1995年頃から乗用車の人気は「ミニバン」一色となり、ミニバンブームは20年近く続いた。一方この時期に、スペース効率を高めた新規格のクルマが登場しミニバンに立ち向かっていったのを覚えているだろうか。ミニバンの牙城を崩しにいった、勇猛果敢なクルマたちを紹介していく。
文/佐々木 亘、写真/TOYOTA
ナディアに続いた!? マークXまで3列化の大勝負!! あえて「脱ミニバン」で挑んだクルマたち
■背高/3列シートを採用せず5人乗りで勝負!
1998年登場のトヨタ ナディア。ミニバンのフォルムでシートを2列にして車内を広々使うという狙いがあった
まずは1998年に、トヨタが「ナディア」を発表する。時代は初代ステップワゴンや初代エルグランドが大人気の頃だ。
ファミリーミニバンとして、人気のあったイプサムをベースにし、ミニバンのエクステリアそのままに、シートは2列だけというクルマを登場させた。ミニバンベースの2列シート車なので、室内は十分に広い。
しかし、ミニバン(3列シート車)はよく売れたのに、ナディアは売れず。2003年に姿を消すこととなる。
ナディアが姿を消す僅か前、二の矢として放たれたのが2000年に登場した「オーパ」である。全長4,250mm、全幅1,695mm、全高1,525mmとサイズだけ見れば一般的5ナンバー車。どこに余裕の室内空間があるのかと思うが、秘密は長いホイールベースにあった。
オーパでは、2,700mmというホイールベースが、広大な後席の足元空間を生み出す。後席にはスライド機構が備わり、リアシートを折りたたむとフラットで広大な荷室が現れるなど、ミニバンよりも使い勝手のいいクルマが登場したように思ったほどだ。
両者が登場したのは、セダンからミニバンへの乗り換えが加速していた時代。「セダンよりも広いクルマが欲しいが、3列シートは必要ない。」そんなニーズもあるのではないかと、提案されたのが、ナディアやオーパなのである。
同時期、ホンダもアヴァンシアでこのニーズを刈り取りに来た。ただ、ステップワゴンとオデッセイが人気を博した時代。結局、アヴァンシアの名は広がらなかった。
結果として、広い車内に2列シート5人乗りというコンセプトでは、ミニバンの城を崩すことはできなかったのだ。
■2列がダメなら仮の3列! マークXジオが勝負をかける
2007年登場のトヨタ マークXジオ。一見3列シートのミニバンだが、3列目は多人数乗車の際に出す「補助席」のような扱いとした
ミニバンの人気がハイルーフから、ウィッシュやストリームといった比較的背の低いクルマに移行してきた2007年。トヨタがマークXジオを投入する。
一見すれば3列シートのミニバンなのだが、トヨタはマークXジオをミニバンと規定しなかった。コンセプトにあったのは「4+Free」という考え方。
独立する4座を中心にして、エマージェンシーの3列目を出せば多人数乗車が可能、3列目を格納しトノカバーを付ければ間仕切りになりセダンのようにも使えるというものだ。
発売から1か月の販売台数は5,000台超と好調にスタートしたが、その後は衰退の一途を辿る。セダンからミニバンまでの全部乗せをしたマークXジオだったが、このコンセプトもまた、中途半端に終わってしまう。
■ミニバンを超えたSUVと過去の挑戦者たちとの大きな違いは何?
1998年登場のトヨタ ビスタアルデオ。ビスタのステーションワゴン版として設定され一定の評価を得た
皆さんご存じの通り、令和は空前のSUVブーム。20年以上続いたミニバンの牙城を、SUVが崩したのだ。
過去の挑戦者たちと現代のSUV。共通するは広い車内と2列シートという点である。挑戦者たちに無く、今のSUVにあるものとは一体何なのだろうか。
1つ言えるのは、オーパやマークXジオが、リアシートの格納方法に凝り無理にフラットな荷室を作ろうとしたのに対し、今のSUVは荷室空間のフラット化に、そこまでこだわっていないということ。
格納に凝ったシートは、軽く薄く作られていく。操作性は上がるが、座り心地は下がっていく一方だ。座面は薄く短く、バックレストも低くなりがちである。対して、今のSUVは後席シートが分厚く上質だ。
クルマに広さを求めるユーザーが、重要視するのは後席の居住性。ドライバーの空間は運転操作をするステアリングとペダルがある以上、広くするにも限界がある。何も広いクルマを買って、自分が広い室内を堪能しながら運転しようと考える人はほとんどいないだろう。
こうしたユーザーのニーズは、大切な人が乗るリアシートの居住性の高さにあるのだ。人気のSUVたちは、挙っていいリアシートを持っている。
ここを見誤ったオーパやマークXジオは、結果として失敗した。同時期に登場し、複雑なリアシート格納機構を持たなかったビスタアルデオは、上質なリアシートの作り込みで、一定の評価を獲得している。ここに気づければ、オーパなどがミニバンに対抗するゲームチェンジャーになれた可能性はあるだろう。
それでも、新たなカタチを提案してきた各車は、現代につながる自動車の礎を築いてきた。人気のカタチに縛られない自由な発想から生まれるクルマの存在は大切だと思う。オーパ・マークXジオのようなチャレンジには、改めて敬意を表したい。
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