いつのまにか朝晩肌寒くなって、秋の雰囲気がでてきました。秋といえば運動会。ベストカーでは、軽ハイトワゴンを集めて秋の大運動会を開催!
どちらかといえば軽ハイトワゴンは実用性最重視のカテゴリーですが、今回は運動性能の優劣を競います。
ワクワクしない!? 初代が偉大過ぎた!? ホンダNSXは輝きを失ったのか?
舞台は富士スピードウェイのジムカーナ場。参戦するのはN-BOX、スペーシア、タントの3車ですべてカスタム系のターボモデル。参考比較車として背の低い軽自動車のN-ONEとリッターカーのトールも用意。
ドライバーには全日本ジムカーナで活躍中の大井貴之氏を起用。仕様変更直前のタイミングとなったデイズルークス&eKスペースをのぞく、軽ハイトワゴン3車+参考モデル2車で短距離走から燃費競争まで、5つの種目を行います!
※本稿は2018年5月のものです
※採点は1位10点、2位6点、3位3点とし、それに加えて10点満点でドライバー大井貴之の評価点も加えます。順位の対象とするのは軽ハイトワゴン3車のみとなります
文:大井貴之、ベストカー編集部/写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2018年6月26日号
【大運動会 エントリーカーリスト】
●ホンダ N-BOXカスタム G・Lターボ ホンダセンシング
【価格197万6400円】全高1790mm、ホイールベース2520mm、車重930kg。直3ターボは64ps/10.6kgmで、エントリー3車のなかで最大トルクが最も大きい。
●スズキ スペーシアカスタム ハイブリッドXSターボ 全方位モニター用カメラパッケージ
【価格178万7400円】全高1785mm、ホイールベース2460mm、車重900kg。直3ターボは64ps/10.0kgmで、これに3.1psのモーターアシストが付く。
●ダイハツ タントカスタムRS “トップエディション” SA3
【価格162万円】全高1750mm、ホイールベース2455mm、車重960kg。直3ターボは64ps/9.4kgmで、3車で最もサイズが小さく重く、最大トルクも小さいが、安い
●【特別参加/背の低い軽カー】ホンダ N-ONE RSターボ
【価格180万2520円】全高1545mm、車重860kgの低さと軽さで走りはどう変わるか?
●【特別参加/リッターカー】ダイハツ トール カスタムGターボ “SA3”
【価格196万5600円】98ps/14.3kgmの1Lターボ搭載。軽自動車との“差”はどうだ?
【種目1】 短距離走(0~70km/h 加速タイム競争)
まずは運動会の華「短距離走」からスタート! 正確無比な計測器、デジスパイスを使って0~70km/h加速のタイムを競う。70km/hという速度は会場の関係でそれ以上出せない事情もあるけど、ふつうに使っている時に大切な速度域を想定したものでもある。
さすがに3車ともにサイズ、排気量、最高出力の上限(64ps)などかぎられた枠のなかで競っているだけにタイム差はわずかなものだったが、No.1はN-BOXとなった。
●大井貴之の評価
N-BOXがNo.1となった発進加速テストだが、そのデータは全車8秒台。一番速かったN-BOXと一番遅かったスペーシアの差を比べてもたったの0.459秒。ほとんど似たようなものだと言うこともできるが、ドライバーが感じた加速感にはけっこうな違いがあった。
N-BOXの加速はモリモリ系。タントはスルスル系。スペーシアはスイスイ系。理解してください(笑)。というのも難しいのでモリモリ系から説明すると、N-BOXはライバルに比べて最大トルクが大きい。タントの9.4kgm、スペーシアの10.0kgmに対し、N-BOXは10.6kgm。しかも最大トルクの発生回転数が問題。タントの3200rpm、スペーシアの3000rpmに対し、N-BOXは2600rpmと最も低い。この差はデカイね。
特に2300~3800rpmあたりの加速は660ccとは思えないモリモリ系。2番手のタントはCVTが頑張った感じ。力強さは感じないのだが、スルスルッとスピードが乗っていくのだ。
そして車重900kgと一番軽いのにビリになってしまったスペーシアだが、この結果についてはドライバーとして謝罪しなければならない。というのは、ハイブリッドの電池マークが1個のタイミングでテストしてしまったのだ。
あとで気づいたのだが、電池マークが3個のフル充電では出足が違う。テスト前にちょっとアイドリングしておくだけでよかったはずなのだが、気づかなかった。というわけで、この結果。電池がフルならN-BOXに迫る(上回ることはない)結果になったに違いない。
参考としてテストしたN-BOXは、N-BOXと同じエンジンを100kg軽い車体に搭載しているだけあって、圧倒的な速さ。1100kgもあるトールはかろうじてトップタイムをマークしたが、50km/hを過ぎたあたりから1Lターボのパワーを発揮! もしこのテストが100km/hまでの加速とか4人乗車のテストだったら、もっと大きな差をつけたに違いない。
【種目2】 停止力競争(70~0km/h 停止タイム競争)
続いてはブレーキ性能を競う「停止力競争」。短距離走とは逆に、70km/hから完全停止するまでのタイムを競う。もちろん、短い時間で止まれるクルマが優秀となる。
計測はデジスパイスに任せているので、担当、紅白帽をかぶって応援しているだけだが、意外とクルマの挙動に違いがあって、N-BOXのノーズダイブがかなり派手。唯一1秒台を叩き出した結果を見ても、かなり強烈な制動力を発揮しているようだった。
●大井貴之の評価
フル制動は70km/hから行った。結果、No.1はまたしてもN-BOX。このテストにおいては100kg車重が軽いN-ONEよりも短い距離で制動を終えた。制動をタイムで見せられてもわかりにくいと思うが、距離ではNo.1のN-BOXが約20mで、タントとスペーシアが約22mといったところ。テストは各車1回ずつなので、ほぼ同等。誤差範囲と言われてしまいそうだが、制動フィールについては意外なほどの差を感じた。
それを感じたのはN-BOX。ブレーキペダルを踏んだオレ自身がビックリするほどの制動。というか、他車に比べて速い踏力を入れた時にブレーキアシストが強烈に効く。とにかく短い距離で止めてやるぜ! と言わんばかりの制動。
短く止まれることは大切だが、ドライバーとしては止まる以外の選択肢を選びにくい状態。まあ、この手のクルマのユーザーを考えたら問答無用に止めることが大切なのかもしれないが、ちょっと割り切りすぎというか、数字を狙いすぎているようにも感じてしまった。
【種目3】 回転力(定常円旋回 最高速競争)
背が高く、幅が狭い軽ハイトワゴンだけにタイトなコーナリングは苦手そう。ここでは20R(半径20m)と5R(半径5m)の定常円を何km/hで回れるかの「回転力」を競った。斜めになりながら苦しそうに回転するクルマの速度をスピードガンで測り、順位を付けた。
結果は20Rでは3車ともに46km/hで横並びとなったが、5Rでは1km/hずつ1位から3位まで差がついた。No,1のタントは、5Rで背の低いN-ONEと同じ速度という健闘ぶりだった。
●大井貴之の評価
定常円旋回は非常にタイトな5Rと20Rの2種類でテストを行った。車幅より全高が長い背高のっぽの3台だけに、特にドライバーがアウト側になる左旋回では転倒する可能性も充分考えられると注意して走行した。結果、右回りと左回りではロールの度合いこそ違いを感じたものの、転倒の危険を感じるクルマは1台もなかった。もちろん、イン側にサーキットのエンセキのような突起があったら相当危険だと思うが。
テスト結果は、20Rについては3車とも46km/hだったが、タイトな5RではタントがNo.1。これまでのテストでは負け知らずだったN-BOXが最下位に終わった。その理由は、サスペンションのチューニング。
No.1だったタントはタイヤのグリップ状態がわかりやすくドライバーに伝わってくる。ワーストのN-BOXはその逆。20Rの旋回スピードは結果的に同等だったが、ドライバー的にはタントとスペーシアがほぼ同等で、N-BOXのコントロール性は劣っていた。
具体的に言うと、N-BOXは乗り心地向上のためにサスペンションのマウント系が相当ソフトに作られている印象。それが大荷重のコーナリングとなると、タイヤからドライバーへの情報を曖昧にしてしまう傾向にある。
ブレーキの話と同じで、この手のクルマのユーザーがインフォメーションを大切にドライブする可能性はないという前提なのかもしれない。
【種目4】 迷路全開競争(ジムカーナタイムアタック)
いよいよ大運動会のメインイベント、ジムカーナタイムアタックの時間がやってきた。おそらくN-BOX、スペーシア、タントの3車でジムカーナ対決をしたメディアは今までなかっただろう。やらないほうが普通だが、なんでも「初」というのは気分がいいもんだ。
パワー、ブレーキ、限界性能、ハンドリング、コントロール性など総合的な運動性能が問われるこの種目でNo.1になるのは名誉なことだが、みごとその座を奪ったのはスペーシア。なぜ勝てたのか。タイムもさることながら、意外に違いがあった3車の走りを大井貴之が評価する。
●大井貴之の評価
さあ、ジムカーナテスト。スタートからは100m以上のフル加速。そこからフルブレーキしてUターンから15m間隔のスラローム。そこから5Rを回り、20R、そして5Rと8の字旋回。立ち上がってフル加速でクリアできるS字コーナーから180度方向転換。最後はレーンチェンジ直後に停止するというレイアウト。
総合的な運動性能が問われるこのテストでトップタイムをマークしたのは、スペーシア。0.227秒差の2番手がN-BOX。3番手のタントは、そこから0.806秒遅れの1分8秒734という結果だった。
その内容はデジスパイスデータを見ると一目瞭然。ハンドリングを武器に逃げるスペーシアをN-BOXがパワーで追いかけるといったもの。後れを取ってしまったタントだが、5Rの立ち上がりでアクセルが反応しなくなり大きなタイムロス。そのもたつきさえなければ3台が僅差のタイムだったに違いない。
このタイムは全車トラコンOFFでのもの(ONより速かった)だが、タントだけは最初のフルブレーキングからスラロームに入った時点でトラコンが復帰してしまう。5R立ち上がりのもたつきも「危険を察知!」というヤツかもしれない。
ドライバーとして感じた操りやすさは、スペーシアがNo.1。定常円旋回のパートではタントが最もコントロールしやすかった。
それに対し、N-BOXはステア操作に対する応答が常にマイルドで、タイヤのグリップ状態もイマイチ把握しにくかったというのが正直な感想。
【種目5】 燃費対決(休日ドライブ想定実燃費競争)
東京都文京区のベストカー編集部から大運動会の舞台となった富士スピードウェイ(静岡県)までの約115kmで実燃費を計測。高速道路がメインの休日ドライブ的なコースだ。
ここでの順位は1位 タント 18.8km/L、2位 スペーシア 18.6km/L、3位 N-BOX 18.0km/Lとなったが、タントとスペーシアは誤差の範囲で同じ、少しだけ離れてN-BOXというのがテストした実感。参考として同行したN-ONEが20.1km/Lをマークし、軽量で空気抵抗も少ない背の低い軽自動車の優位性が明らかにもなった。
1Lターボのトールは17.0km/Lで差がついたが、それでもこの数字は立派なもの。軽ハイトワゴンたちとの燃費の差をどう考えるかは個人差がありそうだ。
テスター大井氏によると、軽ハイトワゴンは3車とも運転姿勢に難があり、特にタントはよくなくて非常に疲れるとのこと。
3車ともステアリングを上下に動かせるチルト機構はあるのだが、それだけでなく前後にも動かせるテレスコピック機構を付けてほしいところだ。運転姿勢、大事だからね。
【結果発表】 得点1位のタントカスタムを大逆転して優勝はスペーシアカスタム!!
大運動会全種目の順位点と評価点を合計した結果はこうなった。
【1位】タント 76点
【2位】N-BOX 72点
【3位】スペーシア 69点
動力性能、制動力、コーナリングの限界性能、ジムカーナでの運動性能に燃費まで入れた結果だから、タントの1位は立派。
しかし! ドライバーが感じ取るフィーリングも大切ということで、テスター大井貴之はこの点数とは別の結論を出したのだった!
●大井貴之の結論
点数ではタントが優勝! となったが、ドライバーとして運動会の順位を決めるとしたらスペーシアがNo.1。僅差の2番手がタントで、N-BOXは3番手と変わる。というのが富士スピードウェイのジムカーナ場でテストした結果で、タントも運動性能では悪くなかった。
しかし、一般道や荒れた路面での乗り心地や余裕のあるパワー、そしてドライビングポジションなどを含めた総合評価ではN-BOXをNo.1としたい。
それと比べてしまうとスペーシアは2番手。ボディ剛性、ドライビングポジション、シートの出来などを評価項目に加えてしまうとタントは3番手。ライバルに比べて設計が古いのが差として表われているのかもしれない。
すべての種目を終え、スタッフがパイロンの片付けをしている時間にもう1種目、勝手にワインディング試乗を行ったのだが、それも加味するとN-BOXがトップなのだ。N-BOXの総合力の高さはずば抜けている。
とはいえ今回は運動会。事情があって背高のっぽの軽ワゴンを選ばなければならないものの、スポーティなハンドリングは捨てられない! という読者のための企画。
とすれば、お薦めNo.1はスペーシアでキマリ! 乗り心地を重視したN-BOXは運動性能でスペーシア、タントに劣る。
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