2005年春に日本に上陸した5代目E90型BMW 3シリーズ。当時からすでに激しい「プレミアムDセグメント」戦線が展開されており、Motor Magazine誌でも多くのページを割いてこのモデルに注目している。ここではまず3回にわたって、E90型BMW 3シリーズの多角的な分析を振り返ってみよう。果たして当時E90型はどう評価されていたのだろうか。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年6月号より。タイトル写真は330i)
激しい競争があるからこそ進化する
BMWの新型3シリーズ。クルマ好きのお父さんにとっては、どうしたって気になる存在だと思う。
常に並び評されるメルセデス・ベンツCクラスともども、手頃なサイズ内に(新型はかなり大きくなったがそれに関しては後述)大人2人の実用に耐えるリアシートと必要にして十分なトランクスペースを有し、価格も頑張れば何とかなりそうな欧州Dセグメント。中でもこのドイツの2大プレミアムは、どこに出しても恥ずかしくないブランド力と車格を備えたというわけで、これは理詰めで考えていっても、憧れをついに現実にする思い入れ大半のクルマ選びであっても、非常にバランスの採れた魅力を備えている。それは確かだ。
「行ってみるか、3かC」という決断を下したとして、ではどちらがどういうキャラなのか。実はこのことも過去に星の数ほど検証が重ねられている。
曰く、BMWはファンでスポーティ。メルセデスはスタビリティ重視で安全・確実。だから走りそのものを楽しむなら3シリーズを。全幅の信頼が置ける移動手段が欲しいならCクラスを。こういう棲み分けがキチンとできていた。少なくとも今までは。
しかし、新型3シリーズに乗ってみると、それがすでに過去のものになりつつあるということがわかる。今回の試乗を通して、僕がいちばん驚いたポイントがそこだった。
Cクラスは、昨年2004年半ばの大幅改良で、それまでのメルセデスに希薄と言われていたドライビングファンを少し意識し始めた。ステアリングのギア比を速めてノーズの動きに俊敏さを加えたほか、フリクションの低減や、スタビライザー径のアップによりロール剛性を高めたサスペンションのブラッシュアップなどは、明らかにスポーティな方向へのシフトと言って良い。
今回、久々にC230Kを走らせても、そうした印象は変わらなかった。ステアリングは細かい操作にピクピクと反応するタイプではないものの、舵を入れて行ったときのノーズの動きは軽快だし、ヨーが立ち上がってからのタイヤの踏ん張り感もガシッとしている。わかりやすく言えば、以前はやや「もっさり」していた動きが格段に「シャッキリ」とした。これが改良前と後のCクラスの最大の違いなのだ。
けれども、こうした味わいの違いは、改良前の姿を知っている人のみにわかること。この最新Cクラスが初めてステアリングを握るメルセデスであるなら、やはり最初に感じるのは高速道路における凛とした直進安定性や、どっしりと重厚な乗り心地、そしてペースを上げていっても常に冷静に弱アンダーステアを維持する安心感の高いハンドリングになると思う。
つまりユーザーの若返りなどを念頭に置いて若干スポーティな方向に振ったとはいえ、メルセデスは相変わらず安全・確実なクルマであるわけだ。
驚きを禁じえないのは、新型3シリーズも、この領域に入って来ていることだ。
以前の3シリーズは動きがビビッドで、それゆえデリケートな操作が求められる傾向にあった。ステアリングの感度はCクラスよりも明らかに高くキビキビと向きが変わるものの、高速での直進安定性はややナーバスで、路面のアンジュレーションなどの外乱が入ると修正舵を入れる必要があったのだが、新しい3シリーズはどこでもビシッと安定しており、ステアリングに軽く手を添えているだけで矢のような直進性を維持する。
これはアクティブステアリング付きの330iでも、高速域ではそれよりステアリングがクイックな320iでも変わらない。それでいて、舵を入れた時のBMWらしいビビッドな動きも変わらず両立させているし、ステアリングを通して感じられる路面へのコンタクト感にもまったく曇りがないところも嬉しい。
さらには、乗り心地も良くなっている。ボディの動きはよりフラットになり、225/45R17サイズのタイヤを組み合わせた330iでもパツパツとした硬さとは無縁だ。ランフラットタイヤの採用など乗り心地面では不利な要素が増えているのに、その質は格段に向上している。これこそ進化だ。
スタビリティを核としながらも、スポーティさを味として表現し始めたメルセデスに対し、持ち前のドライビングファンを大切にしつつ、スタビリティやコンフォート性能を向上させたBMW。両社の考え方がE90型3シリーズの登場でちょうど交差した。そう言っても良いほどに双方の走りの磨き込みは進化している。
新型3シリーズは明らかに安定性と快適性が向上している。ではそれと引き換えに失ったものはあるのか? 次なる興味はそこに集約されるが、この点でも進化は明白だった。
第一に言えるのはリアサスペンションの接地性がより一層向上したこと。前記した直進安定性の向上もこれが大きく関係していると思うのだが、コーナリングにもその効果は如実に表れており、以前の3シリーズにあったペースを上げて行った時にリアタイヤがズルッと来る緊張感がほとんどなくなっている。
以前の3シリーズもDSCが作動するので実際には大禍なく過ごせたのだが、新型はそうしたデバイスに頼らずとも、シャシ自体の安心感が増している。もちろんDSCをカットすればこうした動きを積極的にドライビングに取り込むことは可能なものの、そういった場面での挙動変化もより穏やかになった。これも大きな進化だ。
つまりスタビリティとコンフォートのみならず、ドライビングファンの部分においても新しい3シリーズは確実に進化しているわけだ。Cクラスもできるかぎりの進化を遂げてはいるものの、現時点でのシャシ性能は新型3シリーズが一歩前へ飛び出した感じ。世代が新しいシャシなのだからそれは当然だが、その進化幅はかなり大きく、まさにDセグメントの新たなるベンチマーク登場といった観がある。
新しい3シリーズに感じたベンチマークとしての実力
シャシ性能に解説の多くを費やしてしまったが、エンジンもBMWらしい仕上がりぶりだった。4気筒となった320iはアイドリングではコロコロとした、どこか頼りなげな音質だが、1995ccのキャパシティで大柄になった車体を引っ張るにもかかわらず、アンダーパワー感はほとんどない。同じ価格帯となるC180コンプレッサーは、さすがに過給エンジンだけあってトルクフルだが、320iのバルブトロニック4気筒は高回転まで回してパワーを得るタイプで、そこを楽しめる人ならまず不満は感じないだけの力感を備えている。
一方、330iの2996ccバルブトロニック6気筒は、最新エンジンらしく力に満ちていた。アクセルレスポンスの鋭さや、官能的な回転フィールという点はやや甘くなった観もあるものの、相変わらずスムーズで、そしてトルクバンドが幅広い。この点はさすが大排気量の強みで、C230Kでも追いつけない部分。また、高回転まで小気味よく回り、6速ATが回転を合わせつつ積極的なダウンシフトを許容することもあって、走らせていて本当に楽しかった。
シャシ良し、エンジン良しと来て、最後に残るのがパッケージングだが、これは元々3シリーズが得意とする分野。合理的なスぺースの使い方は相変わらずだし、新型は全幅・全長ともかなり大きくなっており、安全面にこの余裕を使いつつキャビンも拡大している。したがって狭さは感じない。
ただし、1815mmと広くなってしまった車幅は、確かに都市部でのタワー式駐車場で制約が出ることはあるだろう。しかし卑近な例で申し訳ないが、私が住む集合住宅の立体駐車場には、全幅1850mmまでと書かれているスペースに1880mmの日産ムラーノがキチンと納まっていたりする。さすがにパレットに対しトレッドが一杯でアプローチは難しいが、横に支柱のない最上段であれば、外寸に関しては多少オーバーしても大丈夫なケースもある。
だからもし、現状で全幅制限が1800mmの場所しか確保できていなくても、試してみる価値はあると思う。それでもしダメだったら…。思いきって外の月極駐車場を契約しますか!新型3シリーズは、このように多少無理をしてでも味わう価値のある1台だと思えたのだ。(文:石川芳雄/Motor Magazine 2005年6月号より)
BMW 330i(2005年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4525×1815×1440mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1550kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:2996cc
●最高出力:250ps/6600rpm
●最大トルク:300Nm/2500-4000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:625万円(2005年当時)
BMW 320i(2005年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4525×1815×1425mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1460kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1995cc
●最高出力:150ps/6200rpm
●最大トルク:200Nm/3600rpm
●トランスミッション:6速AT(6速MTも設定)
●駆動方式:FR
●車両価格:399万円(2005年当時)
[ アルバム : 5代目E90型BMW 3シリーズ はオリジナルサイトでご覧ください ]
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