好調に売れている車種には、多くのユーザーが購入して使っている実績がある。従って基本的に優れた商品と判断できる。
ただし、売れ行きの少ない車種が、機能や価格の割安感でも劣るとは決められない。優れた商品でありながら、販売力が低いために、売れ行きが乏しいこともあるからだ。そこで人気のカテゴリーについて、販売の1位と2位を比べたい。
5年連続ナンバーワン! なぜMINIばかりが輸入車モデル別販売の1位なのか?
※本文中の販売台数は、いずれも2020年1-12月の累計
文/渡辺陽一郎 写真/編集部、HONDA、SUBARU
【画像ギャラリー】本稿で紹介した2番手は何位?? 2021年3月販売台数TOP10+α
王者ヤリスに対する2番手フィットの評価は?
ヤリスと同時期にデビューしたフィット。最新の2021年3月販売台数では、フィットが、9231台、一方のヤリスの販売台数は28466台
・1位:トヨタ ヤリス/10万4660台(ヤリスクロスを除く)
・2位:ホンダ フィット/9万8210台
コンパクトカーでは、1位はヤリスで2位はフィットだ。機能的にはフィットに優れた点が多い。前後左右ともに視界が良く、斜め後方が見にくいヤリスに比べて運転しやすい。
車内もフィットが広い。身長170cmの大人4名が乗車した時、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ2つ半に達する。これはミドルサイズセダン並みの余裕だ。ヤリスは握りコブシ1つ少々だから、フィットに比べて窮屈に感じる。
フィットは燃料タンクを前席の下に搭載したから荷室も広い。後席の座面を持ち上げると、車内の中央に背の高い荷物を積むことも可能だ。
乗り心地もフィットが少し快適で、装備が同等のグレード同士で比べると、価格も少し割安に抑えている。
一方、ヤリスも魅力的で販売もコンパクトカーの1位だが、幅広い機能をチェックするとフィットの優位点が多い。
それなのにフィットが1位になれない理由として、商品については外観のデザインが挙げられる。フロントマスクは個性的で好みが分かれる。内装では2本スポークのステアリングホイールも同様だ。
販売面では店舗数が異なる。今のトヨタ車は全店が扱うから、ヤリスは全国の約4600店舗で購入できる。その点でホンダは約2150店舗だ。販売網は半分に留まる。
さらにホンダではN-BOXの売れ行きが絶好調で、国内の最多販売車種になっている。国内で売られるホンダ車の30%以上をN-BOXが占める。そうなるとフィットからN-BOXに乗り替えるユーザーも増えるので、売れ行きが伸び悩む。
N-BOXに偏った売れ方は、フィットに限らず、ほかのホンダ車を売る時の妨げになっている。ホンダにとって今後解決すべき重要な課題だ。
王者ルーミーに対するソリオの評価は?
2020年11月にデビューした現行型ソリオ。最新の2021年3月販売台数では、ソリオが6089台、一方のルーミーの販売台数は16504台
・1位:トヨタ ルーミー/12万2833台(生産を終えたタンクを含む)
・2位:スズキ ソリオ/4万342台
売れ行きはルーミー(2020年9月のマイナーチェンジで廃止された姉妹車のタンクを含む)の圧勝だ。2020年にはソリオの約3倍が登録された。現行ソリオは2020年11月の登場だから、実質的に先代型だが、それにしても販売格差は大きい。
ただし商品力を比べると、ソリオが先代型の時点でも、ルーミーに勝るところが多かった。両車とも車内は広いが、後席の座り心地は、先代型、現行型ともにソリオが柔軟で快適だ。
ルーミーは体がシートに沈みにくく、床と座面の間隔も足りないから、足を前方に投げ出す座り方になってしまう。
走行性能では、ソリオは直列4気筒1.2Lエンジンを搭載してボディも軽いから、パワフルではないが不満も感じない。ルーミーは直列3気筒1Lだが、車両重量はソリオよりも重く1トンを超える。
ルーミーは登坂路でパワー不足に陥りやすく、3気筒特有のノイズも大きい。パワー不足を補うためにターボも設定したが、これも実用回転域でノイズが拡大する。走行安定性と乗り心地もソリオが優れている。
このようにルーミーの商品力がソリオを下まわった理由は、大急ぎで開発したからだ。2014年には軽自動車の販売が急増して、新車販売台数の41%を占めた。
小型車から軽自動車への乗り替えも急速に進み、小型/普通車を中心に扱うトヨタとしては、軽自動車で絶好調に売られるスーパーハイトワゴンのライバル車を用意しようと考えた。そこで約2年間で開発されたのがルーミーであった。
当時はDNGAの新しいプラットフォームは開発途上で、従来のパッソ&ブーンと共通化した。ただしルーミーの車両重量はパッソ&ブーンよりも200kg近く重く、走行安定性と乗り心地で無理が生じた。エンジンも共通ではパワー不足になった。
それでもルーミーはユーザーニーズを細かく分析して、収納設備を充実させた。後席を畳んで自転車を積むユーザーが多いので、荷室の床を反転させると、汚れを落としやすいシートが貼られている。このように優れた使い勝手とトヨタの強力な販売網により、ルーミーは好調に売れている。
王者アルファードに対するオデッセイの評価は?
オデッセイは低底ならではの室内高を確保しており、多人数乗車時の居住性が高い。最新の2021年3月販売台数では、オデッセイが2419台、一方のアルファードの販売台数は13986台
・1位:トヨタ アルファード/9万748台
・2位:ホンダ オデッセイ/9716台
オデッセイは、3列目まで床面を平らに仕上げたミニバンとしては、その位置が低い。従って1325mm(ノーマルエンジン車)の室内高を確保しながら、2WDの全高は1700mmを下まわる。アルファードと比べても床が約100mm低いから、乗降性が優れ、低い全高と併せて重心も下がるから走行安定性も優れている。
さらにオデッセイは低床だから、3列目シートの床と座面の間隔に充分な余裕がある。アルファードの3列目は、この間隔が不足して足を前方へ投げ出す座り方だが、オデッセイの着座姿勢は自然な印象だ。従って多人数乗車時の居住性も、オデッセイが勝っている。
ところが売れ行きはアルファードの圧勝だ。アルファードは全高がオデッセイよりも約250mm高いから、派手なフロントマスクと相まって、外観がオデッセイよりも立派に見える。車内に入ると、床が高いので、シートに座った時に周囲を見降ろす感覚になる。この点が人気の秘訣だ。
ちなみにアルファードは現行型でプラットフォームを刷新したから、低床設計にして全高を下げることにより、乗降性、居住性、走行安定性、燃費性能などをさらに向上させることも可能だった。
しかし、あえてそれをおこなわず、従来型のデザインを踏襲している。つまり「優れた機能よりも売れるクルマ造り」を優先させて見事に成功した。
王者カローラツーリングに対するレヴォーグの評価は?
2020年11月にフルモデルチェンジした新型レヴォーグ。最新の2021年3月販売台数では、レヴォーグが4892台、一方のカローラツーリング※の販売台数は12667台(※カローラシリーズ合算)
・1位:トヨタ カローラツーリング/5万960台
・2位:スバル レヴォーグ/6196台
最近は欧州を除くとワゴンの需要が落ち込み、日本車も車種数を減らした。そのなかでワゴンの定番とされる車種がレヴォーグだ。
現行型の登場は2020年10月だから、同年の販売実績は主に先代型の数字になる。従って登録台数は、2019年に発売されたカローラツーリングの約12%に留まるが、さまざまな魅力を備えていた。
新型になった現行レヴォーグは、先代型の特徴を受け継ぎながら、機能をさらに洗練させた。走行安定性が優れ、乗り心地もしなやかで、ワゴンとしては走りのバランスはかなり高い。
アイサイトも進化した。高速道路の渋滞時(50km/h以下)には、ステアリングホイールから手を放しても運転支援を受けられる。作動中には、ドライバーはステアリングとペダル操作から解放される。内装の質や後席の居住性も向上して、選ぶ価値の高いワゴンとなった。
一方ワゴンで最も登録台数の多いカローラツーリングは、2019年の発売だから、2020年にはほかのカローラシリーズを除いて5万台少々を登録した。RAV4やアクアに近い販売実績になる。
3ナンバー車になっても、ワゴンの中ではボディが小さな部類に入り、価格は「1.8S」が221万6500円に収まる。レヴォーグは1.8Lターボエンジンと4WDを組み合わせることもあり、買い得グレードの「GT・EX」が348万7000円だから、カローラツーリングは約127万円安い。この価格差も売れ行きに影響した。
そしてカローラツーリングは、2020年5月以降、トヨタの全店が販売している。約4600店舗だが、レヴォーグを売るスバルの販売店は約460店舗だから、トヨタの10%だ。両車の販売格差には、店舗数も大きな影響を与えた。
2020年のレヴォーグがモデル末期の状態にあり、店舗数と価格(先代型も売れ筋グレードは300万円を超えた)の違いも含めると、むしろ好調に売れたともいえるだろう。
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