かつてはそれぞれが独立した存在だった自動車メーカー。現在では多くのメーカーが提携を行い、場合によっては買収されて別のメーカー傘下となったというケースもある。エンジンやプラットフォームの共通化によるコストダウン、流通の効率化など、メリットの多いグループ化だが、あるメーカーがどのグループに属しているのがわからないこともあり、さらに意外なグループの傘下となっていて驚かされるブランドもある。
このシリーズでは、そうした「自動車メーカーグループ」に注目し、紹介していくことにしたい。今回はドイツの“巨人” 「フォルクスワーゲン(VW)グループ」の第2回をお送りする。フォルクスワーゲングループには、「フォルクスワーゲン」を筆頭に、「アウディ」「ランボルギーニ」「ポルシェ」「セアト」「シュコダ」「ベントレー」「ブガッティ」「トレイトン」が属しているが、今回はポルシェ以降のメーカーを紹介してこう。
輸入車値上げ続出でもなぜ据え置き? 日本車が滅多に価格を上げない裏事情
文/長谷川 敦、写真/フォルクスワーゲン、ポルシェ、セアト、ベントレー、トレイトン、Newspress UK、Favcars.com
【画像ギャラリー】このクルマもフォルクスワーゲングループ傘下だった!?
ルーツは同じ? VWとポルシェの不思議な関係「ポルシェ」
それまで他メーカーの設計や開発を請け負っていたポルシェが、初めて自社名を冠して発売したスポーツカーのポルシェ356。15年に渡って生産が続けられた
ドイツを代表するスポーツカーメーカーであり、70年代の日本国内スーパーカーブームではランボルギーニやフェラーリと人気を分けあったポルシェ。このポルシェもまた、フォルクスワーゲングループの一員であることを知らない人も多い。
両社の少々複雑な関係は、ビートルことフォルクスワーゲン・タイプ1から始まる。このタイプの1開発を主導したのが天才エンジニアのフェルディナント・ポルシェ博士。そう、後にカーメーカーとなるポルシェを創業する人物である。
タイプ1の開発が一段落すると、ポルシェ博士はかねてから構想していたスポーツカーの開発に着手し、息子フェリーの協力も得て設計をまとめ上げた。そうして出来上がったのが、ポルシェ第一号の356(1948年)だった。この356にはフォルクスワーゲン・タイプ1のコンポーネンツが多数使用されており、広い意味ではタイプ1の兄弟車といえた。356が誕生すると、ポルシェとフォルクスワーゲンは業務提携を締結。以降、現在までこの提携は続いている。
20世紀末に経営難に陥ったポルシェだが、その後業績は回復。この勢いでフォルクスワーゲンの買収を試みるものの、2008年のリーマンショックのあおりを受け、またしても経営が苦しくなったポルシェは、反対にフォルクスワーゲンの力を借りることとなる。その結果、2012年にポルシェはフォルクスワーゲングループに経営統合された。
ポルシェを統合したことが影響してフォルクスワーゲングループの総生産台数は大きく増え、ついにトヨタに次ぐ世界第2位のグループへと成長を遂げた。
ちなみに、1980年代のフォルクスワーゲン拡大路線を推進したフェルディナント・カール・ピエヒ会長(当時)は、フェルディナント・ポルシェ博士の孫(娘の息子)にあたる。
スペイン国産自動車への情熱を具現化「セアト」
1957年から1973年まで製造と販売が行われたセアト 600。フィアット 600のライセンス生産モデルだが、バルセロナ生まれのれっきとしたスペイン車だ
我が国ではもうひとつ馴染みの薄いメーカーがスペインのセアト。2021年時点で国内にセアトの正規代理店はなく、個人輸入や並行輸入車のみが走行している。しかしその歴史は古く、1950年にスペインの産業振興機関とイタリア・フィアットの共同出資で設立されている。
ちなみにセアト(SEAT)とは「Sociedad Española de Automóviles de Turismo(スペイン乗用車会社)」を意味している。
創業まもなくは出資者でもあるフィアットのモデルをライセンス生産し、さらにはフィアット製モデルを独自にアレンジしたクルマを販売するなど、スペイン色を打ち出していった。だが、1980年代に入るとフィアットが撤退してしまい、セアトは存亡の危機にさらされる。そこで救いの手を差し伸べたのが、この時期に拡大路線を進めていたフォルクスワーゲンだった。
フォルクスワーゲンは1982年にセアトとの提携を締結。その後は徐々に影響力を高めていき、1993年には完全子会社としている。スペイン&イタリアのラテン系連合からドイツメーカーの傘下になるという大幅な変化ではあったが、以降は経営も安定。スペインを代表する自動車ブランドの地位を固めている。
現在のセアト製モデルはフォルクスワーゲングループのプラットフォームを使用しているが、かっちりとした本家に比べるとスタイリッシュなボディをまとい、よりスポーティなイメージでまとめられる。ドイツの信頼性とスペインのパッションを併せ持つセアトの人気は高い。
イギリス&イタリアの伝統的ブランド「ベントレー」「ブガッティ」
ベントレーの歴史を彩った名車たち。親会社のフォルクスワーゲンよりも歴史は古く、1920年代にはル・マン24時間レースで5回の優勝を飾るなど大活躍した
1998年にフォルクスワーゲングループのメンバーとなったのがイギリスのベントレーとイタリアのブガッティ。イギリスの高級自動車メーカーとして1919年に誕生したベントレーは、その後ロールス・ロイスに買収され、1998年まで同社の傘下にあった。
いっぽうのブガッティ創業は1909年。創業者エットーレ・ブガッティの名を冠したこのメーカーは、1940年代まで自動車の生産を続けるものの、一旦は自動車業界から撤退。1980年代に商標を獲得した人物の手によってイタリアで復活するが、1995年に経営破綻してしまう。そこでフォルクスワーゲンが商標を取得し、フランスで新たなブガッティをスタートさせた。
ベントレーは長くロールス・ロイス傘下にあったが、そのロールス・ロイスの自動車部門は1973年にヴィッカーズに買収されている。さらにヴィッカーズはロールス・ロイスとベントレーの売却を決め、最終的にロールス・ロイスはBMW、ベントレーをフォルクスワーゲンが買い取ることになった。
フランスで設立されたブガッティ・オートモビルは、フォルクスワーゲンが手に入れたブガッティの商標を利用した新会社だ。もちろんブガッティの名を使うのは、伝統あるメーカーの復活を狙ったものであり、個性的かつ高性能なロードモデルがリリースされた。
なお、このブガッティの商標獲得と新会社設立も、当時のフォルクスワーゲングループ会長フェルディナント・カール・ピエヒの主導によるものである。
主要大型車メーカーを包括「トレイトン」
左からトレイトン傘下にあるスカニア、フォルクスワーゲントラック&バス、マンのトラック。いずれも大型車両で実績を持つ有名ブランドだ
フォルクスワーゲンのトラック&バス部門がトレイトン(TRATON)。1979年にフォルクスワーゲンはブラジルの商用車メーカーの株式を取得し、フォルクスワーゲン・カミニョイス・イ・オニブス(トラック&バス)を設立して自社の商用車部門とした。
2000年代になるとスウェーデンの大型車メーカー・スカニアの株式取得をスタートして、徐々に持ち株比率を増加。2008年には、スカニアがフォルクスワーゲントラック&バスの子会社となることが発表された。
同様にドイツのMAN(マン)もフォルクスワーゲンによって買収が進められ、2010年代前半にはフォルクスワーゲンに対する譲渡契約に署名した。
2018年にフォルクスワーゲントラック&バスは社名をトレイトンに変更した。トレイトンのTRAはトランスフォメーションやトランスポーテ―ションを指し、TONは世界各国を走る同グループの大型車の数(トン数)を表している。
現在トレイトンには、スカニア、マン、発展途上国向け大型車ブランドのフォルクスワーゲン・カミニョイス・イ・オニブスが所属しているが、さらにアメリカの大型車メーカーのナビスター・インターナショナルも傘下に収めることで基本合意を得ている。ますます巨大化するトレイトンもまた、フォルクスワーゲングループの一員なのである。
グループの総自動車生産台数で世界第2位の地位にあるフォルクスワーゲングループ。豊富なリソースと世界的ネットワークを活かしたクルマ作りは、グローバル化が進む現代において最先端を走っているのは間違いない。
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みんなのコメント
ここら辺をネタにして、ゴルゴ13が描かれていたなぁ
ポルシェは息子フェリーが立ち上げて孫のブッツィーが911をつくった
その後VWは娘の孫フェルディナント・ピエヒが継いだ
元々縁の深い(娘と娘婿、息子の会社)間柄だからいまさらどうのこうの言うのも違和感がある
いまはパナソニックに統合されちゃったけど松下電器産業と松下電工みたいなもんか…