都内でクルマを走らせていたら、行く先々でマツダボンゴをよく見かける。クリーニング屋さんや工事関係、冷凍車など働くクルマとして使われていて、その姿はなんともホッコリする。
でもクルマをよく見ると、かなり古い。初代のデビューは1966年、現行モデルは1999年6月発売だから、実に初代のデビューから53年、現行モデルは20年も生産され続けていることになる。これほど形を変えないで、長寿になっているクルマは珍しい。
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ということで、マツダボンゴが20年も愛されている理由をボンゴオーナー2人に聞いたほか、マツダディーラーにも見に行ってきた。いま、ボンゴの謎が解き明かされる!!!
文/岩尾信哉
写真/ベストカーWEB編集部 マツダ
■1999年6月17日に発売され、約20年フルモデルチェンジしていない
新型車として世に送り出された後に役割と成り立ち、名前まで連綿と生き残っているモデルは数少ない。日本メーカーではクラウンやスカイラインなど限られた車種のみ、逆に商用車では名前が残っていても中身は他社からのOEM供給された“兄弟車”という例が多い。
そのなかで5ナンバーサイズの自社製の商用バンとして生き残っているのが、マツダのボンゴ・バン/トラックだ。ちなみに、ワゴンは4代目の登場とともにラインアップから落ちている。
デビューは1966年5月というから半世紀以上の歴史を持つボンゴは、現行モデルで4代目。1999年6月にモデルチェンジを受けた現行モデルだけでも、今年で20年目を迎える長寿モデルなのだ。
ちなみにこの商用バンクラスの販売台数はというと、2018年1~12月のデータを見ると、ハイエース/レジアスエースは5万7893台、日産NV350キャラバンが2万3713台、そしてボンゴバンは1万683台となる。
これからなかなか紹介されることのない、ボンゴの大まかな歴史をお伝えしていこう。
■初代ボンゴ 1966年5月~
初代ボンゴは1966年5月にデビュー。トラックのほか、キャブオーバースタイルの1BOXタイプのバン、ワゴンをラインアップ。エンジンは直4、782ccでリア駆動、サスペンションは4輪独立懸架だった。
ボンゴが名乗った“マルチバン”の“マルチ”の意味は“多用途”と採っていいはずで、ワゴン仕様ではRVの要素が大きかったことが人気を博した理由といえるだろう。
1980年代の感覚でいえば、RVというとハイラックスサーフやテラノのいったSUVがメインだったが、ワンボックスから派生したボンゴはむしろ異色ともいえた。
■2代目ボンゴ 1977年5月~
2代目は旧世代のリアエンジンリアドライブ方式からキャブオーバー形式を採り入れ、後輪に12インチの“ダブルタイヤ”を装着、荷台や荷室/客室をフラット化して、使い勝手を向上させていた。
この2代目ボンゴは、なんと1978~1980年まで国内マツダディーラーの最量販車種で、当時経営の息詰まっていたマツダの救世主的な存在だった。
■3代目ボンゴ 1983年5月~
1983年9月にデビューした3代目ボンゴ。この時代、1979年にフォードとの資本提携のなかで、新しい販売チャンネル、オートラマ向けに乗用タイプのスペクロトンを販売。
また2Lターボディーゼルの新搭載やワゴンの生産終了(1999年4月)などがトピックスとなるが、やはり、ボクのなかで印象に強く残っているのは1995年6月に登場した、見た目としては“セミキャブオーバー”タイプの「ボンゴフレンディ」だ。
基本的にプラットフォームはボンゴと共通の構造を採っており、“オートフリートップ”と呼ばれたルーフを持ち上げてハイルーフ部分にスペースを生み出すキャンパー風の仕立てはファミリー層への訴求力があったが、その後2005年12月に販売を終了している。
■ボンゴフレンディ・オートフリートップ 1995年9月~
■4代目ボンゴ 1999年6月~
衝突安全対応のため車体の前半分のみ新設計したSKプラットフォームを採用した現行4代目ボンゴが1999年6月に登場。旧型をベースとしつつも、インパネも現代風にデザイン変更された。ガソリンエンジンは先代と同じ1.8 L のF8型だが、電子制御燃料噴射装置を追加して、90psに向上。また2.2 L のR2型ディーゼルエンジンも79 ps にパワーアップしている。それに伴いチョークレバーが消滅した。
2003年12月のマイナーチェンジでは排ガス規制に対応した触媒を搭載したコモンレールディーゼルターボを搭載する。
現行のボンゴでは乗用登録のワゴンは未設定であるが、自家用車として兼用する中小自営業者の需要にも応えるため、外観や装備を充実させたワゴン風の上級グレード、GLスーパー(ハイルーフ・4ドア)が設定されていた。
この仕様には専用ストライプも設定。4WDのMT車はトランスファーに2速の副変速機を持つパートタイム式で、旧式ながら現在の日本車で本格的なローレンジを採用する小型商用車はこのボンゴのみだ。
この時代、トラックのシングルタイヤ車に4WDが追加されるとともに、デッキが低床化され「シングルワイドロー」となった。現在、歴代ボンゴの中では生産年数が最も長いモデルである。
現行車では過去には2~2.2L直4ディーゼルも設定されていたが、現在は1.8Lガソリン直4のみを設定(102ps/15.0kgm)。2WD、4WDともに5MTと5ATを用意している。
2016年2月のマイナーチェンジの際には、ボンゴの特徴といえた“ダブルタイヤ”も廃止となった。外観は、バンパーがバン、トラック全車でボディ同色(フロントバンパーの下部はブラック)に統一され、全車にシルバーのフルホイールキャップを採用。
4WD車で採用されているワイドフェンダーデザインを2WD車にも採用したほか、内装はシート色調をブラックとグレーの2トーンに変更。バン「DX」はリアエンブレムを成形品のメッキエンブレムに、バックドアガーニッシュをピアノブラック塗装にそれぞれ変更し、ボディカラーに「アルミニウムメタリック」を追加(ルートバンを除く)。バン「GL」はフロントにメッキグリルを採用した。
日産にOEM供給されていたバネットバン/トラックも2017年6月ですべて販売終了している。
またホイールベースを延長したボンゴブローニィは2010年8月にモデル廃止となり、三菱へのOEM供給も終了。1983年の登場以来、27年の歴史に幕を閉じた。
ざっとではあるが、ボンゴの歴史を紹介してきたがおわかりいただけただろうか。
■韓国では1BOXといえばボンゴのこと
ここで意外にボンゴで意外に知られていないことを1つ。その昔、韓国人とクルマの話をした時に「1BOXといえばボンゴ、ボンゴは1BOXのことを指します。韓国では愛されていますよ」と聞いたことを思い出した。
マツダは韓国KIAと資本提携していた関係で、ワゴン、バンがベスタ/プレジオ、トラックがワイドボンゴの名でライセンス生産が行われていた。
なお、1997年にフルモデルチェンジされ、ボンゴフロンティアとなるが、オリジナルのボンゴとはプラットフォーム以外関連性はなくなり、さらに2004年にはモデルチェンジが行われ、ボンゴIIIとなり、親会社のポーターIIと姉妹車になった。
■マツダディーラーにボンゴを買いに行ってみた!
今でも新車が買えるというので、試乗できるのか、都内のマツダディーラーに行ってみることにした。
ところが数店舗に電話してみると、新車の展示車、試乗車がなく、どの店舗も社用車や代車として使われているとのことだったので、そのうちの1店舗に見に行ってきた。
応対してくれた営業マンは30代前半。ボンゴバンを買う人は大変珍しく、この1年で1人しか販売したことがないそうだ。
これだけハイエースが1人勝ちしているなかで、「ボンゴのウリはなんですか?」と単刀直入に聞いてみると、営業マンはこう応えてくれた。
「ボンゴは5ナンバーサイズで、最小回転半径が4.3mで取り回しがしやすく、視界もいいので運転しやすいのが特徴です。
※編集部註/
ボンゴバンは全長4285×全幅1690×全高1865mm(標準ルーフ)
ハイエースバンは全長4695×全幅1695×全高1980mm(標準ルーフ)
見た目は古いですが、運転席&助手席エアバッグや衝突から乗員を守る衝突吸収フレーム、フロントドア&スライドドアにサイドインパクトバーを採用するなど、安全性も高いです。
もちろん、荷室はたっぷり積めますし、標準ルーフ、ハイルーフ、荷物の積みやすい床が平らな、かさ上げ仕様もございます。価格も低床2WD仕様であれば190万前後から215万円までとなっております。お値引きはかなり勉強させていただきますので、ぜひご検討ください」
用意されたボンゴバンは2016年2月のマイナーチェンジ前のダブルタイヤモデルだった。試乗ができなかったため、なんとも評価しにくいが、いわゆる普通のバン。サイズ的にはハイエースよりも全長が短いので、ハイエースよりも取り回しはよさそうだ。
■ボンゴオーナーの生の声
実際に乗っているボンゴオーナーの生の声を聞いてみた。まずはボンゴを仕事グルマとして使っている斎藤博之さん(仮名)。内装関係の仕事で毎日走らせているそうだ。
「昨年9月に新車に乗り換えました。でもマイナーチェンジ前のモデルのほうがよかったな。ダブルタイヤで乗り心地がよかったんですよ。ハイエースではなくボンゴにしたのは最小回転半径が小さくて、小回りが効いて乗りやすいから。もう20年はボンゴに乗っているかな。燃費は9~10km/Lくらいです」
続いて、なんとボンゴを”痛車”にして乗っているオーナーに直撃! ボンゴで車中泊もしているという「徒歩チャリダー」さんにボンゴの魅力を語ってもらった。
取材/野里卓也
「ボンゴバンの良い点は、ハイエース、キャラバンでは高価で大きすぎる、軽箱では小さすぎる。そういう人達の為の受け皿になっていると思います。
ボンゴはとてもいい中間サイズの商用車です。ただし、不人気車ゆえに、趣味車で所有する人少なく、カスタムパーツもあまりないのが欠点でしょうか。
しかしその欠点を上手く活かせば、弄り方によっては唯一無二の存在になれる、そんなところがボンゴバンの魅力でしょうか。
あと、自分のクルマの場合ですと、リフトアップと痛車。リフトアップは2006年に行い、4代目SK系ボンゴバンではおそらく第1号です。痛車は、『ボンゴバンの痛車は珍しい』とよく言われます。
また、車中泊のDIYですが、4ナンバーゆえに車内が簡素なのでとてもやりやすいです。乗用ミニバンより商用バンを好むようになった理由のひとつでもあります。
ボンゴバンは車両価格が安いのですが、下取り価格も期待できないので、乗りつぶすつもりで躊躇なくDIYができます」。
■数年後、ボンゴはなくなる運命!?
ボンゴが20年も生き続けてこれたのはやはり使っているオーナーの愛によるものなのは間違いない。
しかし、現実の商用バンの市場はいまやトヨタと日産の占有状態といえる。販売店の営業力が物を言う世界であり、ユーザーの立場からすればコストは抑えたいし、売る側も事情は同じだ。
2000年代には生産コストを抑えるために、トヨタは2008年からタウンエース/ライトエースをタイ工場で生産して日本への輸入を開始、現在はダイハツのインドネシア工場で生産している。
2015年にボンゴのOEM供給を終了した日産はNV200バネットを日産車体湘南工場をはじめとして、スペインなど世界5ヵ所で生産する“グローバルモデル”に変更した。同じく三菱のデリカバンもボンゴのOEM供給車だったが2011年に終了、現在はNV200を日産から供給を受けている。
マツダは2012年に2010年代後半には衝突安全性への対応などによって商用車の生産から撤退する意向を明らかにしており、いずれは廃止の対象となることは目に見えている。
周知の通り、2017年にトヨタとマツダは業務資本提携を結び、米国での完成車の生産合弁会社の設立や、電気自動車の共同技術開発やいわゆるコネクテッド・ADASなどの先進技術での協業を発表しているが、2018年6月から商用2ボックスバンのOE供給を日産からトヨタに変更、プロボックスをファミリアバンとして販売することになった。
こうなると、ボンゴもタウンエース/ライトエースへの切替が実施されるのではとの憶測が流れるのも無理はない。マツダが自社生産にこだわってきたのは、企業側のノスタルジーばかりではなく、急激に販売が増加するわけではない商用バンの需要が、数は限られているにしろ確実にあったからに他ならない。コストや生産の効率化ばかりを考慮して、車種整理を容赦なく実行するようなメーカーとは“立ち位置”が違うと思いたい。
以下の長寿車の運命はいかに? ボンゴ同様、欲しい人は早く購入したほうがいいだろう。
■そのほかの10年以上販売している主なクルマ
パジェロ 2006年10月
ランドクルーザー200 2007年9月
エスティマ 2006年1月
プレミオ/アリオン 2007年6月
GT-R 2007年10月
フェアレディZ 2008年12月
キューブ 2008年2月
アトレーワゴン 2005年5月
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