コンパクトなのに「心のゆとり」をもたらしてくれるクルマ
AMW編集部員がリレー形式で1台のクルマを試乗する「AMWリレーインプレ」。今回のお題はメルセデス・ベンツ「CLA シューティングブレーク」です。4ドアクーペの「CLA」から派生したシューティングブレークとは、単なる「ステーションワゴン」とどう違うのか? 古風なVW「カルマンギア」を愛用している、クーペ主義者のAMW竹内が乗って試してみました。
ゴルフ好きも満足! メルセデス・ベンツ「CLA 200 d シューティングブレーク」のトータルバランスに感動しました【AMWリレーインプレ】
「シューティングブレーク」と「ステーションワゴン」の違いって?
SUV全盛の時代ではあるが、欧州車、とくにドイツメーカーでは今なお多くのステーションワゴンをラインナップしている。長距離を高速で移動するシーンが多いという条件ならば、荷物をそれなりに多く積み込めるクルマとして、ステーションワゴンの方が重心が低くて運動性能も高く、軽さの面でも空気抵抗の面でも経済的であることは、今さら説明するまでもないだろう。
メルセデス・ベンツが現在日本で販売しているステーションワゴンは5種類。「Eクラス ステーションワゴン/オールテレイン」、「Cクラス ステーションワゴン/オールテレイン」、そしてその中ではエントリーモデルに位置づけられる、「CLA シューティングブレーク」である。
なぜCLAだけ名前がシューティングブレークなのか? じつはメルセデスではそれに先立って、2012年~2018年に先代(2代目)「CLS」にシューティングブレークが設定されていた(現行型では消滅)。その後で2013年に初代CLAがデビューして、2015年にCLA シューティングブレークが追加され、こちらは2019年に2代目へとフルモデルチェンジしても継続しているという流れだ。
CLAとCLSはともに「4ドアクーペ」。もともとシューティングブレークといえばクーペボディの後半部をワゴン形状に架装したもの、との前提があったうえで、「セダン:ステーションワゴン」という関係を、「クーペ:シューティングブレーク」に置き換えて再解釈したわけだ。
フォルクスワーゲンの4ドアクーペ「アルテオン」にもシューティングブレークがかつてラインナップされていたり、クーペライクなスタイリングが売りであるジャガーの4ドアセダン「XF」のワゴンボディが「スポーツブレイク」を名乗っているのも、同様の理由だ。
流麗なデザインとそこから派生するライフスタイルが肝
では、「4ドアクーペ」は「セダン」と何が違うのか? クーペ的な流麗なデザインをまとっていること、というのが、ひとまず教科書的な回答だが、重要なのは「クーペ」というコンセプトそのものにある。実用性のみを追求するなら他のボディ形状でいくらでも選択肢があるわけで、クーペに求められるのは「粋」とか「伊達」、あるいは「カッコよさ/美しさ」といったものを優先するオーナーの価値観、ライフスタイルを実現すること。「自由」と言い換えてもいいだろう。
そんな4ドアクーペにワゴン状のリアボディを与えて、後席の快適性とラゲッジスペースをプラスしたのがシューティングブレーク。スタイリングやドライバーの気持ちよさをスポイルすることなく実用性も両立するものであり、最初から空間効率を優先して設計されたステーションワゴンと比較して引き算で評価するのは野暮というもの。別個のカテゴリーとしてプレーンな視点から向き合ってみたい。
パッケージングの実用性に死角なし
あらためて今回のメルセデス・ベンツ「CLA 200 d シューティングブレーク」を見てみると、とくに現行型ではリアまわりのデザインがさらにグラマラスかつシャープになり、シューティングブレークならではのスタイリングが洗練されている。フロントまわりは2023年9月のフェイスリフトを受けて、スターパターンフロントグリルが節度のある高級感を演出するとともに、AMGラインパッケージの装着によってバンパーがスポーティな表情を増した、メルセデスの最新デザインとなっている。
見た目の存在感とは裏腹に、ボディサイズは全長4685mm×全幅1830mm×全高1435mmで、最小回転半径は5.1mm(4MATICモデルは5.4m)。日本の都市部でもまったくストレスを感じないコンパクトさだ。
それでいてラゲッジルームは505L確保されていて、4:2:4分割可倒式のリアシートを全て倒せば1370Lまで拡大する。リアシートも身長173cmの筆者が座っても頭上に圧迫感はなく、足元も十分なスペースが確保される。
上記でさんざん書いておいて恐縮だが、パッケージングにおいて何のストレスもない。日常的にリアシートまでフル乗車したり、大きな荷物を積むような人は、事前にディーラーへメジャーを持っていって確認するのがベターだろう。
唯一気になったのは、フロントの車高の低さ。標準で最低地上高135mmで、お借りした「AMGラインパッケージ」装着車では120mmとスポーツカー並みの数字だ。店舗への出入りや駐車シーンでは多少気を使う必要があるし、凸凹の激しいキャンプ場には行かないほうがいいだろうが、シューティングブレークというこのクルマの性格を踏まえれば受け入れられる範囲だ。
最新MBUXのAIが賢くなってストレス激減
さて、都内でCLA 200 d シューティングブレークを受け取って走り出す。2Lの直4ディーゼルターボは最高出力150ps、最大トルク320Nmというスペックで8速ATが組み合わされているが、最新のメルセデスのディーゼルエンジンは本当にキメが細かくて静か。アクセルの踏み始めからドライバーの意図どおりにトルクを発揮してくれるし、強めに踏み込めばレブリミット近くの4500rpmまで気持ちよく伸びる。
首都高~厚木までの渋滞にどっぷりハマっている間は、ACC(追従式クルーズコントロール)任せでOKなので肉体の疲労はゼロだ。メルセデスのACCは渋滞でのゼロ発進から高速域まで制御が洗練されていて、その気になれば高速道路内の入り口から出口まで、ペダル操作なしでも行けるのでは、と思えるほど。
そして、CLA シューティングブレークに限った話ではないのだが、メルセデスの対話型インフォテインメントシステム「MBUX(メルセデス・ベンツ ユーザー エクスペリエンス)」の最新バージョンの音声認識機能は非常に優秀で、まさしく白眉。
「ハイ、メルセデス」で立ち上がるAIの出来がよく、エアコン操作は「ちょっと暖かくして」などと言えばOKだし、ナビの目的地も適切に聞き取って、候補からの選択やルート選びまで音声操作だけでほぼ完結する。実際、今回の試乗でも、ナビ操作はすべて音声だけで済ませることができた。
近年、自動車メーカー各社がタッチパネル操作を偏重しすぎるがあまり、かえって運転中の安全性を損ねていると問題提起されている。しかし最新のMBUXなら、そもそも指で操作するシーンが激減するため、そんな心配が要らなくなってしまうのだ。
ちなみに渋滞中に暇をもてあまして「ハイ、メルセデス、何か面白い話をして」と言っても、対応してくれた。どんな話をしてくれるのかは、ぜひ実際に試してほしい……。
スポーティな走りもできるけど、ゆったり余裕で走りたい
いつものワインディングロードに持ち込んでみる。トルクフルな直4ディーゼルエンジンは登り坂でも車両重量1600kgのボディを軽快に加速させるし、FFレイアウトながらリアの接地感も上々で、いわゆるオンザレールな走りを披露してくれる。
コーナーが連続する場面では「ダイナミックセレクト」で「スポーツ」モードを選べば、ステアリングの遊びも小さくなる。さらに細かく好みを反映したければ、「インディビデュアル」モードで各項目を個別に設定することも可能だ。やや攻め気味に走ってみると、ESPの介入タイミングがやや早めかな? と感じる場面もあったが、駐車場でダイナミックセレクトをよく見ると、ESPも設定可能だった。
とはいえ、CLA 200 d シューティングブレークはスポーティに走るよりも、ゆったりした気持ちで景色を楽しみながら流すのが心地よいクルマ、というのが個人的な感想だ。その点では、試乗車はAMGラインパッケージ装着でタイヤサイズが225/40R19だったが、標準の225/45R18の方がソフトな乗り心地でマッチするかもしれない。
「たまには美術館にでも」と思わせてくれるクルマ
今回のCLA 200 d シューティングブレークはデザイン、実用性、走行性能、内装の上質感と使い勝手、そして安全性に至るまで、あらゆる項目がハイレベルにまとめ上げられていて、車両本体価格で609万円(MP202501/消費税込)はリーズナブルと言える。
しかしコスパ云々よりも、このスタイリングとパッケージングがもたらしてくれる心のゆとりこそ、CLA シューティングブレークの付加価値だ。
試乗車をお預かりしている期間に、千葉県のDIC川村記念美術館まで10年以上ぶりにこのCLA シューティングブレークで行ってみた。休館をめぐる報道に触れたこともあるが、ふと「たまには美術館でも行こうか」と自然に思わせてくれるのが、このクルマなのである。
specifications
■Mercedes-Benz CLA 200 d Shooting Brake メルセデス・ベンツ CLA 200 d シューティングブレーク
・車両価格(消費税込):609万円(MP202501) ・全長:4685mm ・全幅:1830mm ・全高:1435mm ・ホイールベース:2730mm ・車両重量:1600kg ・エンジン形式:直列4気筒DOHCディーゼルターボ ・排気量:1949cc ・エンジン配置:フロント ・駆動方式:FF ・変速機:8速AT ・最高出力:110kW(150ps)/3400-4400rpm ・最大トルク:320Nm/1400-3200rpm ・燃料タンク容量:43L ・公称燃費(WLTC):18.7km/L ・サスペンション:(前&後)コンフォートサスペンション ・ブレーキ:(前)ベンチレーテッドディスク、(後)ディスク ・タイヤ:(前&後)225/45R18
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みんなのコメント
ドアやトランクがペラすぎて開閉音はそのたびに興醒めする。
ゲタがわりに普通に走る分にはよい。