エンジンが2つ? 驚きのシトロエン2CV
一流どころの国際オークションでは、華やかな高級クラシックカーやスーパーカーなどが出品ロット群の中核となるが、そのかたわらで時として「珍車」とも呼ばれるレアなクルマたちに出会うことも少なくないものです。2024年5月10日から11日に、地中海に面した見本市会場「グリマルディ・フォーラム」を舞台として開催されたRMサザビーズ「MONACO」オークションでは、そんな激レアなクルマのひとつとして「シトロエン2CV」のツインエンジン版「4×4サハラ」が出品されることになりました。今回は、そのモデル概要と注目のオークション結果について、お伝えします。
シトロエン「2CV」を引き継いで8年。シフトレバーが抜けてもなんとかなると笑うプロカメラマンが狙うのは「純正ルーフキャリア」
前後に1基ずつエンジンを搭載した2CVとは?
稀代の名車シトロエン「2CV」のコンセプトと基本設計は、爽快なほどにシンプルである。2CVの車名は、フランス語のドゥ・シュヴォー(deux chevaux)」。大まかに訳すと「2馬力」で、これは当時のフランスで課せられていた課税馬力を車名としたものである。
戦後間もないフランスの道路事情を想定して開発された2CVは、安価で信頼性が高く、メンテナンスが容易で、耕したばかりの畑だって横断できるような、ソフトでロングストロークのサスペンションを備えていた。
2CVが誕生した当初には、このモデルが圧倒的な成功を収め、1988年にフランス国内分の生産が終了となるほどの長寿を遂げるとは、誰も予想できなかっただろう。時おりパワーとエンジン排気量が拡大されつつも、2CVは40年の生産期間を通じて、第二次世界大戦の真っただ中に構築された基本設計に忠実であり続けた。
そして、オフロードにおける2CVの走破性を誰よりも理解していたシトロエンのエンジニア陣は、標準の2CVにエンジンをもう1基追加搭載し、リアアクスルを駆動することで、「ブリキのカタツムリ」とも称される4輪駆動能力を実現するモデルを開発した。
それが「4×4サハラ」。エンジンは同時代の標準型2CVと同じ、425ccの排気量と12psのパワーを有する空冷水平対向2気筒OHVを、前後アクスルに1基ずつ搭載。前エンジンは前輪、後エンジンは後輪を駆動するシステムとなっている。操作系については、アクセル以外は連動しておらず、通常は後輪をニュートラルとして前輪駆動で走行。登坂時や悪路走行時のみ、リア側のエンジンを補助動力として機能させる仕組みとされた。
一説によると、フランスの旧植民地の北アフリカ・アルジェリアでの石油開発のために、シトロエンのさるディーラーがツインエンジンに改造したのが端緒とも言われているそうだが、その改造車をきっかけに、シトロエン本社も1958年にプロトタイプを発表。2年後に「4×4サハラ」と名づけて生産を開始した。
シトロエン本社による正式な生産バージョンは、北アフリカのような遠隔地のフランス植民地を主な仕向け地としていたとのことである。
1967年までに生産されたサハラは、わずか695台(ほかに諸説あり)ともいわれる希少車で、その誕生の目的ゆえに道具として酷使されてしまったことから、残存数はきわめて少ないものと推測される。また、隠れクラシック・シトロエン大国でもある日本では、数年前に「オートモビルカウンシル」で特別展示された個体をはじめ、数台程度は生息しているかと思われる。
2400万円超えの落札価格は、希少性と象徴性の表れ?
先ごろRMサザビーズ「MONACO 2024」オークションに出品されたシトロエン2CV 4×4サハラは、なかなか魅力的なヒストリーを辿ってきた個体と言えよう。
まずは1965年11月にファクトリーで完成したのち、同月には初代オーナーの名義で登録されたことが、今回のオークション出品にあたって添付されたファイルでも閲覧可能な当時の資料によって証明されている。
くだんのファーストオーナーは、マルセイユから南仏アヴェロン県の田舎町ヴィルフランシュ・ド・パナへ移り住んだ医師、ピエール・レイナル。彼は、素朴な田園地帯の患者を訪問するために、サハラのオフロードにおける多用途性を必要としていたと考えられており、実際レイナル医師は、サハラから「レンジローバー」に乗り換える1980年代まで、あらゆる天候でこのサハラを愛用し続けたという。
そののち、2020年2月にオークション出品者でもある現オーナーが手に入れるまで、この2CVサハラは2010年に一度だけ所有者が代替わりしているものの、その間にはほとんど使用されることはなかったようだ。
こうして現オーナーの所有となった2CVサハラは、一見したところの見栄えは悪くなかったそうだが、やはり細部を観察すればくたびれた状態であったため、抜本的なレストアに着手されることになった。
ボディはいったんシャシーパンだけの状態まで分解され、鈑金修理と再塗装が施されたほか、エンジンとギアボックスは取り外してオーバーホール。また、クラッチとブレーキは新品に換装し、サスペンションとランニングギアも正しい部品に交換された。くわえて簡素な内装はすべてはぎ取って張替え、ハンモック式のシートも一新された。
これらの作業については、外観とメカニズムの両面で入念なオーバーホールを受けたことが、豊富な請求書とレストア時の写真によって証明されている。
ところが、このレストアが完了したあとにもあまり走行してなかったようで、RMサザビーズ社の公式カタログが作成された際、2CVのオドメーターは「4万492km」を指していたが、これは正しい数値であると推測されているようだ。
この2CV 4×4サハラは、当時の初年度登録証と保険証のコピー、この個体がマッチングナンバーのボディ/シャシー、フロント/リアの両方のエンジンを保持していることを確認するシトロエン本社発行のファクトリーデータ、入念なレストアを証明する多くの請求書とレストア写真とともに、魅力的なフランスの歴史を物語る、希少かつ実用性の高いクラシックカー。そんなキャッチコピーとともに、RMサザビーズ欧州本社と現オーナーは、10万~12万ユーロのエスティメート(推定落札価格)を設定した。
そして迎えた競売では14万3750ユーロ、現在の為替レートで日本円に換算すると、約2440万円という驚くべき落札価格で、競売人のハンマーが高らかに鳴らされることになったのだ。
現在の国際クラシックカーマーケットにおいては、同時代のシトロエン2CV「AZ」が、高いものでも2万ユーロ前後で取り引きされているのと比べると、やはり「サハラ」は特別と認めざるを得ないだろう。
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連載を読んでたら、自分でなんとかできる事は自分でやらないと、どうにもならなかった
エアコンなんて無いから雨の夜は…