Porsche Panamera Turbo Sport Turismo × Panamera × Macan GTS
ポルシェ パナメーラ ターボ スポーツツーリスモ×パナメーラ×マカンGTS
ポルシェのSUV&サルーンは本流となりうるか? ロングツーリングで高平高輝が検証する【Playback GENROQ 2018】
旅するポルシェ
SUVやサルーンのポルシェは本流ではないというのは当然理解できるが、その一方で積載能力や、家族と旅を楽しめるポルシェという側面も無視できない。使えるSUVのポルシェとして、あるいはサルーンのポルシェとして注目が集まる2モデルを、モータージャーナリスト・高平高輝があらためて試乗し、再考した。
「裏磐梯にないコーナーはない。痛快な走りを思い出させてくれた」
やっぱりあった、と思いつつステアリングホイールを瞬間的に右に当てる。昔さんざん走った道は久しぶりでも案外正確に覚えているものだ。確かこの先の左コーナーには大きなうねりがあったはず、と何となく身構えていたせいもあるが、覚えていたほどは跳ね上げられなかった。上下に煽られて、はずみでリヤが外側にザっと流れ、おそらくタイヤ一本分ぐらいは外側に膨らんだだろうが、一瞬ステアリングを当てただけで再び何事もなかったかのように加速できた。こういう懐の深さというか余裕というか、ドライバーに十分コントロールできるという確かな自信を与えてくれるのがさすがだ。一番おとなしいスタンダードのパナメーラであっても、やはりポルシェであると納得せざるを得ない。
裏磐梯を抜けるこのルートは交通量が少ないだけでなく、アップダウンもあればツイスティなコーナーも高速セクションもあり、さらに適度に舗装が荒れている個所も路面のうねりも、すべて揃っているという理想的な試乗コースである。もしも同じコースを911カレラで走ったならもっと痛快だったろうな、と考えることをやめられない自分もいる。
ポルシェといえばスポーツカー、つまり911に限る。百歩譲っても718ボクスターかケイマンだ。せっかくポルシェを選ぶのに、どうしてわざわざSUVや4シーターセダンを選ばなくてはいけないのか、と頭から認めたくないという人もまだまだ多い。正直に言えば私もその派閥である。まあ、ある程度以上の年齢のドライバーなら自然な反応ともいえる。何しろ私たちの世代は若いころからさんざんポルシェの凄さを聞かされて、911への憧れが染みついている。それに比べてカイエンやパナメーラが登場したのは21世紀になってから、ついこの間のことなのである。今流行しているからと言って、音楽の好みが急には変わらないのと一緒である。
「いまやポルシェの屋台骨となったSUVとセダンを軽視できない」
もちろん、SUVに手を染めるのはスポーツカーメーカーの矜持にかかわるなどと言っている時代ではないことは理解している。とうとうロールス・ロイスさえSUVを発表し、残る牙城のフェラーリは一体どうするのか、というところまで来ている。であれば、創業以来最低限の実用性を捨てないモデルを造り続けてきたポルシェが、スポーツカーメーカーとしてはいち早くSUV開発に乗り出し、実際に大成功を収めたのは、まさに先見の明があったと言わなければならない。
今や年間24万台ほどを生産するポルシェのその7割ほどがSUVだという。911は依然進化を続けているが、屋台骨を支えているのはSUVであることは、もはや否定できない事実である。またそこで得られたノウハウが、グループの他のブランドに活かされているというシナジー効果も見逃せない。それでも、とオジサンの頭の中では堂々巡りが始まる。911に思い入れがない若いユーザーには分かってもらえないかもしれないが、これもまたポルシェと認めるにはどうしても何かがちょっと引っかかるのである。
「飛ばせば飛ばすほど輝くパナメーラ」
ほぼ1年前のジュネーブ・ショーでデビューしたのがパナメーラのワゴンバージョンである「スポーツツーリスモ」だ。といってもボディの3サイズは標準型と変わっていない。ホイールベースも2950mmで同一だから、乱暴に言えばルーフを伸ばした先により小さなハッチゲートを取り付けたシューティングブレークのような位置づけなのだろう。知らない人には見分けがつかないぐらいの微妙な違いである。
荷室容量は20リットル増えて520リットル(最大1390リットル)に拡大され、後席が3人掛けとなり(中央席は大人にはちょっと苦行だが)日常での使い勝手が向上したことのほうに意味があるかもしれない。とはいえ、それをわざわざ別のモデルラインとして発売してしまうのだから、さすがポルシェは商売上手という気がする。
「路面を削るような瞬発力を見せつけるターボ スポーツツーリスモ」
ターボ・スポーツツーリスモのエンジンは標準ボディのターボと同じ4.0リッターV8ツインターボで、550psと770Nmを発生、トランスミッションは8段に増えたPDKである。スポーツクロノパッケージ付きでは0-100km/h加速3.6秒という超弩級のパフォーマンスを誇り、全開加速を試みると4WDならではの路面を削るような瞬発力を見せつけ、目の前がちょっと暗くなるほどの加速Gを造作なく発揮する。
もっとも、山道を全力の半分程度のペースで走っている限りは、まるで問題なく素晴らしく安定してスイスイ速く、また高速道路では巌のように安定しているのだが、不思議なことに、山道をフルスロットルで走ろうとするとかえってぎこちなくなってしまうことに気づいた。もちろん豪快だが、いささか洗練度に欠けるというか、無理矢理に曲がっている感触がある。過剰なほどのパワーをトルクベクタリングや4WSなど、満載された電子制御システムが知らぬうちに抑えて、それがぎこちなさを生み出しているのかもしれない。ならばシステムオフにすれば、というところだが、人里離れた山道でもすべてを解き放つのは後ろめたいほどの怪力なのである。
「バランスに優れるクルマというのはまさしくパナメーラのことだ」
それに対してスタンダードのパナメーラの3.0リッターV6ツインターボは330ps、450Nmという「ターボ」に比べれば穏当なパワーを発生。RWDだから車重も約250kg軽量だ。エンジンそのものはあまりエキサイティングではないタイプながら、十分にパワフルだ。
一方でワインディングロードを飛ばせば飛ばすほど、そのリニアなコントロール性と高い安定感が身体に浸み込んでくるのがスタンダードのパナメーラである。ロールも小さくないが、姿勢変化は自然でまったく不安に感じない。バランスに優れるクルマというのはまさしくパナメーラのことである。
「マカンを山中で思い切り踏むのは、不得意な競技を無理強いしているよう」
一番の新顔かつとっつきやすいマカンだが、GTSは600万円台から始まるシリーズの中でも「マカンターボ」に次ぐ上級高性能モデルで車両価格も1000万円に近い。こちらも3.0リッターV6ツインターボエンジン(ボア×ストロークは96×69mm)を搭載するが、パナメーラ用とは異なり、マカンターボの3.6リッターV6ツインターボ(同96×83mm)のショートストローク版である。この3.6リッターV6は4.8リッターV8から2気筒を省略したものだから、パナメーラ用の3.0リッターV6ツインターボ(84.5×89mm)とは系統が別で、いわばひとつ前の世代のユニットである。
またそれとは別にパナメーラ4S用などに440psの2.9リッターV6ツインターボユニットも用意されているので紛らわしい。パナメーラの図体に比べコンパクトと思いきや、1.9mを超える全幅は狭い山道向きというわけでもない。視界はいいが、その分やはり腰高感は否めず、山中で思い切り踏むのは、得意ではない競技を無理強いしているようでちょっと気が引ける。もちろんポルシェ同士の比較の話である。
モデルや価格とパフォーマンスの“年功序列”を少しも乱さず守るところがポルシェの憎らしいところ、値段分は何かしらのメリットがあるのが通例だ。ただし、それもモデル数が増えて複雑微妙になってきた。今回は素のパナメーラの完成度が明らかに光っていたのである。
REPORT/高平高輝(Koki TAKAHIRA)
PHOTO/篠原晃一(Koichi SHINOHARA)
【SPECIFICATIONS】
ポルシェ パナメーラ ターボ スポーツツーリスモ
ボディサイズ:全長5049 全幅1937 全高1432mm
ホイールベース:2950mm
トレッド:前1657 後1639mm
車両重量(EU):2110kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3996cc
最高出力:404kW(550ps)/5750-6000rpm
最大トルク:770Nm(78.5kgm)/1960-4500rpm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):前275/40ZR20(9.5J) 後315/35ZR20(11.5J)
最高速度:304km/h
0-100km/h加速:3.8秒
CO2排出量:217-215g/km
車両本体価格:2453万3000円
ポルシェ パナメーラ
ボディサイズ:全長5049 全幅1937 全高1423mm
ホイールベース:2950mm
トレッド:前1671 後1651mm
車両重量(EU):1890kg
エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2995cc
最高出力:243kW(330ps)/5400-6400rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/1340-4900rpm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム径):前265/45ZR19(9J) 後295/40ZR19(10.5J)
最高速度:264km/h
0-100km/h加速:5.7秒
CO2排出量:173-171g/km
車両本体価格:1162万円
ポルシェ マカンGTS
ボディサイズ:全長4692 全幅1926 全高1609mm
ホイールベース:2807mm
トレッド:前1650 後1660mm
車両重量:1970kg
エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2997cc
最高出力:265kW(360ps)/6000rpm
最大トルク:500Nm(51.0kgm)/1650-4000rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):前265/45R20(9J)後295/40R20(10J)
最高速度:256km/h
0-100km/h加速:5.2秒
CO2排出量(EU複合モード):215-210g/km
燃料消費率(EU複合モード):9.2-8.9リッター/100km
車両本体価格:981万円
※GENROQ 2018年 7月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。
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みんなのコメント
懐かしい。
当時を振り返って、
ポルシェファミリーで避暑地を目指す。
なんていう記事が出てくるんじゃないかな?