期待が高まる水素エンジンの開発!そもそもどんなエンジンなの?
近年、世界各国で脱炭素化が求められるなか、温室効果ガスの排出がゼロの電気自動車(EV)が普及しつつあります。バイクも同様に電動化の開発が急速に進められていますが、日本では多くの課題があることから普及が進んでないのが現状です。
【画像】二輪車メーカーが開発する水素エンジン搭載車の画像を見る(10枚)
そんななか、国内4大バイクメーカーが共同で研究開発をおこなっているのが、小型モビリティ向けの「水素エンジン」というもの。
2023年10月28日から11月5日にかけて、東京ビッグサイトで開催された「Japan Mobility Show2023」では、4輪車だけでなく次世代2輪車のコンセプトカーから市販予定車まで、さまざまなモデルが出展されました。
なかには、カーボンニュートラルの実現に向けた電動モデルのほか、水素エンジンを搭載したモデルもいくつか見られました。
たとえばヤマハでは、水素エンジンを搭載した125ccの試験研究用スクーターを展示。またスズキは、市販車モデル「バーグマン400 ABS」をベースにした「水素エンジンバーグマン」の試験車両を展示しました。さらにカワサキは、開発を進めるモーターサイクル用水素エンジン(モックアップ)を公開するなど、電動モデルのほかにも水素エンジンを使った次世代モデルの期待度の高さがうかがえます。
水素を使ったエンジンは国内メーカーのみならず、世界でも注目されています。クルマでは、水素を使った世界初の量産型モデル「MIRAI」が、トヨタから2014年に発売されているのをご存知の人も多いかもしれません。
現在、水素エンジンは、EVやガソリン車に変わる新たなモビリティの動力源として、膨大な開発費が投じられて研究が進められているようです。
では、水素エンジンとはいったいどのようなエンジンなのでしょうか。
水素エンジンは、ガソリンに代わり水素を燃料とし、その燃焼反応によって駆動するエンジンのことです。ガソリン車と同様に、内燃機関で水素と酸素を燃焼させて発生するガスの圧力でピストンを動かし動力を得ることができます。つまり水素エンジン車は、一般的なガソリン車と同じ内燃機関車のことをいいます。
また、同じ水素を活用した乗り物として燃料電池自動車(FCV)があります。これは、水素タンクから供給される水素と酸素の化学反応によって生まれる電気エネルギーを使ってモーターを駆動させる仕組みです。
このように、水素エンジン車と燃料電池車は同じ水素を燃料としていますが、駆動の仕組みに大きな違いがあります。なお、トヨタの「MIRAI」は、FCVを採用したモーターで動くクルマであり、水素エンジン車ではありません。
一方、従来のエンジンでは、燃料となるガソリンと空気の混合気を燃焼させて熱を発生させます。その熱によってエンジン内部の気体を膨張させ、ピストン運動を生み出し動力を発生させる仕組みです。
水素エンジンとガソリンエンジンは、同じ仕組みで動力を発生させていますが、使われる燃料に違いがあります。水素エンジンは、水素による化学反応によって熱を発生させてピストン運動の動力を生み出している点が、ガソリンエンジンとの大きな違いです。
では、各メーカーがこぞって開発を進める水素エンジンには、いったいどのようなメリットがあるのでしょうか。
水素は“究極のエコエネルギー” と言われています。まずそれを表すのが、環境へのやさしさです。学校の理科の実験で「水素と酸素が結合すると水になる」と教わったことを覚えている人もいるかもしれません。
これは水素エンジンでも同じ作用が働き、化学反応によって動力を発生させても排出されるのは水のみで、二酸化炭素(CO2)を排出しません。燃料となる水素を燃焼するときに窒素酸化物を発生させますが、その排出量はガソリンと比べてもごくわずかです。
つまり、地球温暖化などの問題につながる有害ガスを排出せず、水しか残らないクリーンなエネルギーといえます。
また水素エンジンは、これまでのガソリンエンジンをベースに改良を加えるだけで製造できるため、コストを抑えられる点もメリットです。
そして、枯渇の心配がある石油資源と違い、水素は地球上にほぼ無限に存在します。水や天然ガス、バイオマス、汚泥など、地球上のさまざまな物質の中に含まれており、尽きることのないエネルギーといえるです。
さらに、充電に長い時間を要するEV車と異なり、水素エンジン車の水素を充填する時間は1回あたり約3分ほどで、ガソリン車とほぼ同等で時間がかかりません。また、1回の充填による航続距離もガソリン車と同程度であるため、長距離の移動も問題なくこなすことが可能です。
水素エンジンの開発が進められている一方で、実用化に向けては解決しなければならない課題がまだ多くあります。
まず、EV車やガソリン車よりも製造コストがかさみ、車両価格が高額になることが挙げられます。また、水素ステーションの整備に時間がかかるため、燃料を補給できる場所が限られている点です。
そのほかにも、ガソリンに比べて燃焼が不安定で出力が低下しやすいことや、燃料タンクが大型になるため、スペースが限られたバイクでは難しいという課題があるようです。
※ ※ ※
水素エンジンは、CO2排出量ゼロに加え、尽きることのない地球にやさしい無限のエネルギーです。従来の内燃機関を活用でき、燃料の充填時間や航続距離もガソリン車とほぼ変わらない点も、次世代エネルギーとして注目されている理由といえます。
水素エンジンの開発には多くの課題が残されており、一般的に普及するにはまだ先のこととなりそうです。しかし、水素エネルギーの注目度がさらに大きくなり研究開発が一気に進めば、水素エンジンを搭載したバイクの実用化もそう遠い未来ではないかもしれません。
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