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忘れた頃に冬は来る! 新型ミシュラン「X-ICE SNOW」試乗記

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忘れた頃に冬は来る! 新型ミシュラン「X-ICE SNOW」試乗記

6月30日、ミシュランの新しいスタッドレス・タイヤ「X-ICE SNOW(エックス・アイス・スノー)」が発表された。なぜ初夏の今、スタッドレ・タイヤが発表されるのか? そんな疑問に答えつつ、2月初旬に北海道で試乗した今尾直樹が、印象を報告する。

なぜ今、新型スタッドレス・タイヤが発表されるのか?

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「ねえねえ、イナガキ、このなかでウィンター・スポーツ、スキーとかスノボとかボブスレーとかが似合うおとなってだあれ?」

と、チコちゃんになったつもりで書き出してみました。6月30日、フランスの大手タイヤ・メーカーといえば、ご存じミシュランが新しい乗用車用スタッドレス・タイヤ「X-ICE SNOW(エックス・アイス・スノー)」を発表した。発売は8月11日である。

スタッドレス・タイヤは冬に使うものでしょ。それなのに、どうしてこんな時期に発表するの? 梅雨のさなかで、これから熱中症対策用マスクが必要な夏がやってくるというのに……。

スタッドレス・タイヤの発表時期がなぜ、夏前なのかも知らず、やれミシュランは1982年に日本で初めてスタッドレス・タイヤを発売したパイオニアだの、「X-ICE 3+」以来、4年ぶりにモデルチェンジしたのが新製品の「X-ICE SNOW」だだの、とウンチクをかたむける輩のなんと多いことか。

チコちゃんは知っています。答は、それが新しいスタッドレス・タイヤを発表するときの常識だから~。

さすが、チコちゃん。5歳なのによく知っているね。

だって、日本ミシュランタイヤの広報にメールで聞いたから~。

そうなんです。スタッドレス・タイヤの新商品の「発表」は夏前から夏が一般的で、その発表のとき「発売」の時期を示すことになっている。その発売時期は遅くとも9月までくらい、というのが業界の目安で、「X-ICE SNOW」の場合は、前述したように8月11日だから、ちゃんとそれに則っている。

発表から発売までの数カ月のあいだに、タイヤ・メーカーはメディアを通してユーザーへの認知を図る一方、各販売店に新商品を発送し、店頭での陳列&装着に向けての準備を進める。生産・開発・流通用語でいうところの“リードタイム”である。

商戦としていちばん早いのはもちろん北海道で、早い地域では10月に初雪を迎える。そこから逆算すると、スタッドレスは夏前から夏に発表、遅くとも9月までに発売する、という業界の常識もうなずける。それより早い春の発表となると、たとえば発売までに忘れられちゃって新商品効果が薄れたり、在庫管理などの問題が生じたりすることになるのだろう。

リードタイムを十分にとるもうひとつの理由として、メディアを通して情報を展開することで、スタッドレス・タイヤは安全部品だから早めに装着するべきである、とユーザーを啓発する意味も業界的にはあるという。「これ大変重要です」と小林さんは記している。

おわかりいただけたでしょうか。チコちゃんはスタッドレス・タイヤを履いて、どこに行きたいかな?

石垣島~。

スタッドレス・タイヤの基本とは

では、「X-ICE SNOW」のどこがどうスゴイのか? 全部スゴイ。さる2月初旬、筆者は北海道・士別にあるテスト・コースとその周辺の一般道で「X-ICE SNOW」を履いたクルマに試乗し、正直たまげた。これはスゴイと思った。一見、おなじ黒いゴムの塊なのに、比較のために用意された従来製品よりも氷と雪、両路面で明確な差が認められたのだ。

その話に入る前に、基本的なところを押さえておきたい。まず、フランスのミシュランがなぜ北海道でスタッドレス・タイヤを開発しているのかといえば、日本の消費者のニーズを反映し、世界でも過酷な部類に入る日本の冬道を克服するためだという。読者諸兄も経験がおありかと思うけれど、日本では雪が降ると家から近所のスーパーに行く短い距離でも、新雪から圧雪路、アイスバーン、シャーベット路面へと、さまざまに変化する。

冬の道でタイヤがしっかり止まるためには、路面をひっかく「エッジ効果」、 水の膜を取り除き路面に密着する「グリップ効果」、雪を踏み固めて前進する「雪踏み効果(雪柱せん断効果)」の3つの力のバランスが大切だと考えているミシュランとしては、いや、ミシュランだけでなく、どこのメーカーであろうと、路面がさまざまに変化する分、スタッドレス・タイヤの開発が複雑になるであろうことは容易に想像がつく。

そもそも冬の道が滑りやすいのは、タイヤと路面のあいだに水の膜や雪が入り込み、摩擦が小さくなってしまうからだ。冬の人気スポーツのカーリングでは、投げたストーンの前をブラシでゴシゴシ擦っているけれど、あれはもちろんフロアをピカピカに磨いているのではなくて、氷を溶かして滑りをよくしているのである。あるいは、テーブルに置いた氷が滑りやすくなるのは、溶けてできた水の膜のせいなのだ。

逆に言えば、北欧のように氷や雪が溶け出すほど日中の気温が上がらなければ、問題はさほど複雑にならない。日本では、筆者の経験からしても、年間せいぜい2~3日のことだとはいえ、関東地方だって雪が降り積もる。そうすると、日陰と日向では道路状況がまったく異なるし、昼夜の寒暖差により、降り積もった雪が夜間から朝方にかけて凍結し、翌日、陽が出ると気温が上昇して氷が溶け出して、凍結路面の上に水膜をつくる。そして、夜になると、その水膜が凍って……ということが繰り返される。

というわけで、ミシュランは1991年に群馬県太田市にR&Dセンターを設立し、特別豪雪地帯に指定されている北海道・士別でテストをおこなっている。その最新の成果が「X-ICE SNOW」なのだ。

X-ICE SNOWのポイント

この新製品ではまずもってタイヤ設計の両輪であるコンパウンドとトレッド・パターンを一新している。それによって、アイスとスノーでの性能を向上させ、従来から定評のあったトータル・パフォーマンスのさらなる洗練を図っている。しかも、それをより長く維持するロング・ライフ性能の向上も重視されているという。

コンパウンドというのは、混合物、複合物という意味で、タイヤではトレッド部に使う複合ゴムのことである。スタッドレス・タイヤは低温でもしなやかさを失わないように特殊配合ゴムを使用している。しなやかさでもって、路面に密着する力を得ようとしているわけだ。

X-ICE SNOWで採用された「Ever Winter Grip(EWG)コンパウンド」には、その特殊配合ゴムに、これまでのX-ICE 3+のポリマー(合成樹脂)ベースの配合物よりも、より大きくて、より不均一な配合物が練り込まれている。分子レベルの話なので、肉眼では見えないけれど、この配合物がタイヤの表面に微小な凸凹をつくり、雪と氷をひっかくエッジ効果、水膜を破って路面に密着する効果、さらに雪上で雪踏み効果、雪を踏み固めて蹴り出す力(雪柱せん断効果)を生み出し、従来型よりも雪と氷、両方の路面でのグリップ性能を向上させている。

これら3 つの力、もしくは3つの効果は、トレッド・パターン、ようするにミゾの形状とも大いに関係がある。

X-ICE SNOWでは、「新世代Vシェイプトレッドパターン」という新しいトレッドを採用している。Vシェイプにすることで、トレッド全体に対するミゾの比率(ボイド・レシオ)を増やしている。ボイド・レシオが増えると、ウェット路面やシャーベット路面で効率よく雪や水を排出し、安定したグリップが得られる。また、サイプの長さを従来型よ28%長くして、氷上でのエッジ効果を最大化し、アイス・グリップを高めてもいる。

サイプというのはトレッドの細かいミゾのことで、これをブロックにたくさん入れることで、ブロックを柔らかくして路面との接触面を増やすと同時に、アイス路面でエッジ効果を生み出している。

スタッドレスは50%摩耗したら、冬用タイヤとしては寿命が尽きる。その寿命を示すサインを「プラットフォーム」という、ミゾにつけられた段差だ。スタッドレス・タイヤの場合、このプラットフォームが現れるまでグリップ性能が維持できれば、ロング・ライフだと認めてもらえることになる。

X-ICE SNOWではプラットフォームまで、トレッド・パターンが深く刻まれている。こうすることで、50%摩耗の使用限界までトレッド・パターンがくっきりする。そうすると、ブレーキ性能がそれだけ長く続く。

従来型のX-ICE 3+ではプラットフォームまでだったコンパウンドは、新製品では新開発のEWGコンパウンドがミゾの底まで使われている。これによってトレッド・ブロックのしなやかさが使用限界末期になっても保たれて、氷雪性能がより長く続く。

サイプを長くて深いものにすると、ヘニャヘニャになってしまいそうだけれど、ミシュランは「VTSサイプ(3D Variable Thickness Sipes Technology™)」と「NewクロスZサイプ」という2種類の独自設計のギザギザのサイプで支え合うような構造にして倒れ込みを防止している。前者は厚みのあるサイプで雪上にしっかり食い込んで雪踏み効果を、後者はアイス路面の水膜を除去してアイス・グリップに貢献するという。

段違いの性能

以上のような説明のあと、5つのテストが用意されていた。

私たちの場合、最初はトヨタ「ハリアー」の2.0リッター・モデルで圧雪路の定常円からスタートした。比較用に他社の主力スタッドレス・タイヤを履いたハリアーがもう1台用意されており、交互に40km/hでグルグルまわってみて、筆者はその違いにまずたまげた。

比較用の他社製品は、グリップ力は若干劣るかもしれないけれど、それなりに運転しやすいこともまた確かである。ミシュランのX-ICE SNOW、225/65R17を履いたハリアーは、クイックすぎるぐらい舵が効く。カーナビに「急ハンドルです」と指摘されるほどに。

おそらく、ミシュランの新型スタッドレスのグリップ性能が筆者の期待レベルよりはるかに高いのだ。だから、ドライバーの私としてはおなじ40km/hを目安に定常円旋回しているつもりでも、何事も起きないため、おのずとアクセル開度が増えてアンダーステアが出始める。そこでアクセルをゆるめて、ステアリングを内側に切るものだから、荷重移動もあってオーバーステア気味にフロントが食いついて、で、「ボーッと生きてんじゃねーよ」とカーナビに叱られる。

叱られないようにするにはどうしたらよいのか、自動車ジャーナリストの河村康彦さんに相談してみたら、ゆっくりステアリングを切ればいい、という回答だった。なあるほど。

レーダー・チャートで見る限り、旧型X-ICE 3+に比べてスノー・グリップの向上はアイス・グリップの向上ほどではないけれど、それはあくまでレーダー・チャート上での話であって、定常円のテストではスゴイと私は思った。レヴェルが違う。

テスト2は、215/55R17のトヨタ「クラウン」のハイブリッドを使用し、屋外のアイス路面を20km/hで走って直角に曲がり、そのあとスノー路面で50km/hまで加速してフル・ブレーキングし、スラロームする。比較車は先ほどと同じ銘柄のタイヤを履いていた。

ミシュランの新製品のほうが好印象だったのはスノー路面で、グリップがいいから加速も減速もいい。スラロームも比較車より安定している。

屋外のアイス路面は、ミシュランのひとも、「ここまで滑ることは一般道ではないかもしれない」というレベルで滑りやすかった。ツルッツルすぎて、タイヤ云々より、ラインの取り方で差が出た。最新のスタッドレスといえども、スピードの出し過ぎは禁物である。運動エネルギーは速度の2乗に比例するのだからして。と個人的に思った。

テストその3は、235/55R19を履いたレクサス「RX450h」でのスノー路面での40km/hぐらいでのレーン・チェンジと、自由スラローム、それと60km/hからのほぼ停止、というプログラムだった。これも別銘柄を履いた比較用のRX450hが用意されていた。確実に言えるのは、X-ICE SNOWを履いたRXのほうがよりよく止まる、ということだ。

テスト4は、クローズドのテスト・コースから一般道へとクラウンで飛び出した。基本的にはどこも圧雪路だったけれど、ミシュランX-ICE SNOWを履いたクラウンはまるでフツーのアスファルト路面を走っているかのようにフツーに走ることができた。

最後は、気温マイナス8℃の屋内アイス路面試験場でのテストだった。タイヤはX-ICE SNOW、その旧型のX-ICE 3+、それに先ほどまでとは異なる他社製品の3つ巴戦で、サイズはすべて205/55R16で統一されている。これらを履き替えながらフォルクスワーゲン「ゴルフTSI」で、停止状態からパイロンまでアクセルを全開にし、速度が20km/hに達したところでそれを維持し、パイロンに到達したところでドンとフル・ブレーキングする。そして、20km/hまで加速するのに要した距離とブレーキングしてから停止するまでの距離を比較する。重要なのは数値ではなくて、その際のフィーリングだ、とミシュランのひとは付け加えた。

それをそれぞれ2回ずつ試みたわけだけれど、その結果、ミシュランの新型は旧型よりも加速距離も制動距離も短くなっている。たとえば、加速距離は旧型が18m台だったのに対して、新型は17m台だったし、制動距離は旧型が7m台後半だったのに対して、新型は6m台だった。アクセルを全開にすると旧型はトラクション・コントロールが働くけれど、新型はグリップして、いきなりグイッと路面に食いつく。ブレーキング時のABSの作動も新型のほうが明らかに短い。

他社製品は加速距離、制動距離ともにミシュランの旧型に及ばなかった。でも、グリップがよくない分、遅いわけだから、コントロールはしやすい。それだけスピードに気をつけて、早めのブレーキングを心がければよい、という考え方もある。

朝は外気温マイナス11℃、午後2時にはマイナス6℃まで上がったけれど、そういう極寒の士別で開発されたミシュランの新製品「X-ICE SNOW」は確実に旧型より、あるいは他社製品よりすぐれたグリップ力を見せた。新コンパウンド、新トレッド・パターンという最新技術の採用によって、ミシュランのスタッドレス・タイヤはさらなる進化を遂げたのだ。

ただし、それはこの日のテストに限っては、という条件がつく。というのも、筆者は士別に向かう前日、旭川市内で夕食を食べに行くべく街に出て、3回も滑って転んだ。旭川市内の歩道は凍てついた雪に覆われていて、北の国に行くと思って私はラバー・ソールのブーツを選んで履いてきたのに、スノー・ブーツではないそれは、さっぱりグリップしてくれなかったのだ。なるほど雪道においては、足元選びは重要である。

ところが、士別の気温マイナス11℃~マイナス6℃のテスト・コースの圧雪路では、前日のカチンコチンに凍結した雪に覆われた歩道ではまったくグリップしなかった私の靴がちゃんとグリップしてくれて、おかげで一度も転ばなかった。

つまり、ゴムというのは温度によって違った顔を見せるのだ。私のブーツを基準にしてミシュランの新型の性能を疑っているわけではない。ミシュランの新型X-ICE SNOWはスゴかった。技術の進歩が肌で感じられる。

とはいえ、日本の冬の道はバラエティに富んでいる。もしかしたら合わない環境とか路面があるかもしれない(ないかもしれない)。申しあげたいのは、くれぐれも過信めさるな、ということである。

文・今尾直樹

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みんなのコメント

2件
  • こんな四駆性能低い車種に履かせたら
    パフォーマンスの宣伝にならないでしょう。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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