■「特別機動車両」開発時のエピソードとは
2020年8月に、昭和の大スターのひとりである渡哲也さんが逝去されました。世代によって思い出はそれぞれですが、40代から50代にとっては、1979年から1984年にテレビ朝日系列で放送された「西部警察」で演じた大門圭介のイメージが強いと思います。
西部警察の内容や今で再現不可能な爆破シーン、カーチェイスなどはさまざまなメディアで報じられていますが、ここではクルマメディアならではの情報をお届けします。
それは番組に華を添えた「特別機動車両」の存在です。
筆者(山本シンヤ)は、当時日産プリンス自動車販売の「特車課」に所属し、これらの車両の開発を担当した福田正健さんに製作の経緯や苦労話などをお聞きしました。
今回は「サファリ」、そして「スーパーZ」、「マシンRS」についてです。
――西部警察パートI第104話で「サファリ」が登場して放水銃が話題となりましたが、このアイデアはどこから?
福田:石原プロは「派手にしたい」、でも私は「銃は使いたくない」と平行線でしたが、そこで浮かんだアイデアが「放水銃」でした。消防車で使われているので嘘ではないし、武器にもなる、「これだ!!」と。
――福田さんのモヤモヤしていた「リアリティの追及」がマシンXから進化したと?
福田:放水銃は消防車の部品を使えばいいし、屋根が開くシステムは元々特装車で前例がありましたので、つくりやすかったです。より本物らしさを演出するためにタンク車も製作しました。ただ、このサイズだと放水は1分が限界でした。
――その後、西部警察パートIIでは第15話でフェアレディZがベースの「スーパーZ」、スカイラインRSがベースの「マシンRS」が登場しましたが、見た目も含めて派手になっていきました(笑)。
福田:スーパーZのガルウイングは石原裕次郎さんの乗っていたメルセデスベンツ「300SL」からの発想……と記される記事もありますが、実際のところは私がフェアレディZのTバールーフを見て、「これなら構造的にガルウイングにしやすい」といった技術的な側面からのアイデアでした。
――ちなみにガルウイングの下にヒンジドアを残した理由は何でしょうか?
福田:メルセデス300SLのガルウイングは高いサイドシルがあるからカッコいい。仮にドアをすべてガルウイングに置き換えると「何だか嘘っぽくなるよね」と。威圧感もあるしドアを掻い潜って乗る姿もカッコ悪いです。
――ガルウイングは「走りながらショットガンを打てる」というメリットもあります。
福田:恐らく、通常のドアよりアクションするのに都合はよかったと思っています。
――スーパーZの特殊装備は少なめですが、そのひとつにボンネットの催涙弾があります。
福田:これは石原プロが「どうしても何か撃ちたい」というので仕方なく装着し、「設定はそちらで考えてください」といったら催涙弾になりました(笑)。ただ、偽物が出てくるストーリー(パートIII第14話)ではマシンガンに変更されていましたが……。
――ちなみにスーパーZのベースとなるフェアレディZは日産プリンスの販売チャンネルでは扱っていないモデルです。福田さんはプリンス自販の方ですが、どのように対応を?
福田:おっしゃる通りフェアレディZは扱っていませんので、マシンXの製作を担当した倉田自動車に日産自動車からオーダーがあったそうですが、彼らは「製作はできるがアイデアがない」と私の所に依頼が来ました。そのためフェアレディZはプリンス自販としてではなく、私個人が引き受けた仕事ですね。
――「マシンRS」はどのようなアイデアが盛り込まれたのでしょうか?
福田:基本は「マシンX」の後継モデル……という考え方ですが、この頃は私だけでなく同じ課の若いスタッフと一緒に企画をおこなっています。ちなみにエアロパーツなどは彼のアイデアから生まれたモノです。
――マシンXと比べると、外観はノーマルからの変更点が多いですが、これは?
福田:マシンXのときはスカイラインの拡販も担っていたので「外観を変えない」という考えでしたが、マシンRSはもっと見栄えの部分をアピールしようと。当時はフロントスポイラーなどの市販車用品が出始めた頃で、時代の流れもあったので採用しました。
――エアロパーツは社外品と純正品を上手にコーディネイトし、AME製のアルミホイールも含めて、当時のドレスアップをけん引する存在だったと聞いています。
福田:フロントスポイラーをはじめとするエアロパーツ開発は外注のメーカーさんにお願いしました。その後、パートIIIで3台体制になるときにルーフに装着する大型のパトライトの透明なカバー製作もお願いしています。
――マシンRSは助手席部のコンピューターに加えて後部座席にもパソコンも装着。操作をおこなう後席は横向きレイアウトを採用しましたが、これも福田さんのアイデアですか?
福田:マシンXの時代はコンピューターのサイズも大きく、クルマへの搭載はできませんでしたが、マシンRSの時代は家庭用のパーソナルコンピューターが出始めたタイミングだったので搭載しようと。
とはいっても、いまと比べるとサイズは大きいので普通に置くと収まらない。それなら「横にしてしまえ」というわけです(笑)。
――映像を見ると、マシンRSのボディカラーは銀/黒から赤/黒に塗り直されている事がわかりますが、その経緯は?
福田:確かにスカイラインRSのイメージカラーは赤/黒でした。経緯はわかりませんが、恐らくクルマの手配が間に合わなかったので、塗り直したのではないでしょうか。
――リアリズムの追及については?
福田:この頃は「空想」と「リアリティ」の着地点を付けたいと思う気持ちはありました。つまり「冷静に考えればありえないけど、もしかしたら……」というバランスです。
じつはマシンRSには各アイテムの裏にスペックなどを記載した「製造プレート」が装着されています。放送では見ることはできませんが、これも「本物だ!!」と思わせる演出のひとつです。
実車を見たときに、これらを見て「おっ」と思っていただけたら、私としては大成功です。
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