ハイブリッド車や最近急増中のアイドリングストップ機構付きのクルマは、エンジンの再始動が多いため、 普通のエンジン車に比べて、エンジンへの負担が大きいといわれている。
そうなると、やはり普通のエンジン車と比べて、エンジンオイルは汚れやすいのだろうか? また交換時期も早くなるのか? 自動車テクノロジーライター、高根英幸氏が解説する。
【その踏み間違い事故は他人事じゃない!!】データから見えた、高齢者事故の深層
文/高根英幸
写真/ベストカーWEB編集部
【画像ギャラリー】HV車&アイドリングストップ車専用エンジンオイルほか
エンジンの再始動がオイルに悪影響を与える!?
ハイブリッド車、アイドリングストップ機構付きのクルマのエンジンオイルは汚れやすいのか?
最近のクルマは、ハイブリッド車はもちろん純粋なエンジン車でも、アイドリングストップ機構が付いているものが多い。アイドリングストップによってエンジンを停止させることで、燃料消費を抑えて、不要な排気ガスの排出を削減しているのだ。
エンジンを1回始動するにはアイドリング15秒分の燃料を消費する。つまり16秒以上停止するなら、アイドリングストップさせておいた方が燃費は向上することになる。
しかし、アイドリングストップによる弊害もある。真夏はエアコンが効かなくなるクルマもあるし、専用のバッテリーは意外と高価だからだ。
近年のエンジンは低燃費化のためにあらゆる工夫が盛り込まれていて、軽量化やフリクションを低減するために、オイルの低粘度化とともに少量化も進められている。
その上、頻繁にエンジン始動を繰り返すことにより、エンジンオイルの負担も増えているのである。
エンジンにとって最も摩耗しやすいのは、エンジンオイルがシリンダー内壁やバルブ回りの慴動面から落ち切ったドライスタート時だ。
3ヵ月でオイル分は完全に慴動部から落ち切ってしまうといわれているが、1ヵ月間エンジンを始動していなくてもエンジン内部の油膜はかなり減っていて、始動時にエンジン内部を摩耗させやすい。
けれども「アイドリングストップ程度では問題ない」と思われているのが一般的だ。
アイドリングストップは油温が上がりにくく、本来の潤滑性が発揮しにくい環境
都内の渋滞ではストップ&ゴーが多く、エンジンオイルの油温が上がりにくい
実際はどうなのだろうか? 「WAKO'S」のブランドでお馴じみのオイル&ケミカルメーカー、和光ケミカル技術部の和田岳広さんに聞いた。
「エンジンが停止している状態から動かす時は、やはりエンジンオイルにとっても厳しい環境になりますね。しかも頻繁にエンジンを停止するので油温も上がりにくい。そのため弊社のエンジンオイルは低温から潤滑性を高める添加剤をブレンドするなど工夫しています」。
同社ではエンジンオイルなどの潤滑剤を開発するだけでなく、さまざまな環境で使われたオイルを分析することで最適な潤滑剤を開発するデータとしている。
それだけに新油状態のオイルだけでなく、使用されて劣化したオイルの状態も詳しく把握しているのだ。
エンジンが止まっている状態では、ミクロのレベルでは部品同士で接触している部分があり、そこを動かす瞬間は「境界潤滑」と呼ばれる部分的な摩擦が大きい現象になる。
エンジンが回り始めるとエンジンオイルが供給されることで、オイルの膜が部品の間に入り込んで摩擦を減らす「流体潤滑」となることで、エンジンオイルは本来の潤滑性を発揮できるのだ。
さらに和田さんはこう続ける。
「エンジンオイルが十分に温まった状態ではモリブデンや亜鉛などの添加物が潤滑剤として効くんですが、低温時にはこれらはあまり働いてくれません。 またモーターばかり使っているとエンジンの方には熱が入らないため、あまり走行しないクルマと同じ状態になります。 そこで当社では特殊なセラミックスを添加するなど独自の技術で低温時の潤滑性を高めています」。
再始動時の燃料噴射でガソリンが混入しエンジンオイルが薄められてしまう
そしてもう1つの問題が、始動時の燃料噴射が起こすオイルの燃料希釈だ。燃料希釈とは、エンジンオイル中に燃料のガソリンが混入し、エンジンオイルが薄められる現象だ。
燃焼室に入った燃料はすべて燃えるわけではなく、特に始動時や冷間時の濃い混合気により、燃料希釈は起こりやすい。
これはアイドリングストップ車やハイブリッド車では、より顕著になるのだろうか? 和田さんによれば、
「最近はエンジンオイルの成分が壊れるほどシビアな状態までオイルを酷使するユーザーは減っています。しかし燃料によるエンジンオイルの希釈は、油膜保持性を低下させるので、一定以上になると潤滑性能に悪影響を与えてしまうことになるんです。
乗り方によって大きく異なるので一概には言えませんが、実際にアイドリングストップ車で使用されたエンジンオイルを分析してみると、同じ距離を走った従来のエンジン車と比べて、燃料による粘度低下が多く認められています」。
燃料希釈はどんなエンジンでも起こり得るが、アイドリングストップにより油温が上がりにくいとブローバイガスによる蒸発も進まず、オイル内に蓄積されて粘度を低下させるだけでなくオイルを変質させる原因にもなっているそうだ。
ちなみに同社ではアイドリングストップによる悪影響に強いハイブリッド専用オイルや、オイル添加剤などもラインナップしているそうだ。
WAKO'Sのハイブリッド車専用4サイクルガソリンエンジンオイル、プロステージSハイブリッド。エンジンの停止時間が長く、油温が上がりにくい傾向にあるハイブリッド車において通常のエンジンオイルが苦手とする低油温時でも優れた潤滑性能を発揮し、独自の「ニューリキッドセラミックステクノロジー」により、エンジンを摩耗から守る。0W-16及び0W-20指定車に使用できる
結論/HV車やアイドリング車のエンジンオイルは汚れやすい!
ハイブリッド車やアイドリング機構装着車に推奨されているトヨタ純正キャッスルモーターオイル。常温流動性能が向上したことでエンジン内部の動きがスムーズになり、エンジンの始動を繰り返すハイブリッド車やアイドリングストップ機能搭載車の燃費性能向上にも貢献。さらに、より清浄性能の高い添加剤を採用することでエンジン内部の不純物の発生を抑え、エンジン本来の性能をより長く維持することを可能としている
エンジンオイルは、一度エンジンに注入されてエンジンを始動された瞬間から、酸化による劣化が始まる。もっとも使用中のエンジンオイルが黒く汚れるのは、エンジン内部の汚れを落として包み込んでいることもあり、必ずしも劣化とは限らない。
走行中もエンジンが頻繁に停止するハイブリッド車や、アイドリングストップするエンジン車は、従来のエンジン車に比べてエンジンオイルが汚れやすい要素がある。
アイドリングストップによる頻繁な再始動により、オイルがわずかずつ燃えても、燃料希釈により増えることで見た目には減っていないという現象も起こり得る。
やはり、エンジンの停止時間が長く、油温が上がりにくい傾向にあるハイブリッド車やアイドリングストップ機構付きのクルマは、前回のオイル交換から走行距離が少なくオイル量も十分にあっても、アイドリングストップによりオイルの劣化は進むと考えておいた方がいい。
つまり、純粋なエンジン車よりもエンジンオイルの交換サイクルは早くなるということだ。
ハイブリッド車やアイドリングストップ機構付きのクルマの寿命を伸ばしたいなら、低温時にも優れた潤滑機能を発揮する、SNグレードの0W-16や0W-20といったHV車やアイドリングストップ車専用のエンジンオイルを入れて、たとえ走行距離が少なくても、半年に一度はエンジンオイルの交換をお薦めする。
ディーゼル車や軽自動車のHV車は?
軽油が燃料のディーゼル車の場合、ガソリン車に比べるとエンジンオイルが汚れやすいのか?
ガソリン車とディーゼル車のどちらが、エンジンオイルが汚れやすいかに関してはディーゼルの方がススも出るので汚れやすい。
軽油にはガソリンより多くの「硫黄分」が含まれているからで、燃焼時に「硫黄酸化物」を生成。水分と反応することでエンジン内部を腐食させる「硫酸」へと変化する。
内燃機関は燃焼時、燃焼行程で高圧となった排ガスや未燃焼の混合気がピストンとシリンダー間の隙から、エンジンオイルが溜られているクランクケース内へと漏れ出す現象が発生する。
これを「ブローバイガス(未燃焼ガス)」と呼び、有害な物質を多く含むため現代のエンジンは吸気マニホールドに戻すことで再燃焼させているが、エンジンオイルにも混ざり込む。このため、ディーゼルエンジンの場合、ガソリンより生成されやすい「酸」が問題となってくる。
そこで、ディーゼル専用オイルには「酸」を化学的に中和させる「アルカリ成分」が添加剤として多めに加えられている。この点がガソリンエンジン向けに開発されたオイルと主に異なる部分で、ディーゼルエンジンにはディーゼル専用オイルの使用が原則となる。
なお、APIサービス分類でガソリンエンジン用は「SJ、SL」といった具合に「S」から、ディーゼルエンジン用は「CE、CF」といった具合に「C」から始まる記号でグレードが表記されている。
また、軽自動車のハイブリッド車やアイドリングストップ機構付きの軽自動車の場合、オイルタンクが小さいため、オイル量が少ないぶん、働く時間が多いので、オイル自体を冷却させるのが難しくなるために条件は厳しくなるのだ。
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