トヨタは2018年の東京オートサロンで、ル・マンのハイパーカーの市販モデルである「GRスーパースポーツ(仮称)」のプロトタイプを初公開した。それから約2年9カ月。TOYOTA GAZOO Racing(トヨタ・ガズー・レーシング)の公式Twitterで、2021年1月11日に「GRハイパースポーツ」を発表すると公表された。
東京オートサロン2018で世界初公開されたGRスーパースポーツのプロトタイプ。エクステリアは市販スポーツカーとは違い、そのままレーシングカー
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ル・マン24時間耐久レースのイベントで、オープンモデルの実車をサーキット走行させて公開したが、価格予想は億単位で、日常使いには適さないクルマをどのような層が購入するのだろうか?
またWEC(世界耐久選手権)などで奮闘しているトヨタだが、TOYOTA GAZOO Racingで培った技術を投入するスポーツカーブランド「GR」のイメージ戦略に苦心しているのではないだろうか?
数が売れることは期待していないモデルだが、どのような意図でハイパーカーを発売するのか? その狙いと課題を考察していきたい。
文/国沢光宏
写真/TOYOTA、ASTON MARTIN
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■安くても2億円!? TGRがハイパーカーにこだわる理由
いつもの6月から9月にスケジュール変更され開催となったル・マン24時間耐久レース期間中に行われたさまざまなイベントの中で、GRは突如カモフラージュルックの『GRハイパースポーツ』を走らせた。このクルマ、2021年1月11日に発表するとGR自ら公表している。果たしてどんなクルマ&どんな狙いがあるのだろう?
2020年9月20日のル・マン24時間レースの決勝前にGRスーパースポーツの走行を初披露した。基本的なボディデザインはコンセプトカーのままだ
まず概要を紹介したい。といってもスペックはほとんど発表されていない。いくつかアナウンスされている内容は、[1]世界耐久レース選手権で走らせている『TS050 HYBRID』をベースにしていること。[2]極限まで熱効率を追求したV6ハイブリッドエンジンを採用すること。[3]2021年から始まるル・マンのハイパーカークラスで走らせること。それだけ。
WEC(世界耐久選手権)に参戦するトヨタ「TS050 HYBRID」。2020年のル・マン24時間レースでも優勝し3連覇を達成、2019/20シーズンのシリーズチャンピオンも獲得した
ウワサだと1000ps以上になるとか3億円くらいするとか言われているものの、トヨタ(正確にはトヨタのGR部門)は何の情報も出していない。ただGRハイパーカーを作る理由に関して言えば、当時のGRの総責任者だった友山茂樹プレジンデント(今は違う部門を担当)のコメンントだけ。長くなるけれど以下、紹介したい。
「TOYOTA GAZOO Racing は、2020年秋から始まるシーズンでも、新しいレギュレーションの下、挑戦をし続けることを表明します。FIA/ACO(フランス西部自動車クラブ)によるレギュレーション策定のための惜しみない努力に感謝いたします。この新レギュレーションにより、数々のマニュファクチャラーがWEC、およびル・マンに参戦し、耐久レースのさらなる繁栄を願っています」
「TOYOTA GAZOO Racing としては、新たな時代の耐久レースでの激しい競争を通じて、レースチームとしてだけではなく、スポーツカーメーカーとしても、確固たる地位を築きたいと思っています。ファンの皆様、我々のライバル達も新時代のWEC、及びル・マンを大変楽しみにしていると、確信しています」
つまり2021年からル・マン24時間耐久レースのトップカテゴリーが『LMハイパーカー』というクラスになるので、そこにクルマを作って参戦する、ということである。いわゆる「ホモロゲモデル」です。LMハイパーカーのホモロゲ要項は「2年間で20台以上生産されること」。ここまで読むと1年間で10台以上作るように理解します。
しかし、FIA/ACOのレギュレーションを見たら「プロトタイプとして参戦するならホモロゲは不要」とも書いてある。GR筋から得た情報だと年間生産台数は多くて数台だという。この台数だとホモロゲ取るか取らないか読みにくい。ただ『GRヤリス』でホモロゲを断念した経緯もある。市販車かプロトタイプでの出場か微妙です。
2020年9月4日にカタログモデルが発売されたトヨタ「GRヤリス」。GRヤリスをベースにした新型WRカーをすでに開発していていたが、コロナ禍により予定していた2021年シーズンでのニューマシンの投入を中止した
ちなみに市販車として出る場合は最低車重1100kg以上。エンジンだけで走る車両なら後輪駆動で最大750ps。GRハイパーカーは4WDのため、最大で270psのモーターを前輪に搭載することになるだろう。といったことを総合して考えると、最大システム出力1000ps超えになります。まぁ下を見て2億円くらいになる?
東京オートサロン2018で公開されたGRスーパースポーツ。おそらく2021年1月の東京オートサロンに出品されるだろう
■盛り上がりに欠けるハイパーカー 市販化には”覚悟”が必要
最大の問題は、果たしてトヨタ以外にLMハイパーカーが出てくるかどうか、です。 新型コロナ禍の前まではアストンマーチンも参戦を表明していた。フェラーリやポルシェ、マクラーレン、ランボルギーニなどの参戦だってありそうな雰囲気。けれど最近になってまったく話に出てこなくなった。アストンマーチンすら沈黙状態だったりして。
往年のル・マンのように複数のワークスチームが揃えば大いに盛り上がることだろう。GRのブランドイメージだって急上昇すること間違いなし。フェラーリやポルシェと並ぶスポーツカーメーカーになります。レクサスは高級感でベンツやBMWを狙い、GRでスポーツカーのブランドを目指すということなんだと思う。
アストンマーティンはLMハイパーカーに「ヴァルキリー」での参戦に意欲的だったが、急転直下、現在は凍結中で、このまま参戦を見送る可能性が高い
ここまではトヨタの計画。もし盛り上がらなかったどうか? ライバルが1車種でも出てくれば「競争」になる。ただ今年のル・マンのようにトヨタだけになってしまったら、4年連続でひとり芝居をしなくちゃならない。2020年の国際映像、トップを走るトヨタはあまり映らなかった。そりゃそうだ。トヨタファン&関係者以外興味なし。
ということでGRハイパーカーはがどうなるのか、現時点じゃ予想しづらい。WRCのWRカーのホモロゲモデル(1年間で2万5千台)として開発したGRヤリスはホモロゲを取らないことになった。6億円のレクサスヨット(大型プレジャーボート)も4艇で受注停止。ただここまで開発を進めているので、何台か作る可能性ある。
漏れ伝わるところに聞くと購入希望者は少なくないらしい。そりゃそうだ。数少ない情報だけでも世界最高クラスの性能を持つクルマになること間違いなし。なんたってスポーツカーじゃなくて純粋なレーシングカーですから。普通のドライバーだとサーキットでもアクセル全開することなど無理! 2億円なら安いくらいだ。
生産はケルンにある『TGR-E』(F1なども開発していたTMGが社名変更した)。レーシングカーとまったく同じ作り方をすることになると思う。売ったあとのメインテナンスもどうするんだろう? 1シーズン終わったらパーツも不要になるレーシングカーと違い、販売終了から10年程度のパーツ供給だってしなくちゃならない。
市販するとなれば相当の覚悟が必要なプロジェクトになると思います。
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