毎年、夏から秋にかけて、自動車業界の「業績」が報じられる。
なぜこの時期かということだが、主に欧州の自動車メーカーのビジネスイヤーが「7月を区切りとしている(日本の”3月や4月が決算月”というのとよく似ている)」からで、よって7月以降に各社がその業績を公表するためだ。
利益は重要な指標だ
フェラーリのファンはこうやって作られる。ファンでなくともファンになる「フェラーリ・ワールド・アブダビ」へ行ってきた
そして、「利益」がどうなっているのかは非常に重要だ。
なぜなら自動車メーカーは営利企業であり、多くの会社には株主がいる。
そして自動車メーカーは株主に対して責任があり、株式を通じて投資している人々に利益を還元しなければならない。
そしてもちろん、常に株主が利益を気にしていることは言うまでもない。
そこで今年の数字だが、おおよそは下記の通りだ。
わかりやすいように「1台あたり」売っていくら儲かるのかを日本円に換算しているが、この数字は該当期間に稼いだ(と報じられる)利益を単純に販売台数で割ることによって算出している。
フェラーリ…900万円
BMW…110万円
メルセデス・ベンツ…110万円
アウディ…110万円
ボルボ…50万円
ジャガー・ランドローバー…10万円
ベントレー…マイナス210万円
参考までに、これ以外のメーカーで、今年はじめに公開された(つまり2017年通年での利益だ)数字も記してみよう。
ポルシェ…215万円
ランボルギーニ…52万円
トヨタ…26万円
フォルクスワーゲン…12万円
三菱…12万円
日産…7万円
ホンダ…5万円
利益が少なければお買い得、というわけではない
これらの数字を見て、どういった印象を持つだろうか。
ざっと数字だけを見ると、フェラーリが儲けすぎているように思えるかもしれない。
あるいは、ホンダは利益を取らず、消費者に安くクルマを売ってくれている、と感じるかもしれない。
だが、コトはそう簡単ではない。
ここでちょっと説明してみよう。
たとえばフェラーリだが、たとえば488GTBの車両本体価格は3000万円くらいだ。
だから、数字だけ見ると、「3000万円のうち、900万円が利益」のようにも思える。
しかし実際はそうではない。
フェラーリは「限定モデル」の価格が異常に高価だからだ。
たとえば、ラ・フェラーリ・アペルタの価格は1台4億円、とも言われている。
そして限定台数は209台だから、これらを売ると836億円という売上高となる。
フェラーリの販売「台数」は2017年には8,398台と公表されているが、ここからラ・フェラーリ・アペルタの209台を引くと8,189台だ。
ここからが「数字上の遊び」だが、仮にラ・フェラーリ・アペルタの利益が売上に占める20%だとすると、836億円×20%=167.2億円が得られる利益と考えて良さそうだ。
さらにこの167.2億円を8,189台で割ってみると「204万円」という数字が出てくる。
つまり、ラ・フェラーリ・アペルタはたった209台の販売にもかかわらず、フェラーリ全体の販売から算出した「1台売って900万円」の利益のうち、204万円を占めているかもしれない、ということだ。
なお、ラ・フェラーリ・アペルタの仮想利益率「20%」はかなり低く見積もったつもりだから、実際はもっと高い金額になるだろう、とボクは考えている。
そして、フェラーリの場合は、グッズ販売やライセンス収入が多いことも特徴だ。
世界中にある、そしてオンラインショップも開設している「フェラーリストア」での利益も無視できないボリュームだろう(直営もあるだろうし、フランチャイズもあると思われるが)。
そして、アブダビにある「フェラーリ・ワールド」の収益も大きいはずだ。
これは投資ファンドがフェラーリから「名前を借りて」運営している施設だと理解しているが、その名前を借りる、つまりライセンス費用はフェラーリの懐に入る。
そしてこういったライセンス収入はフェラーリ・ワールドによるのみではない(フェラーリのパチンコ台、というものもあったはずだ)。
こういった利益を考えると、意外とフェラーリが「(限定モデルではない)クルマそのものを売って稼ぐ利益」は小さいのかもしれない。
そして、フェラーリの次に利益が大きく見えるポルシェも同様だ。
ポルシェは、他の自動車メーカーの研究開発を請け負ったり、保有する特許の使用料を受け取って(特許を使用させて)いる件数がほかの自動車メーカーに比較して圧倒的に多い、と聞く。
だから、ポルシェも「クルマを売る、という本業」では見かけほど利益は大きくないのかもしれない、と考えている。
クルマを作る原価はメーカーによって異なる
そして、クルマを作るためのコストはメーカーによって大きく異なる。
たとえば、販売台数世界1、2位を争っていた(現在は三菱買収によって日産もここに加わった)トヨタとフォルクスワーゲンだが、これらは当然ながら生産台数が少ないメーカーよりも「大量生産」できるために一台当たりの生産コストが低いはずだ。
だが、トヨタはフォルクスワーゲンに比較するとプラットフォームやドライブトレーンの種類が多いように思える。
となると、それだけ部品管理コストが増加することになり、よって「仮に生産台数が同じでも」トヨタのほうがフォルクスワーゲンよりも車両の原価が高いのではないか、とボクは考えている。
加えて、フォルクスワーゲンはアウディやポルシェの開発した技術を応用できるため、「同じコストでも」より高いレベルのクルマを作れる可能性がある(これが、フォルクスワーゲン・ゴルフが他社の同等クラスに比較して圧倒的に高い装備や品質を持つ理由だとも考えている)。
設備投資費用も忘れてはならない
そして、利益を見る場合に考慮しなくてはならないのが「設備投資」や「研究開発費」だ。
たとえば新しい工場を作ったときや、エレクトリック技術、自動運転技術など新しい技術を研究するための費用は利益から差し引かれる。
ちょうどラ・フェラーリ・アペルタの利益が「フェラーリ全体」の利益を押しあげたのと逆のパターンだが、これは「1台あたり」の利益を大きく引き下げることになる。
ベントレーはこれまで一台当たりの利益が比較的大きなメーカーだとして知られていたが、直近では一台当たりの利益が大きくマイナスに振れた。
ベントレーはエレクトリック化を強力に推進すると報じられており、このための投資を数百億円規模で行ったのかもしれない。
こうやって見ると、ひとくちに「一台あたりの利益が大きいから」儲かっている、またその逆だから利益が薄いと言いきることはできず、「利益の内容」を見てみないと儲かっているかどうかはわからない、ということが理解できると思う。
ベントレーは今現在だけを見ると赤字だが、3-5年といったタームで見てゆくと、投資した金額を徐々に回収し、その後には「大きな黒字」を計上するかもしれない、ということだ。
[ライター・撮影/JUN MASUDA]
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