セダンタイプのタクシー仕様もバリエーションが豊富だった
筆者がクルマ好きとなり、クルマ関係のメディアで仕事をするようになった、その原点はタクシーである。我が家がまだマイカーを持たなかった子どものころ、祖母の家を訪れる時、そして帰る時には、最寄り駅と祖母の家の間の移動のため、よくタクシーを利用していた。
当時のタクシーはコラムシフトタイプのマニュアルミッションが当たり前で、フロントシートもベンチシートを採用しており、筆者は後席の真ん中に座り、フロントベンチシートのシートバックのセンター部にまだに“しがみついて(結局運転中は後席には座らず立っていた)”運転士さんの操作風景を“ガン見”していた。
このような幼少期を過ごしたこともあり、社会人となったいまでも仕事でだけでなくプライベートでも、よくタクシーを利用している。懐具合がけっして良いわけではないが、乗車中の運転士さんとの雑談も好きなので、気分転換のひとつと考えるようにしている。
そこで、ここでは筆者がちょっと懐かしいころに街を走っていた、心に残るタクシー車両を紹介していくことにする。
1)トヨタ・コロナ
まずはトヨタ・コロナ・タクシー。FR最後となる7代目コロナセダンがベースとなっており、とくに1986年に大規模なマイナーチェンジを行った最終型では、Cピラーを立たせるなど、外板のほとんどを一新し、よりタクシー専用車として対応させたものとなっていた。筆者の生活圏内では小型タクシーというものはほぼ走っていなかったので、なかなか乗る機会がなかった。
しかし、ある日名古屋へ出張した時に、名古屋駅前の小型タクシー乗り場で先頭から2台後ろぐらいにFRコロナ・タクシーの最終型が並んでいるのを発見。たまたま乗り場は空いていて列は出来ていなかったので、近くでFRコロナタクシーが先頭にくるのを待って、宿泊先まで見事に乗ることができなかった。
マニュアルコラムシフトだったら大感激だったのだが、残念ながらマニュアルフロアシフト。ただ、念願のFRコロナ・タクシー(しかも最終型)に乗ることができた感動はいまも鮮明に記憶に残っている。
2)マツダ・ルーチェ セダン
続いては1986年に登場した5代目マツダ・ルーチェ・セダンベースのタクシー車両。デビュー当時は“メルセデスベンツに似ている”などともいわれていたモデルである。タクシー仕様はベースの一般乗用仕様に設定のないコラムシフト(しかもMT)があり、タコグラフや料金メーターの取り付けスペース確保もあったので、インパネが専用デザインとなっていた。
ある日夜遅くまで飲み歩き、最寄り駅ではなく、最寄りのターミナル駅までしか電車でたどり着けずに、そこからタクシーで自宅に帰るべく、タクシー乗り場で順番を待っていると、運よくルーチェタクシー(しかも無塗装の黒い樹脂バンパーのついたDX)が順番にまわってきた時は酔いも一気にさめるほど感動した。
乗ったタクシーはマニュアルコラムシフトでベンチシートを採用。当時でもマツダの市販乗用車でこの組み合わせはなかったので、珍しさも手伝い、童心に帰ったように後席から運転風景を凝視してしまった。当時のクラウンタクシーもドアが薄かったが、ルーチェタクシーの肌で感じたドアの薄さはいまもその感触が残っている。
三菱も熱いタクシー車両を揃えていた
3)三菱ギャランΣ
三菱ギャランΣと名乗った最終モデルとなる、1983年に登場した5代目ギャランベースのタクシー車両も記憶に残るモデルであった。1987年に“インディビデュアル4ドア”というコピーとともに、車名からΣが消えた6代目、そして3ナンバーとなりV6エンジンを搭載して1992年に登場した7代目、さらにはギャランとしての国内最終モデルとなった1996年に発売された8代目がデビューしても、1999年までラインアップされ続けていた。
一般乗用向けの5代目の生産終了後も独自に改良を続け、よりタクシー専用車両色を強めたモデルがとくに大好きだった。名古屋駅前の小型タクシー乗り場には比較的多くいつも着け待ちをしていたので、列の様子などを見ながらトヨタ・コンフォートを避けてよく乗っていたのを覚えている。
筆者が乗るようになったのは5代目デビューからすでに10年以上経過したころであったので、少々古めかしく懐かしい雰囲気がなんともいえなかった。
4)三菱デボネア
1986年にデビューした、2代目三菱デボネアベースのタクシー車両に乗った時のこともよく覚えている。仕事で千葉県某所の私鉄の某駅に降り立ち、そこからタクシーで取材先へ向かうのであったが、その駅前のタクシー乗り場にいたのが、デボネアタクシーであった。当時はすでに生産中止となったあとで、見た目にもかなり“やれた”印象の目立つ黒色のタクシーであった。
乗ってみるとコラムATだったことにまずは大感動してしまい、サイクロンV6エンジンはLPガス仕様ながら、パワフルにそしてタクシーとは思えない静かさであった。シートもビニールレザーではなく、フカフカのモケットシートでまさにハイヤーに乗った気分であった。
5)トヨタ・クラウンセダン
1995年に後継のクラウンコンフォートがデビューするまでの、クラウンセダンベースとしての最終タクシー仕様車も心に残る1台である。東京都内でほぼトヨタ系の中型タクシーは、クラウンコンフォートやクラウンセダンばかりが走り回るようになった2001年ころ、たまたま都内でタクシーに乗ろうとしたら丁度やってきたのが、かなり見た目もボロボロとなっていた130系クラウンタクシーが停まってくれた。
すでにコンフォートに乗り慣れていた時期に、久しぶりにクラウンセダンのタクシーに乗り込むと、ソファに座ったような深く座り込むポジションとフカフカした着座感は、逆に新鮮な印象を受けた。コンフォートに比べるとロードノイズも少なく車内の静粛性も秀逸であった。X80系マークIIプラットフォームベースのクラウンコンフォート系に比べ、伝統のペリメーターフレーム構造による、クラウン独特のぜいたくな乗り味を久しぶりに体感することで、在りし日のクラウンの偉大さを改めて考えさせられたのを覚えている。
番外編
かなり珍しいところでは、トヨタ・ファンカーゴタクシーも印象深かった。道路端で手をあげてタクシーを停めようとしていたら、ファンカーゴが目の前に停車したので、邪魔だなあと思っていたらタクシーだったので驚いたことがあった。“パイプ椅子”のような後席は完全にタクシーには不向きで、短距離移動ならばなんとか我慢できるレベルだったので、なんでファンカーゴがタクシーになったのか悩んでしまった。
想定外のタクシー車両だったので、視界に入っていても認識できなかったようだ。同じようなパターンで日産ティーノのタクシーも、目の前に停まっても、しばらくはそれがタクシーだとは認識できなかった。
まとめ
法人タクシーに限って言えば、クラウンコンフォートが登場し、小型扱いのコンフォートが同時デビューするころになると、トヨタや日産以外でタクシー車両をラインアップしていたメーカーがタクシー車両の生産を順次やめるようになる。小型タクシーはコンフォートか日産クルー、中型はクラウンコンフォート(途中からクラウンセダンタクシーも追加される)か、Y31日産セドリック営業車にほぼ絞られるようになった。
当時はタクシー車両の要件が厳しかったこともあり、車両が集約されていったのだが、いまではどんなクルマでもタクシー車両として使えるようになったので、JPNタクシーがメインとはいえ、そのほかにも法人タクシーでさえ、バラエティに富んだ車両のタクシーが街なかを走っている。
“タクシーマニア”の筆者としては、タクシーに乗る楽しみが増しているといえよう。
※写真は一般乗用向け車両を含みます
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