コンパクトなボディに元気なエンジン。クルマ好きにとって、これほどワクワクさせるパッケージングはないかもしれない。大排気量のハイパワー車も魅力的だけど、手頃なサイズでキビキビ走れるホットハッチは、それとは違う楽しみを味わわせてくれる。そんな小さな実力者たちを紹介しよう。
文/木内一行、写真/スズキ、ホンダ、三菱、FavCars.com
80年代の[ボーイズレーサー]から現代の[ホットハッチ]まで…走りがアツい!! コンパクト4選
【画像ギャラリー】走りをとことん楽しめの激推し4台(14枚)
■ターボでドーピングしたジャジャ馬ハッチバック―トヨタ・スターレット ターボ(3代目)―
「イダテンターボ」を名乗るだけあり、エアスクープ付きのボンネットや専用バンパー、サイドのデカールなどでターボモデル&スポーティさを強調。写真は後期だが、前期ではフォグランプがフロントバンパーに内蔵されていた
1980年代に繰り広げられたパワーウォーズ。各メーカーはターボやDOHCといった技術を次々と投入し、ライバルよりもハイパワーを得ようと躍起になっていた。その流れは軽自動車やコンパクトカーにも波及し、1986年にはトヨタのベーシックカーであるスターレットにもターボモデルが追加された。
最大の注目はもちろんパワーユニット。ターボチャージャーとともに空冷式インタークーラーも装備した1.3リッターSOHCターボの2E-TELUは、105ps/15.2kg-mを発揮。約800kgのボディにこのハイパワーなのだから、走りは過激だ。
また、ユニークなのがターボの過給圧をHI/LOの2段階で設定できる2モードターボシステム。
LOモードでは91ps/13.4kg-mに抑えられるのだが、裏を返せばそれほど強烈なパワーだったということ。しかも、翌年のマイナーチェンジでは110ps /15.3kg-mまで高められた。
ターボというだけで当時は注目の的だったが、エクステリアもその名にふさわしいものだった。大きなパワーバルジを設けたボンネットにはインタークーラーに走行風を導くためのエアスクープを装備し、リアゲートには上下2段のツインスポイラーを装着。見た目からしてヤンチャ感満点だ。
ちなみに、スターレットターボのキャッチコピーは「イダテンターボ」。名は体を表すとは、まさにこのことである。
■レーシングスピリットを継承した赤バッジ―ホンダ・シビック タイプR(6代目)―
1992年に発売されたNSX-R。快適性のための装備を削り、速さを突き詰め、サーキットで極限のパフォーマンスを発揮できるようにしたピュアスポーツモデルだが、これを原点にタイプRの歴史がスタート。
1995年にはインテグラに設定され、1997年には6代目シビックにも追加された。
そのタイプRは、扱いやすいサイズ、広い居住空間、優れた走行性能など、シビックの持つ素質を生かしながら他の車種と同様、走りの楽しさと運動性能を徹底追求。
エンジンは、クラス最高峰の加速フィールとレスポンスを目指してチューニングされたB16B。具体的には、高回転対応バルブシステムの採用や吸排気抵抗の低減および圧縮比アップ、フリクションの低減などを実施し、ベースのB16Aよりも15ps /0.3kg-mアップを実現した。
一方、優れた旋回性能や人車一体感のある走りを目指し、スプリングレートやダンパーの減衰力を高め、ヘリカルLSDの特性も変更。さらに、パフォーマンスロッドを追加してテールゲート周辺を大幅に強化することで、ボディのねじれ剛性を35%も向上させている。
もちろん、ドライバーをその気にさせる演出もあり、タイプR専用の赤バッジが各所にあしらわれ、レカロ製のバケットシートやチタン削り出しシフトノブなどを装備。
走りだけでなく、ドライバーの気持ちを高揚させてくれるのがタイプRなのだ。
■ボディまでチューンしたマニアックなスポコン―三菱・コルト ラリーアート・バージョンR―
一世代、約6年で消滅したため、あまり記憶に残っていない人もいるかもしれないが、コルトにラインナップされていたラリーアート・バージョンRはかなり攻めたモデルだった。
2002年にデビューしたコルトには、ターボエンジン搭載の「ラリーアート」がすでに設定されていた。
しかし、2006年に追加されたバージョンRではさらに走りに特化したチューニングを実施。三菱がモータースポーツで培ったノウハウが随所に注入され、スパルタンなホットハッチに仕上げられた。
まず、見た目からして強烈だ。最も目立つのはブラックのオーバーフェンダーで、冷却性を高めるために採用された開口部の大きなフロントバンパーやボンネットのエアアウトレットもスペシャル感満点。
パワートレインも強力で、1.5リッターMIVECターボは排気系を改良することで、クラストップレベルの154psを発揮。組み合わせるMTはゲトラグ社製の5速で、クラッチはザックス社製を採用。モータースポーツで実績のある欧州メーカーのパーツが、惜しげもなく投入されているのだ(CVTもあり)。
もちろん、足まわりやブレーキも強化されているが、バージョンRの特筆すべきポイントはボディ。通常比約1.5倍にもおよぶスポット溶接を増し打ちし、Dピラー周辺に補強を加えることで、ボディのねじり剛性を約30%も向上している。
ここまでチューニングされたコンパクトカーは、そうそうないだろう。
■現代のボーイズレーサーは軽量ハイパワーの元気印―スズキ・スイフトスポーツ(現行)―
全幅が1735mmに拡大されて3ナンバーとなり、より安定感のあるフォルムに変身。ノーズを前方に突き出し、躍動感を強調したマスクが特徴的だ。さらに、空力パーツの最適化により空気抵抗は先代比で約10%低減された
ただでさえMTのスポーツモデルが少ない時代において、現代のボーイズレーサーと言えるのがスイフトスポーツだ。初代から数えて4代目となる現行モデルは2017年にデビュー。
ボディサイズは全長こそ先代と同じながら、全幅を拡大してワイドトレッド化。スイフト初の3ナンバーとなった。
その一方で、新プラットフォームや軽量衝撃吸収ボディの採用、各パーツの最適化により先代比70kgの軽量化を達成。MT、ATともに車両重量は1トン以内に収まっている。
軽量ボディに搭載されるエンジンは、1.4リッター直4ターボユニット。ダウンサイジングターボだが、先代の1.6リッターよりも最大出力4ps、最大トルクは7.1kg-mも向上。過給応答性を高め、幅広い回転で鋭い加速を実現した。
ちなみに、MTは先代と同様に2~5速をクロスレシオ化した6速、ATはパドルシフトを備えるトルコン式6速となる。
サスペンションだってチューニングされ、専用のハブベアリングやトーションビームにより車軸支持剛性を高め、ステアリング操作に対する追従性をアップ。さらに、専用スタビやスプリング、ブッシュ類を採用してロール剛性も最適化している。
軽量ボディにハイパワーなエンジン。これ以上ない理想的なパッケージの最強コンパクトなのである。
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