■その歴史は軍用車からはじまった
2020年10月に突然発表されたGMC新型「ハマーEV」。2021年12月には最初のハマーEVが生産ラインを離れ、まもなくユーザーへ納車されるというリリースが発表されています。
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その車名にもあるように、ハマーEVは電気自動車(フルEV)であることが大きな特徴です。そこで今回は、歴代「ハマー」を振り返りつつ、なぜEVとして復活したのかを考察したいと思います。
ハマーEVのルーツといえる最初の「ハマー」は、当然ながらEVでもなく、さらにいえばGM製でもありませんでした。
そのルーツとなるのは、AMゼネラル社が生産していた軍用の汎用4輪駆動車です。
正式名称は高機動多用途装輪車両(High Mobility Multipurpose Wheeled Vehicle=HMMWV)で、その頭文字から「ハンヴィー」の愛称で呼ばれていました。
ハンヴィーは1980年代に採用が始まり、1991年から始まった湾岸戦争で活躍する姿がメディアを通じて世界中に知られることになります。そのハンヴィーの民間向けバージョンとして、1992年に発売されたのが初代ハマーでした。
その民生版の誕生には、俳優であり政治家であった、アーノルド・シュワルツェネッガー氏が大いに関わったといいます。
その初代ハマーは、もともとが軍用車であるため、全幅は約2.2mにも達する巨体です。しかし初代ハマーは、乗用車とは異なる出自もあって一部のファンに熱狂的に支持されました。
それを見たGMが、1999年にハマーブランドの販売権を入手。生産はAMゼネラルが継続しつつも、GMのディーラーで「ハマーH1」の名称で販売されることになったのです。
2002年には第2世代となる「ハマーH2」が誕生。開発と生産はGMが担当することになり、GMのSUVであるシボレー「タホ」がベースとなりました。ハマーH2からは軍用車であるハンヴィーとの技術的な関係はなくなり、その雰囲気を伝える高級SUVとしてのデビューとなりました。
ハマーH2は6リッターのV型8気筒エンジンを搭載し、全幅は2m越えであったものの、軍用車ではなく乗用車をベースにしたことで日常の使い勝手は向上。高級SUVとして、アメリカだけでなく世界各国でも人気となりました。このモデルは日本では2004年より三井物産オートモーティブが取り扱っています。
また、アメリカではピックアップトラック版「H2 SUT」も販売されました。
2006年には第3世代の「ハマーH3」が登場。デザインはハンヴィーのイメージを色濃く残しつつも、ハマーH2よりも小さくなったことが大きな特徴で、このモデルも日本では三井物産オートモーティブが輸入販売しました。
ベースはハマーH2と同様に、GMのSUV/ピックアップトラックを利用。全長は5mを切り、全幅も2mを切って、一般的なSUVといえる寸法に収まっています。エンジンは、当初、3.5リッターの直列5気筒エンジンを採用しましたが、後に5.3リッターV8エンジンも使われるようになります。
また、ピックアップトラック版「H3T」も2008年に登場。しかし、ハマーシリーズは2010年に生産終了し、そこからハマーEVが登場するまで、約10年の休眠状態になりました。
■ハマーがEVで復活した理由とは?
市場からのラブコールによって生まれ、代を重ねつつも、ルーツとなる軍用車のイメージを守り続けたというのがハマーの歴史です。
「戦場を駆け回る軍用車を自分の愛車にできる!」という、ハマーの名が持つイメージは強烈で、同じ軍用車にルーツを持つ「ジープ」と同様、そのブランド的な価値は大きいといえます。昨今の世界的なSUVブームのなか、そうしたブランド価値を使わない手はないというのが、ハマー復活のひとつの理由といえるでしょう。
また、米国におけるピックアップトラックの存在感が、日本人には理解しにくいほど大きいのが、まずはピックアップトラックとしてのハマー復活の理由となります。
米国で、過去40年近くにわたってもっとも数多く売れているクルマは、フォードのピックアップトラック「F1500シリーズ」です。
驚くのは、乗用車も合わせてのランキングでも、ピックアップトラックのF1500がトップに君臨し続けていること。当然、車両価格も高いのですが、高いクルマが一番多く売れるため、ビジネス面での旨味も当然大きくなります。これもハマー復活の理由のひとつといえます。
そして最後は、環境問題に対する対応です。
巨大なピックアップトラックは、当然のように燃費性能が悪いのですが、環境対策のためにCO2排出量の削減は世界的な使命となっています。
そこで導き出された対策が電動化。しかも、完全なるEVであれば、CO2排出量をゼロにできます。
GMは自社開発の新型バッテリー「アルティウム」と次世代グローバルEVプラットフォームを開発しています。
これは、前輪駆動の乗用車から後輪駆動車、4WD車まで幅広い車種に対応できるというフレキシブルな技術です。これまで独自にEVを開発していたホンダが、GMと北米におけるEVプラットフォーム戦略を提携したのも、このアルティウム&グローバルEVプラットフォーム技術があったからに違いありません。
つまり、ハマーEVは、EVとしての技術的な土台が先に出来上がっており、その展開のひとつとして選ばれたのではないでしょうか。ハマーが先ではなく、EV技術が先というわけです。
そういう意味でハマーEVが、EVとして登場したのは、ごく当然のことだったのでしょう。
逆に、純粋なる内燃機関の巨大SUVやピックアップトラックは、この先、生存が厳しくなる一方です。今後はハイブリッドから、プラグインハイブリッド、そしてEVという進化が必須となっていきます。ならば、一足飛びに、最初からEVとして開発してしまおうというGMの考えも理解できるのはないでしょうか。
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