ホセ・マリア・ロペスは、かつてWTCC(世界ツーリングカー選手権)で3年連続世界王者に輝き、その後WEC(世界耐久選手権)でトヨタのドライバーとして7年間トップカテゴリーで活躍。2021年には小林可夢偉、マイク・コンウェイとともにル・マン24時間を制覇した。
そのロペスは、今シーズンから新設されたWEC LMGT3クラスで、アコーディスASPチームの87号車レクサス RC F GT3をドライブしている。再びツーリングカーの世界に戻ってきた『陽気なアルゼンチン人』に、WEC富士6時間で話を聞いた。
血も涙もない三者三様の悲劇。地元富士で奮闘も、報われなかったLMGT3日本勢/WEC富士
■0.1秒遅くても“アマチュア優先”
──LMGT3はプロドライバーだけでなく、アマチュアに相当するブロンズ・ドライバーとも一緒に組んで走るカテゴリーですが、ここまで戦ってきてどのように感じていますか?
ホセ・マリア・ロペス(以下、ロペス):LMGT3には多くのブランドのクルマが参戦しているし、ドライバーのレベルも全体的に高く非常にコンペティティブだ。プロのドライバーはもちろん、アマチュアにも速いドライバーは多くいる。それでも、やはりレベル差はあるし、アマチュアが走るスティントでいかにタイムロスを少なくできるかが重要になる。アマチュアのレベルが勝敗の鍵を握っているとも言えるね。
──仕事の進め方も異なりますか?
ロペス:チームメイトがプロならば、多くを話す必要はない。彼らはどのように走ればいいのか、何をするべきか理解しているからね。でも、アマチュアと仕事をうまく進めるためには、コミュニケーションをより密にとり、情報の共有を確認し、アドバイスを多く提供する必要がある。走行データの読み取り方やエンジニアとのやりとりなどを、分かりやすく翻訳して伝えることも自分たちプロの役目だ。
──クルマのセッティング面についてはどうでしょうか?
ロペス:やはり、ある程度妥協する必要はある。自分たちが乗って0.1秒遅かったとしても、アマチュアがミスなく自信を持って走り続けられるようなセッティングのほうがいい。週末にかけてタイムを上げていく過程を見るのは楽しいし、やり甲斐を感じているよ。
──87号車のブロンズドライバーは、日本人の木村武史選手ですね。
ロペス:木村さんはとてもいい男だし、仕事もしやすい。アマチュアとしてはミスも少ないと思うし、自分のスティントをちゃんと走り切ってくれるから信頼してステアリングを任せられる。基本設計が古いクルマだから運転は簡単ではなく、彼にとっては難しく感じる部分も多いと思うけど、できる限りのサポートを行い、チーム全体のレベルが上がるように心がけている。
みんな知っているように僕はオモシロイ男だし(笑)、常に周囲を笑わせようとしている。だから、きっと木村さんも楽しんでくれていると思うよ。
■RC Fの強みは『セッティングの自由度』
──ここまでのところ、レクサスRC F GT3は2台とも厳しい戦いが続いています。
ロペス:WECに関しては初年度だし、新しいクルマをWECのBoP(性能調整)ウインドウの中でうまく機能させることは難しいから、プロジェクトが始まる前から簡単には行かないだろうと覚悟していた。
そもそも、(量産のRC Fが)デビューしてから約10年という古いクルマだし、技術の進化は速いから、設計が新しいクルマはより大きなポテンシャルを持っている。RC F GT3はアメリカ(IMSAウェザーテック・スポーツカー選手権)では活躍しているけど、それはレギュレーションが異なるからで、より多くのダウンフォースを得られているだろうし、重量面のハンデも少ないはずだ。WECではもっとも最低重量が重いクルマなので、どうしても不利になってしまう。
──主にどの部分で苦戦しているのでしょうか?
ロペス:現時点ではアンダーステアが最大の問題点で、どうしてもフロントタイヤの温度が上がりやすい。だから、レースではタイヤのマネジメントがとにかく重要で、コンスタントに2スティントを走ることが課題だ。
とはいえシングルメイクのグッドイヤー・タイヤは非常にうまく機能していると思う。最初にグッドイヤーを履いて走った時から印象はとても良かったし、特にウエット性能の高さと、ウォームアップの良さは素晴らしいと思う。タイヤそれ自体に関しては何ひとつネガティブな要素はないが、このクルマでタイヤの性能をフルに引き出すためには、フロントのグリップを高めるセッティングと、アンダーステアを出さないようなドライビングが必要だ。
──では、RC F GT3がライバルに勝っている点はありますか?
ロペス:もちろん! 一番の強みはトップスピードが伸びることだね。そして、セッティングの自由度も高い。現在のLMGT3は以前のGT3と比べるとカスタマーカーの側面が強く、調整できる要素が限られている。でも、約10年前に設計されたRC Fは、その点でより幅広いセッティングに対応できるようにデザインされいる。いろいろなことを試す余地が残されているのは、自分たちクルマの強みのひとつだ。
──RC F GT3ともっとも相性が良いのは、どのサーキットでしょうか?
ロペス:ここまでのところ、もっとも合っていたのはトップスピードの高さが活きたル・マンだった。富士もストレートが長いのでトップスピードという点ではメリットがあるけれど、ツイスティなセクター3は正直あまり合っていない。あの区間ではフロントのグリップと、トラクションが重要だからね。このLMGT3プロジェクトはまだ始まったばかりだし、人生と同じように少しばかり忍耐が必要だ。
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インタビュー後編(近日公開予定)では、昨年ハイパーカーのシートを失った際の心境、そして急遽『代役復活』を遂げ2位獲得に貢献した今年のル・マン24時間レースでのパフォーマンスなどについて聞く。
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