写真/ベストカー編集部 撮影/佐藤正勝
初出:『ベストカー』 2021年3月26日号
【画像ギャラリー】軽自動車は高速道路120km/h時代を生き抜けるのか? 実験の様子をギャラリーでチェック!
■三菱eKスペースとeKクロススペースでテスト!
三菱eKスペース(NA・FF)&eKクロススペース(ターボ・4WD)でテスト!
●三菱 eKスペース(グレード:G/154万2200円)
・駆動方式:FF
・車重:950kg
・エンジン形式:直4DOHC
・総排気量:659cc
・最高出力:52ps/6400rpm
・最大トルク:6.1kgm/3600rpm
・WLTC高速道路モード燃費:21.0km/L
・タイヤサイズ:155/65R14
●三菱 eKクロススペース(グレード:T/199万1000円)
・駆動方式:4WD
・車重:1030kg
・エンジン形式:直4DOHCターボ
・総排気量:659cc
・最高出力:64ps/5600rpm
・最大トルク:10.2kgm/2400~4000rpm
・WLTC高速道路モード燃費:16.5km/L
・タイヤサイズ:165/55R16
■「ハンドリング」はどう変わる?
高速道路120km/h時代における軽自動車のハンドリングで重要なことはまず直進性だ。テスト車はeKスペースがFFで全高が1780mm。eKクロススペースは4WDで全高が1800mmだ。そのほかの全長/全幅/ホイールベースは同じ。
当日は風が非常に強く影響を受けやすい。ただ新東名は全線にわたって山から降りてくるからっ風が恒常的にあるとのこと。つまり横風だ。背の高い2台にどのような影響があるのだろう?
今回はターボ対NAではなく、それぞれが100km/hと120km/hでどう変わるかがテーマ。スピードが上がるほど直進安定性がシビアになる
まずeKクロススペースから始めよう。
80km/hレベルでの自立直進性はまったく問題がなく、ステアリングもしっかりとニュートラル域の落ち着き感が高い。横風や路面の凹凸による外乱にもそれほど影響される様子はなく直進性は保たれる。100km/h に上げても大きな変化はない。
ただしこの速度になると大型トラックを追い越す機会が増えるのだが、追い越した瞬間に横風を受けて少しフラつく。
注目の120km/hだが、基本的に直進性はしっかり保たれている。ただ横風を受けた時や大型トラックの追い越しでフラつきが大きくなる。ステアリングをしっかり保っていれば問題ないが。
軽自動車だけではないが、横風とトラックなどの大型車を追い越す時が、直進安定性を乱す2大要因となる。なお、横風の影響が少ないトンネル内での直進性はNA、ターボともに不満なし
次にeKスペースはどうか? 80km/hでは同じように安定感もステアリングの座りも問題ナシ。ただし100km/h、120km/hと速度を上げていくにつれ前記2つの外乱に対してフラつきが大きくなる。
特に120km/hでの横風に対してはかなりシビアな状態になった。
eKクロススペースのほうが車高が高いのに安定していたのは、4WDのためリアサスがトルクアーム式3リンクであることが直進性に影響したのではないかと考えられる。
■「クルマの挙動」はどう変わる?
ボクはもともとレーシングドライバーだ。さまざまなレーシングカーでレースをしてきたけれども、直進性が悪いマシンでコーナリングがよかった試しがない。
直進性が安定しているクルマほど鈴鹿130R(高速コーナー)には思い切って飛び込める。
前項で述べたように直進性とクルマの挙動には密接な関係があるのだ。
実際にeKスペースよりもeKクロススペースのほうがより安定した挙動を示した。タイヤスペックの違い、4WDかFFか、リアサスのスペック違いといったメカニズムの違いによる走行性能に明らかな差が出たわけだ。
新東名は120km/h想定に合わせてキツいコーナーはない。問題は強い横風時の緩いコーナーで、しかも下り坂。
eKスペースのFFでは80~100km/hに落とすべきだろう。eKクロススペース4WDならそれほど大きな不安はないだろう。
最後に挙動で問題となるのがレーンチェンジ。操舵時、リアを軸にしてフロントのロール感が大きいが、両車とも非常に挙動は穏やかで安定性が高い。
それでもやはりレーンチェンジ後のロールの収束、レーンチェンジ中のステアリングへの反応、すべてのプロセスにおいてeKクロススペース(4WD)のほうが安定・安心感が高かった。
圧倒的人気のスーパーハイトワゴン軽自動車は、車種に関係なく高速走行時は横風に要注意!
■「加速性能」はどう変わる?
高速道路における加速性能は「積極安全性」という見地からとても重要。スーパーGTレースでは、GT300とGT500が絡む事故がある。プロのレーシングドライバーでも性能差に起因する事故を起こす。もちろんお互いが競争しているからなのだが。
軽自動車の場合、特に今回のようなスーパーハイト系車両にとって加速性能は安全のために重要なのである。
今回eKクロススペースはターボだ。SAを出て加速しながら本線に合流、そこから120km/hまでの時間を見ていただきたい。
加速性能 ※2名乗車で計測
もちろん明らかにターボが速いのだが、ターボといえども100→120km/hへの加速は100km/hまでの加速感に比べてグンと先細りする。実用性重視の低中速にシフトしたターボだからだろう。
とはいえ、NAのeKスペースはターボに比べさらに6秒強の時間を要している。
ただ、100km/hまでの加速でもそれなりに時間を要しているので、120km/hまでの到達時間がそれほどストレスにならない。
一度速度が乗ってしまえばいいが、他車との加速度差は大きいので注意も必要だ。
パワフルなターボの加速性能に不満はないが、120km/hまでとなるとそれなりに時間はかかる。だが、ストレスはない
■「乗り心地」はどう変わる?
運転席、リアシートの乗り心地を比べてみた。
まず両車とも前席での乗り心地に100km/h、120km/hでの大きな差はない。
運転席における乗り心地のなかで重要なのは「ピッチング」と「バウンシング」だ。
この両車はともよく似た挙動だが、ピッチングは細かく収まりが早い。対してバウンシングは上下動が大きく収まりが遅い。同じ上下動でもこういった違いがある。
バウンシングが収まらない時にレーンチェンジなどすると、ホイールトラベルとのシンクロによって思わぬ危険を招くことがある。特にスーパーハイト系では重心高が高いからこの点に気を付けたい。
バウンシングが収まらない時にレーンチェンジをすると挙動が大きく乱れることがある
この点、今回テストしたeKスペース&eKクロススペースの両モデルとも、乗り心地を考慮したホイールトラベル初期のスムーズなサスにより、100km/h、120km/hともバウンシングはよく抑えられていてた。
いっぽう、後席では「ハーシュ」と呼ばれる突き上げ感や、路面の繋ぎ目でのタップ感(叩く)に注意したい。リアシートの乗り心地は乗員にとっては非常に重要だ。
100km/hの時と比べると120km/hではリアシートでバウンシングを感じるケースが増える
両車ともシートはほぼ同じ。
eKスペースは突き上げやタップ感はそれほどではないが、120km/hではバウンシングを少し感じた。バウンシング時に横風を受けて、風の強い日に航空機の後部席に座った時のような左右への揺さぶりを感じた。
これに対してeKクロススペースは揺さぶられ方も少なく安心感が高い。120km/hになると逆突き上げやタップ感は大きくなるのだが、シート座面のクッション性がフォローしていた。
ターボとNAでサスペンションを変更しているモデルはないが、各メーカーともFFと4WDではリアサスを変更。スーパーハイトワゴン軽自動車のサスペンションは表のとおり。ちなみにフロントは全車ストラット
■「ADAS(運転支援機能)」はどう変わる?
今回試乗した2台にはADAS(運転支援機能)のマイパイロットが装備されていた。
これは先行車との車間を維持しながら追従するACC(アダプティブクルーズコントロール)とセットで、車線内のセンター(中央維持)走行をアシストするLKA(レーンキープアシスト)機能。
先行車両がいない場合はACCでセットした速度を維持してLKAが中央維持をサポートする。ただし2台ともマイパイロットで設定できる最高速は115km/hだった。
eKシリーズはACCをセットできる上限速度は115km/h。高速道路での運転時の疲労軽減に大きく貢献
そこでLKA(マイパイロット)オンとオフでの直進性を比較。今回横風が強かったこともありその結果は興味深いものとなった。
横風に弱かったeKスペースでも100km/h、115km/hでのマイパイロット走行では横風を受けても瞬間的な乱れは起こすがすぐに立て直ししっかり直進する。大型トラック追い越しでも同様。
eKクロススペースは安定性が高いのだがマイパイロットをオンでさらに安心だ。
ターボ、NAともマイパイロットをセットすることでクルマの挙動が安定するので絶対オススメ
■「室内騒音」はどう変わる?
室内騒音は、運転席と助手席の中間ポイントのダッシュボード上10cmの位置で、10秒間の平均値、最大値、最小値を測定。
室内騒音の測定値
かつて軽自動車のNAエンジンと言えば、高速道路を走るとワンワン唸って不快指数が高かったが、今回のテスト車はターボ、NAとも会話も困難なくできるレベル。
表の中で最大値となっているのは、路面のつなぎ目などを走行した時のものだ。
エンジンそのものの進化に加えて遮音材などによるものと思われる。
当然ながら速度を上げれば室内の騒音は大きくなるが、ともに合格点。軽自動車の進化を実感した。
■「燃費」はどう変わる?
軽自動車はコンパクトカーと遜色ない性能、快適性を持つようになったが、顕著に違うのが高速燃費だ。
テスト結果は下表のとおり。
燃費テスト結果表
今回NAは100km/h走行時が10,5km/Lに対し、120km/h走行時は8.2km/Lで、高速道路モード燃費に対する達成率はそれぞれ50%、39%となった。
いっぽうターボは絶対燃費、カタログ燃費に対する達成率ともNAを凌駕。これはターボパワーによる余裕だが、ともにこんなに燃費悪い? と感じるレベルの厳しい結果となった。
しかしカタログの高速燃費モードは平均速度56.7km/h(最高速度97.4km/h)の状態で測定していることを考えると、当然の結果だろう。いや、充分健闘していると言っていいだろう。
NAの場合、120km/hで走るにはほぼ全開にしなければいけないため、燃費の悪化を防ぐのは難しい。燃費を悪化させたくなければ、80~100km/hでの走行がオススメ。
最後になるが、軽自動車はガソリンタンク容量が小さいため、120km/h走行を延々と続けると、給油頻度は確実に増えると認識しておこう。
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