■見切り発車で生産された「ミウラ」
世界のクラシックカー/コレクターズカー・マーケットにおける年ごとの指標は、毎年1月下旬にアメリカ・アリゾナ州スコッツデールで開催される、主にアメリカ系企業を中核としたオークション群と、翌2月のパリ「レトロモビル」に際して開催される欧州系企業によるオークション群によっておおむねの推移が見えてくるのが、今世紀に入ってからの不文律となっている。
【画像】新車同然の姿に戻った「ミウラSV」をチェック!(29枚)
依然としてコロナ禍の収まらない2021年は、パリの「レトロモビル」も本来の2月から6月第1週に延期されることが既に決まっているものの、付随するオークションはイベント公式の仏「ARTCURIAL(アールキュリアル)」社を筆頭に、複数がおこなわれるようだ。
今回は、業界最大手のRMサザビーズが2月13日に開催した「PARIS」オークションに出品された1971年型ランボルギーニ「ミウラSV」を俎上に載せ、この2021年のミウラの市況、ひいては今年の高級クラシックカー市場を占ってみたい。
●1971 ランボルギーニ「ミウラP400SV」
「元祖スーパーカー」ともいわれるランボルギーニ・ミウラは、1966年秋の発表後、1967年から1973年まで生産された。しかし、もとより実験的な生い立ちを持つモデルであるがゆえに、そのモデルレンジ中には継続的なエンジニアリングの向上とアップグレードを受けることにより、パフォーマンスと市販車としての商品性を確たるものとしていったことでも知られる。
そしてこのプログラムは、1971年から1973年の間に150台が生産されたといわれる「Spinto Veloce」あるいは「Sprint Veloce」こと、「ミウラP400SV」とともにクライマックスを迎えることになったのだ。
P400SVは、それまでのミウラ各モデルで指摘された問題点や、かのボブ・ウォーレスが課外作業で製作したといわれる元祖「イオタ」で実験・改良されたメカニズムを盛り込んだ、いわば究極のミウラである。
まず、前後のカウルは大幅にリニューアルされている。新たに9インチに拡幅されたリアホイールを収めるために、リアフェンダーもフレアをつけられたワイド型に進化。フロントもラジエーターグリルの形状が少しだけ変更されているほか、「P400」および「P400S」時代にミウラを象徴づけていたヘッドライト前後の「まつげ」が、開祖フェルッチオ・ランボルギーニに収められた個体以外は廃されたことから、アピアランスは大きく変わった。
一方、ボディに隠れて表からは見えない改善点としては、それまでの反転Aアーム+トレーリングリンクに代えて、コンベンショナルなA型ロワーアームを備えた、新設計のリアサスペンションが挙げられよう。
またV型12気筒エンジンについても、従来型ミウラでトラブルの発生源となっていたエンジン+トランスミッションの一括潤滑をやめ、それぞれ専用の潤滑システムを装備(初期生産分を除く)。
キャブレターも4基のウェーバー40IDL30型トリプルチョークに変更し、パワーはP400Sの370psに15ps上乗せした385ps/7850rpmをマーク。0-60mph(約97km/h)加速タイム5.8秒、最高速度は180mph(約290km/h)に到達することになったとされている。
■「イオタ」仕様を再び「SV」に戻した「ミウラ」
全世界が新型コロナウイルス禍に苦しめられた昨2020年は、当初マーケットも相当な冷え込みが予測されていたのだが、ことクラシックなランボルギーニについては大きな影響はなかったようで、欧米各国にてオンラインや感染対策おりこみの対面型でおこなわれたオークションにおいても、かなりの高額で取引されていた。
●1971 ランボルギーニ「ミウラP400SV」
そんなクラシック・ランボルギーニのなかでもミウラ、とくに最終進化形である「P400SV」が「堅調」という以上の大商いを見せてきたことは、これまでVAGUEのオークションレポートでも度々取り上げてきた。
今回RMサザビーズ「PARIS」オークションに出品されたミウラP400SVは、シャシナンバー「4920」。ロッソ・コルサのボディにダークブルーのインテリアの組み合わせで製作され、1972年5月にドイツで最初のオーナーにデリバリーされたという。その後、1972年から1977年に2人目のオーナーが所有していた時期に、「イオタ」スタイルへのコンバージョンが施されたと見られている。
今や伝説の「イオタ」あるいは「SVJ」は、当時のFIAアペンディクスJ規約のもとでカーレースへの参加資格を得ることを目指していた、ランボルギーニのチーフテストドライバーであったボブ・ウォレスが製作したテストベッドである。
彼の目論みは夢に終わったが、その存在を聞きつけた一握りの優良顧客たちがランボルギーニ本社にオファーしたことで、一部のミウラがそのレプリカとして製作された。あるいは、デリバリー後にサンタアガタ・ボロネーゼに戻され、顧客の要望に応えてイオタ仕様にモディファイされた個体も存在する。
この#4920でもイオタに似せるべく、ヘッドライトはプレクシグラスのカバーがついた固定式に換装、フロントカウル上部にはラジエーターからの熱気を抜くエアアウトレットが大きく開き、レーシング仕様のフューエルフィラーも設けられた。
また、フロントにはアルミニウムのエアダムスカートが装着され、リアエンドの排気システムはテールパイプと直結。新しい排気系に対応するためにトランクも改造された。
1978年から1997年までは3人目のオーナーが所有。その後4人目のオーナーのもとに譲渡された段階では、走行距離は3万kmを少し超えていたという。その4代目オーナーのもとで、1997年から2001年まで徹底的なレストアを受けることになる。
ボディワークやシャシ、インテリアは新車時の状態に戻されるとともに、エンジンとギアボックスはシュトゥットガルトの「インスティンスキー(Instinsky)」によってフルオーバーホールされ、無鉛ガソリンでも走行できるように、バルブシートも打ち直された。
ただ、この際にもイオタ・スタイルのボディワークとエキゾーストは維持され、外観は新たに美しいダークグリーン+ゴールドホイールのコンビ、インテリアはクリーム/黒のコンビレザーで仕上げられた。そしてこのスタイルで、2012年にはドイツ・エッセンで開催される世界最大規模のクラシックカー・トレードショー「テクノクラシカ・エッセン(Techno Classica Essen)」にも出品されている。
今回のオークション出品車である現オーナーは、ドイツの有名食品メーカー創業者一族のコレクションから、2015年にこのミウラSVを入手。そののち慎重に検討した結果、1971年6月にサンタアガタ・ボロネーゼ工場からラインオフした時の仕様に戻すことを決意したという。
ボディとペイントワークの修復は、エミリア・ロマーニャ州フェラーラのカロッツェリア「バッタリア・ボロニェージ」が担当。元色のロッソ・コルサに塗り替える前に、ペイント剥離するとともに個体式ヘッドライトなどの「イオタ要素」を取り除き、約40年ぶりにミウラSV特有のスタイルを取り戻した。
一方インテリアは、内装作業の専門家「アウト・インテルニ(Auto Interni)」によってダークブルーで再トリミング。P400SV純正排気システムの換装を含むメカニカルパートは、元ランボルギーニの職長オレツィオ・サルビオーリと彼の息子ルカが営むランボルギーニ・スペシャリスト「トップモーターズ」によって徹底的にオーバーホールされた。
これら一連の作業は2016年に完了したが、以来この個体の走行距離は500kmにも満たない上に、2019年には現状における最新のフルサービスもおこなわれているという。オークション出品にあたっては、「ランボルギーニ・ポロストリコ」認証を含むドキュメントや写真、あるいは純正革ケース内に収められたツールキットも添付されるという。
●今年の市況を占うような高値で落札
RMサザビーズ社の公式WEBカタログでは、「ミウラSVはコレクターにとって必須アイテムであり、なかでもこの絶妙な1台は愛好家向けのツアー、リビエラ海岸沿いのドライブ、またはコンクールイベントなどでも活躍する準備ができています」という謳い文句を添えて、210万-250万ユーロという、自信満々のエスティメート(推定落札価格)を設定していた。
そして2月13日におこなわれた競売では、手数料込みで242万3750ユーロ、日本円換算で約3億1000万円という、これまでのミウラP400SVでも最高ランクに属する価格で落札されるに至ったのだ。この結果を見るにつけ、2021年のクラシックカー市況も、相変わらずの高値安定が続くかに思われたのである。
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みんなのコメント
カネがあるなら、ミウラ、カウンタックを買うべきだろう。
いずれにせよ、お宝ですな