ミニのハイパフォーマンス・モデル「ジョン・クーパー・ワークス(JCW)」シリーズに大谷達也が試乗した。発売早々に完売した「GP」をはじめ、あらゆるモデルに乗った印象とは?
驚くほど安定していたGP
みんな、呆れかえっていた。
ミニのスポーツモデルばかりを集めて袖ヶ浦フォレストレースウェイで試乗する特別なイベントで、私はクルマをとっかえひっかえしながら、与えられた1時間の枠が終わるギリギリまでミニを走らせ続けていた。
試乗前には「いやあ、さすがに30分も乗らないでしょ」と、うそぶいていたのに、それとはまったく正反対の行動に関係者全員が呆れたというか「ダメだこりゃ」という雰囲気に包まれたのは当然かもしれない。
なぜ、私はミニでサーキットを1時間も走り続けたのか?
それはもう、「楽しかったから」の、ひと言に尽きる。
最初にステアリングを握ったのは、「ミニ史上、最速のモデル」とされるミニ・ジョン・クーパー・ワークスGP(ミニJCW GP)。これは世界3000台限定で、日本には240台だけが入ってくるという貴重なモデル。先に断っておくと、昨年11月に発売された日本ではその2カ月後に完売しているので、残念ながらもはや新車では手に入らない「幻のモデル」と化している。それでもここでリポートするのは、ミニが目指す“究極の走りの姿”がそこに表現されていると思ったからだ。
ざっと概要だけ紹介すると、ミニJCW GPはシリーズ中もっともコンパクトな3ドア・ボディに最高出力306psの直列4気筒2.0リッターターボ・エンジンを押し込み、8速ATを介して前輪を駆動。強力なパワーを路面に伝えるため、フロントにはトルセン式LSDが組み込まれているほか、足まわりはスプリング、ダンパー、ブッシュ類を強化。リアサスペンションの一部には、レーシングカーでも使われる「ピロー・ボール」という軸受けを使い、タイヤの正確な位置決めを期している。標準装着される225/35R18サイズのタイヤも、カタログモデルに装着されているものよりさらにスポーツ性能の高いスペシャル・スペックである。
下ろし立ての新車で、タイヤもまったくの新品だったから最初は抑え気味のペースで走った。そのせいか、走り始めたばかりのミニJCW GPは実に安定した姿勢を守ってコーナーを駆け抜けていく。
私は、先代のミニJCW GPをやはりこのコースで試乗した経験を有するが、そのときは真冬の寒い季節だったためか、1周目のヘアピンでステアリングを180度逆転させるほどリアタイヤが突然滑り始めて冷や汗をかいた覚えがあるが、それとは正反対の落ち着いた走りにやや拍子抜けした。
もっとも、306psのパワーは迫力満点で、2速ないし3速のトップエンドではトラクションコントロールの作動を知らせる警告灯が点滅していたほか、4000~5000rpmにかけて、まるでクルマがふわっと軽くなるように感じられる強烈な加速感などが、このクルマがただ者ではないことを物語っていた。
ほぼほぼ限界的なペースに到達してもタイヤが滑り出さないので、私は1周クールダウンして各部を冷やすとピットに戻り、そこで深呼吸をしてからふたたび走り始めた。ただし、今度はスタビリティ・コントロールをオフにした。つまり、電子制御のセーフティネットを取り外し、コントロールを誤ればスピンしかねない状態で走ることにしたのだ。
ここでもミニJCW GPはとても安定したコーナリングフォームを示した。もっとも、限界的なスピードが近づくとスロットルペダルのオン・オフでアンダーステア気味にもオーバーステア気味にもコントロールが可能なスポーツドライビングを楽しめる。この辺は走りにこだわったミニらしいセッティングといえる。
強い走りへのこだわり
続いて試乗したのは3台のミニJCW。こちらは、ミニJCW GPと違ってカタログモデルなのでいまからでも購入可能だ。だからといってパフォーマンスが低いわけではなく、BMWでいえば「M3」や「M5」でお馴染みの「Mモデルに相当する」とされるのが、このJCW。ちなみに、モデル名の由来となったジョン・クーパーはレーシングカーの伝説的な開発者で、皆さんご存じのミニ・クーパーも彼のファミリーネームからとったものである。
軽量なミニJCW GPに比べるとさすがに加速感では一歩譲るけれど、JCWの走りもなかなか刺激的で、400mしかないメインストレートでも160km/hに達するほどの俊足振り。
コーナーでの挙動は、ミニJCW GPほどのどっしりとした安定感はないものの、逆にドライバーの操作次第でクルマの姿勢をいろいろと作る楽しさが残されていた。3台のJCWは短時間ながら公道を走らせる機会もあったが、足まわりはちょっと硬めながらも「スポーツ・ドライビング好きだったらまったく問題ナシ」と思える範囲の乗り心地だった。
いずれにせよ、4台のミニからは強い走りへのこだわりが感じられた。ドライバーを刺激し続ける乗り心地やハンドリング、さらにはサウンドやバイブレーションを含めて、ミニの遺伝子が現代にも受け継がれているのは間違いなさそうだ。
文・大谷達也
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