この記事をまとめると
■ブームとなっているSUVだがその傾向は保守的なカクカク派と最近増えてきたSUVクーペに二分できる
【昔のスポーツカーのほうがカッコイイとの声続出!】低いロングノーズのクルマが消えたワケ
■SUVクーペの増加理由は視線が高くて眺めが良く、荷室容量もそれなりに確保されているからだ
■つまりSUVは、1970年代にセダンがリフトバック化したのと同様の道を歩みつつある
スタイリッシュなSUVクーペが増加してきた理由
2022年もSUV強し! の傾向は変わらず。とはいえ変わらないようでいて、いまやSUVはふたつの流れにはっきり分化している。
ひとつは保守本流のカクカク系。トラックや軽車両といった「ユーティリティヴィークル」の荷台をハードトップや櫓(やぐら)といった簡易な屋根で覆ったことに端を発するような、ある意味、幌馬車の自動車版といえるタイプだ。悪路走破性のためにロードクリアランスごと高々とハコ部分を掲げて、「スポーツ用途」に民政化された、原初のジープやランドローバーあるいはランクルやGクラスのようなクルマがこれに当たる。
もうひとつは、近頃の最新SUVの主流を占めつつ増えてきた、「SUVクーペ」系。リヤウインドウを思い切り前傾させていて、燃費&CO2減重視の傾向が強くて、もしかすると4駆必須でもない2駆パワートレインだったりするが、そもそも基づいているプラットフォームごとFFベースということもありうる。
後者が増えてきたのは、アウトドアやキャンプ需要に根強く支えられてはいるものの、2拠点暮らしや週末DIYがベースとあって、さしものSUVにも24時間365日、四六時中のオフロード性能が求められているワケではないということだ。前者で挙げた車種のなかには、オーバースペック過ぎて街で「本格派疲れ」するとか、納車が長いというのもあるだろう。
SUVクーペ系がウケているのは、街乗りや高速巡航ではいまやセダンやハッチバックに伍する乗り易さを備えながら、視線はほどほどに高くて眺め良し、加えて荷室容量もちょっとしたステーションワゴン並に確保されていながら、ちょっとパーソナル感というかキャラ立ち感がある、そんなところだ。
都会もカントリーも行ける一台というのは、ちゃんと需要があるのだ。環境性能についても日進月歩で改善されてきているし、自動車メーカー側としては、もっと前面投影面積を減らして燃費やCO2排出を向上させたいので、SUVクーペはますます屋根を低く全高を下げて、クロスオーバー化する傾向にあるのだ。
SUVクーペはカムバックが磨き上げられた姿かもしれない
つまり、SUVクーペはいま、ますます1970年代に流行った「リフトバック」もしくは「ファストバック」化しつつある、そういえる。
リフトバックはテールゲートが持ち上がって荷室へのアクセスが容易だが、ファストバックは固定リヤウインドウの車型にも用いられるタームだ。ただし、今日のクルマのほうがタイヤ外径も大きくて回生エネルギーを拾う関係上、より大きなブレーキ径を収めたくてホイールも大径化し、結果としてロードクリアランスもアゲアゲ方向、という特徴というか事情はあるだろう。
だがいずれにせよ、ルーフからリヤエンドにかけてテーパーがかった線で繋げるデザインは、もともとはタービュランスを抑えるための空力改善ディティールとして、1930年代にドイツ、シュツットガルト大学のヴニバルト・カム博士が先駆けたものだ。戦後に「カムバック」と呼ばれ、日本ではしばしば「カムテール」と呼びならわされた。1930年代から50年代にかけて、タトラや多くのアメ車はルーフからスラントしたエアストリームラインを数々作り出し、イタリアではザガートが「コーダトロンカ」を考案した。
じつはカム教授は元々ダイムラーのエンジニアだったが、その研究成果としてのカムバックを、アルミボディで最初に具現化したのはBMW 328「カムクーペ」。だからBMWが2008年にE71の「X6」を世に送り出したのは、歴史的な必然だったかもしれない。モダンだけど歴史をちゃんと見ている、そういうデザインでもあるのだ。
そのX6が3世代目に突入しているいま、市場を見渡せばメルセデスはGLSからGLCまでクーペを揃え、GLAクーペすらマジメに取沙汰されている。路上にはレンジローバー・イヴォークや、トヨタC-HRに三菱エクリプスクロス、マツダCX-30にMX-30、ルノー・アルカナにシトロエンC4といったSUVクーペがあふれている。スーパーカーの世界でもランボルギーニ・ウルスの牙城にフェラーリ・プロサングエが放たれ、あのポルシェだってカイエンクーペを登場させている。EVに限ってもテスラ・モデルYからVWのID.4まで、「SUVクーペ」であることがほとんど必須条件ですらある。
なぜならSUVクーペとは、居住性と空力という相反しそうな要素を両立させる車型であり、それを可能にするのは新しいテクノロジーや流行りのシルエットというより、昔ながらの「カムバック」が磨き上げ続けられた結果として、存在しているのだから。
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