究極の市販レーシングマシン
トヨタのモータースポーツ部門であるトヨタGAZOOレーシングが、2020年に市販レース車両「GRスープラGT4」の発売を発表し話題となっているが、そもそもモデル名にもなっている”GT4″とは何を意味するのだろうか?
6000万円で買える究極の市販レーシングカー「NISSAN GT-R NISMO GT3」
また、市販レース車両には他にも、日産GT-Rやポルシェ911といった国内最高峰レース「SUPER GT」のGT300クラスに出場する”GT3″も存在。GT3とGT4はどんな車両で、どのような違いがあるのか紹介したい。
カスタマーモータースポーツ用マシン
GRスープラの”GT4″は、トヨタのスポーツカーブランド「GR」初のグローバルモデルとして注目されているGRスープラのレース仕様車。一般に市販するカスタマーモータースポーツ用として開発されたモデルだ。
一方で、市販レース車両には、日産やホンダ、メルセデス・ベンツ、ポルシェなど国内外メーカーが発売している“GT3”が有名。ニュル24時間やGIA-GT、前述の国内最高峰レース「SUPER GT」のGT300クラスなど、多くの名レースに出場している。GT3とGT4は、いずれもレースの競技規定で決められたカテゴリーだが、チューニングできる範囲が違ったり、出場可能なレースも異なるのだ。
マシンの性能差を少なくするための規定
そもそもGTとは、”Grand Touring(グランドツーリング)”の略称。市販車では、長距離を快適に走るための高性能モデル名に付けられることが多いが、モータースポーツの場合は、市販車をベースに大掛かりな改造を施したレーシングカーのことを意味する。
それらの中で、GT3およびGT4は、国際レースを統括するFIA(国際自動車連盟)が設立した車両規定に準じたレース車両のこと。いずれも自動車メーカーではない、自己資金で戦うプライベーターチーム向けのカテゴリーで、まずは2005年に欧州でGTレースを主催するSRO(ステファン・ラテル・オーガニゼーション)によりGT3規定が誕生した。
主な特徴は、エンジン吸気量を抑えパワーを制限する吸気リストリクターの装備を義務付けるほか、コストを削減すべく、チタニウムなど高価な材質の使用を禁止。また、ABSの機能制限や、前レースの上位入賞車両へより重たいウェイトを課するハンディウエイト制などを導入した。
これらにより、GT3レースはマシンの性能格差が少なくなり、より多くのプライベーターが参戦できるカテゴリーとして世界中で人気を博することになる。結果的に、多くの自動車メーカーがGT3マシンをラインアップすることに繋がったのだ。
具体的には、メルセデスAMG GT3、BMW M6 GT3、アウディR8 LMS、ポルシェ911 GT3Rといったドイツのトップブランドをはじめ、アストンマーチン・ヴァンテージGT3、ベントレー・コンチネンタルGT3、マクラーレン720S GT3などイギリスの名ブランドもGT3市場に参入。さらにイタリアのランボルギーニ・ウラカンGT3やフェラーリ488GT3のほか、日産GT-R GT3やレクサスRC F GT3、ホンダNSX GT3など、日本メーカーもGT3マシンをリリースしている。
世界各国でGT3レースを開催
このような車種バリエーションの多彩さは、よりレースを面白いものとするとともに、世界各国のレースシーンがこぞってGT3規定を採用するクラスを設定することになった。
例えば、アメリカのデイトナ24時間レースやベルギーのスパ・フランコルシャン24時間レース、ドイツのニュルブルクリンク24時間レースなどのビッグイベントはもちろんのこと、ヨーロッパのブランパンGTシリーズやアメリカのユナイテッド・スポーツカー選手権などのリージョナル選手権、さらにドイツのADAC GTマスターズ、フランスのFFSA GTツアーなどのナショナル選手権で採用。日本では前述のとおり、SUPER GTへ日本独自の規定による“JAF-GT”車両との混走で戦っているほか、スーパー耐久でも“ST−X”にGT3規定を導入している。
いまやGT3規定は、日本はもちろん、世界中でカスタマーレーシングの代表カテゴリーとして定着しているのだ。
GT3のハイレベル化でGT4が誕生
だが、一方で500ps以上のエンジンパワーを誇るほか、純粋なレーシングカーとして開発されるようになったことで、コーナリングスピードが向上するなどマシンが進化。もともとはアマチュアのためのクラスだったGT3だが、現在ではある程度の経験や資金が求められるようになり、徐々にハードルが高いクラスとなってきている。
ベースとなるマシンの販売価格も6000万円~8000万円といったところ(過去記事:6000万円で買える究極の市販レーシングカー「NISSAN GT-R NISMO GT3」)。当初のコンセプトから逸脱しつつあることから、FIAはGT3よりもアマチュアライクな下部クラスを企画。若手やレースを楽しみたい大人のジェントルマンドライバーなどに向けたそのカテゴリーこそ、近年になって急成長を見せているGT4クラスである(写真はアウディR8 LMS GT4)。
GT4は、GT3以上に改造範囲が厳しく制限され、パーツの約60%が純正部品を使用せねばならないことから、まさに市販モデルの延長にあるレーシングカーと言える。ベース車両の販売価格も約3000万円程度とGT3モデルの半額のため参戦しやすく、エンジンの最高出力も300ps~400ps前後となっていることから、ある程度のレース経験さえあれば、マシンをコントロールすることが可能だ。
もちろん、GT3と同様に吸気リストリタクターやハンディウエイト制で性能調整が図られていることもポイント。これにより、近年では数多くの自動車メーカーがGT4規定モデルをリリースしている。
具体的にはメルセデスAMG GT4、アウディR8 LMS GT4、BMW M4 GT4などのドイツ車をはじめ、アストンマーチン・ヴァンテージAMR GT4、マクラーレン570S GT4など、イギリスのブランドもGT4を設定。このGT4クラスに前述のトヨタGAZOOレーシングも「GRスープラGT4」で参入することになるのだ。
GT4は欧州レースでは有名な存在
現時点ではGT3よりも参戦レースは少ないが、ニュルブルクリンク24時間レースなどのビッグイベントや、日本のスーパー耐久でも“ST-Zクラス”にGT4規定が採用されている。
今後はGT3と同様にGT4も世界各国に普及する見込みで、より多くの自動車メーカーが参戦することが期待され、さらに車種バリエーションが豊富となっていくに違いない。これからは、プロおよびハイアマチュアのためのGT3、そして、プライベーターのためのGT4としてすみ分けられながら互いに発展していくだろう。
ちなみに、SUPER GTにはGT500クラスもあるが、こちらはGT300よりもさらにマシンを高性能化したクラス。各マシンの最高出力は基本的に公表されないもののエンジンパワーは550psを優に超え、トヨタやレクサス、ホンダなどの自動車メーカーによるワークスチームが参戦している。
また、GT500の「クラス1」と呼ばれる車両規定は、ドイツで高い人気を誇るDTM(ドイツツーリングカーマスターズ・写真下)と2019年にほぼ統一化。2リッター直列4気筒ターボを採用するなど、世界的なエンジンのダウンサイジング化に対応した規定となっている。
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