■「超高級SUV」の原点はトヨタ「RAV4」?
2022年9月13日にフェラーリが「SUV」の新型「プロサングエ」を世界初公開し話題になりました。
【画像】まさかのフェラーリSUV! 公開された「プロサングエ」を写真で見る(74枚)
当初は、「ジープ型乗用車」とすら呼ばれていた最低地上高が高い「SUV」ですが、様々な転機を経て今や各メーカー主流のジャンルとなりつつあり、今までSUVを販売していなかった高級車メーカーもSUVをラインナップしています。
それでは一体どのようなクルマが「高級SUV」普及のきっかけになったのでしょうか。
SUVという言葉が普及し始めたのは1960年代のアメリカでした。当時はピックアップトラックの荷台にシェル(屋根のついたキャビンスペース)を載せ、2BOX形状にしたクルマでした。
これが人気を博し、その後シェルと車体が一体化、今のSUVに近い形となりました。
日本車では、トヨタがピックアップトラック「ハイラックス」をベースに1984年に誕生させた「ハイラックスサーフ」が、当時のRV車(レジャー用車両)ブームの筆頭として人気を博しています。
いっぽうで、軍用ジープに端を発する本格的な四輪駆動車、いわゆる「クロスカントリービークル(クロカン)」モデルも、同様にRV車として支持を集めていました。
三菱の「パジェロ」やトヨタの「ランドクルーザー」シリーズが代表格です。
こうしたRV車はともに頑丈なラダーフレームのシャシーを持ち、悪路にも強いタフな造りや本格的な四輪駆動システムが特徴です。
反面で乗り心地や操縦安定性、また動力性能や燃費の面などでは、一般的なセダン車やハッチバック車にはかないませんでした。
その流れを変えたのが1994年に発売された、トヨタ「RAV4」です。
前輪駆動・横置きエンジンレイアウトのFFセダン「コロナ/カリーナ」を基本としたエンジンとプラットフォームをベースに、丸みを帯びたスマートなクロスカントリー風のボディを載せ、「ライトクロカン」という新ジャンルを作りました。
RAV4は、当時乗用車に普及が始まっていたフルタイム4WDとして悪路走破性を確保しながら、都会の風景にも合うスタイルと乗り心地や操縦安定性、そして乗用車同様の動力性能や低燃費を両立。新たなジャンルを築いたのです。
RAV4の成功を得たトヨタは、1997年に初代「ハリアー」を発売します。
ハリアーは、上級FFセダンのカムリをベースに誕生しました
北米ではトヨタの高級ブランド「レクサス RX」として売られることもあって、内外装ともに高級な仕立てとしたのが特徴です。
もはや、ライトクロカンとすら呼べないような都会的なイメージに仕上げられており、SUVやクロスオーバーという言葉がなかった当時は、RVに分類されつつも唯一無二の新しい高級車像を創り上げていました。
このように「新時代の高級乗用車」として認知された初代ハリアーは、「ホテルの入り口に乗り付けられるRV」「土の香りがしないRV」と表現されたものです。
比較的軽量なモノコックボディと乗用車的なサスペンションに、最高出力220馬力を発揮する3リッターV型6気筒エンジンを搭載して、乗用車と同等の性能を得ていました。
RVだからといって、走りを我慢しなくても乗れるコンセプトが市場に受け入れられたことが、クロスカントリービークルから現在のSUVに至る「歴史の転換点」だったのかもしれません。
ハリアー/RXは高級SUVのパイオニアとして、次の2代目モデルでいち早くハイブリッド仕様を追加するなど、乗用車としての性能をさらに研ぎ澄ませ、不動の地位を確立していきます。
■都会的なSUVの流れは国産メーカーから輸入車メーカーへ
多くの海外のメーカーは、当初ハリアーに対して冷ややかな見方をしているようにも映りました。
しかし2000年代初頭のBMWの動きを筆頭にして、スポーツカー専売メーカーや超高級車メーカーまでもがSUVを手掛けるようになっていくのでした。
2000年にBMWは、セダンとワゴンで展開していた「5シリーズ」をベースに、SUV人気の高い北米市場をターゲットに「X5」を誕生させます。
後輪駆動ベースの4WDモデルで、地上高を上げてクロスカントリービークルとステーションワゴンの折衷的なボディスタイルを与え、5シリーズとしては上位に分類される4.4リッターV型8気筒エンジンを搭載したのです。
後輪駆動をベースとしたところや、セダン系5シリーズにも似せたフロントマスクなど、X5には走りを重視するBMWらしい伝統を感じさせるものの、当時欧州や日本では、まだまだ亜流モデルの扱いのようにも見られていました。
しかしSUVの巨大マーケットを持っていた北米市場ではすぐ受け入れられ、ヒット作となりました。
続いて2002年には、VWとポルシェの共同開発により、VW「トゥアレグ」とポルシェ「カイエン」が発売されます。
トゥアレグには3.2リッターV型6気筒エンジンと4.2リッターV型8気筒エンジンを設定し、さらに台数限定ながらW型12気筒エンジンを搭載するハイパワーモデルも設定されました。
カイエンの方は、ポルシェ928以来のV型8気筒エンジンを搭載し、さらにターボチャージャーを装着した450馬力の上位モデルも設定されました。
トゥアレグはともかく、スポーツカー専門メーカーだと思われていたポルシェがSUVを設定するのは、当時衝撃的な出来事でした。
カイエンのスタイルは、当時のポルシェ「911」を思わせるフロントマスクに、5ドアステーションワゴンのボディを組み合わせたものです。
スポーツカー顔負けな高性能エンジンに高めの最低地上高、全高が高いボディ、高速域でも安定した走行性能を兼ね備えたカイエンは、全天候型の新しい感覚の乗用車像を築いたといえます。
なお、トゥアレグとカイエンの姉妹車に当たるクルマはアウディにも設定され、「Q7」を名乗りました。
現在にも続く、Qシリーズの元祖的モデルです。
■スポーツカー領域まで広がったSUVはさらに拡大し「超高級」へ
カイエンによりスポーツカーの領域にまで広がったSUVは、さらに超高級車やスーパーカーのジャンルにも広がっていきます。
2016年に、ベントレーは「ベンテイガ」を発売します。
ベントレーのアイデンティティである丸形4灯式ヘッドライトとラジエーターグリル、大きく張り出したリヤフェンダーが特徴で、ベントレーのセダンモデルらしさと5ドアステーションワゴンのボディ、地上高が高いスタイルを組み合わせて、独特な魅力を醸し出しています。
さらに同年、ジャガーは「F-PACE」を発売。概ね同時期のセダンモデルである「XJ」や「XF」とも共通する堂々としたラジエーターグリルと、薄目のヘッドライトの組み合わせが特徴のモデルです。
2018年になると、ランボルギーニーが「ウルス」をデビューさせ、SUV市場に進出します。
ランボルギーニらしいシャープな造形と、全高が低く、ボディ後方に向かうにつれてルーフがなだらかに下がっていく、クーペ的なスタイルが特徴です。
同じ年、ロールスロイスは「カリナン」を発売します。セダン系モデルと共通イメージのフロントグリルとヘッドライトに、ボクシーなボディスタイルが組み合わされており、クラシカルな乗用車的イメージが特徴です。
2019年にアストンマーチンは「DBX」を発売します。
独特な曲線を持ち、力強さを感じるアンダーボディと、比較的小さく見えるグリーンハウスの組み合わせが特徴です。
このように、各社とも自社の伝統的スタイルを生かしながら、それぞれのメーカーらしいSUVを成立させてきたのが、2015年以降の動向でした。
2022年現在、多くのメーカーが高級、高価格SUVをラインナップしています。
通常2BOX形状のSUVではなく、Cピラーの角度をなだらかにしたクーペスタイルやセダンスタイルなど、異なるスタイルも登場しました。
2022年9月1日に発表された「クラウン クロスオーバー」は、旧型以上にリヤガラスとトランクをなだらかにつなげ、一見ハッチバックモデルのように見えながら独立したトランクを設けていたセダンとSUVのクロスオーバースタイル。
そして2022年9月13日、ついにフェラーリ史上初となるSUVの「プロサングエ」が発表されました。
フェラーリはこのクルマがSUVとは説明していませんが、ホイールアーチモール、4ドア+テールゲート付きのハッチバックボディ、SUVとしては低く、フェラーリとしては高めの地上高など、実際にはクロスオーバーSUVに相当するモデルです。
乗用車モデルの地上高と全高を高くすれば済んでいたSUVが、いよいよ細かい部分の作りこみによる差別化をする時代になってきたことが分かります。
まだまだ続きそうなSUVブームですが、どんな変化をたどっていくのか、自働車業界の動向から目が離せません。
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