Stellantisジャパンの新代表取締役社長の打越 晋氏にインタビュー
2022年11月、Stellantisジャパンの新たな代表取締役社長に就任した打越 晋(うちこし すすむ)氏に、AMW編集部は独自にインタビューする機会を得ました。今回はグループが抱える多くのブランドの中から、電動化が進むフィアットとアバルトだけに絞って、日本マーケットの今後の方針や、2023年に導入される期待の新型車についてお話を伺いました。
イタリアの国民車「フィアット500」でいつでもどこへでも! 半世紀前のちっちゃなクルマとの暮らしをお届けします【週刊チンクエチェントVol.0】
アバルト124スパイダーにひと目惚れ
国道134号線を走るのが好きだと語る打越 晋氏。2022年11月28日にステランティスジャパン代表取締役社長に就任して5カ月。多忙のため、以前のように毎週末に大好きなドライヴに出かけることは叶わなくなったと断りを入れつつ、「国道134号線を東から西へ向かうと、富士山と江ノ島が美しく姿を見せる絶景ポイントがいくつかあるんです、それはもう最高ですよ」と話す打越氏の表情は、クルマ好き同士が愛車の話で盛り上がるときと同じく、屈託がない。本当にクルマ、そしてクルマを運転することを愛する人物であることが伝わってくる。
そんな打越氏には、アバルトとの鮮烈な思い出がある。それは仕事のために訪れたアバルトディーラーでの出逢いであった。
「日本に帰国して、衝動買いしたクルマがあるんです。仕事のためにディーラーを視察していたとき、その場でひと目で気に入ってしまったんですね。白と黒のツートンの中古のアバルト124スパイダー、マニュアルでした。もともとスポーツカーが好きだということもあるんですけど、すぐにスマホで写真を撮って、妻に送りました。何を勘違いしたのか、妻からの反応は『パトカーを買おうとしているの?』というものでした(笑)。帰宅して、パトカーではなくてオープンの2シーターであることを説明して、今の季節丁度いいんだよと説明して……。翌日の日曜日に再びそのディーラーに赴いて、その場で購入しました。あれはもう、大好きでした」
現職に就く随分以前のことである。毎週土曜日ともなると、天気が晴れの予報だと朝5時半くらいに起きて、どんなに寒くても幌を開けて湘南の海沿いのドライヴを楽しんだそうである。
そんなクルマ好きのオーナーとクルマに対するマインドが同じ打越氏に、いまオーナーが気になっているだろうことをいくつか質問させていただいた。
──EVの展開と今後の販売方法に変更はあるのでしょうか?
電動化という流れは、フィアットとアバルトに関わらずすべての自動車ブランドが模索をしています。そのなかで我々も無視はできません。ではフィアットとアバルトのお客様がどういった電動車というものに期待なさっているのか、ということを考えながらご提案して、新たな価値を皆様と作り上げていくということになると思います。ただ、電気自動車にシフトしたとしても、いままでの歴史はなしね、ということではありません。
EVは使い方も含めてICE(内燃機関)とは変わってくることのほかに、我々が考えなければならないのは、次のEVに乗り換えたときの下取り価格を下支えして、お客様ががっかりしないように、ご迷惑をかけないようにするということです。いま行っているリースを継続するというのもひとつの選択ですし、仮に我々のグループの中で中古車価格を担保できるような仕組みができてくれば、もちろん今まで通りの販売でご購入していただくとか、残価設定のファイナンスのプログラムといった売り方もできるようになると思っています。
──エンジンを搭載したこれまでの500などの販売はなくなるのでしょうか?
チンクエチェントという非常に素晴らしい素材をベースにして、少し形を変えて、スペシャルバージョンを出したり、どこかとコラボしたり、お客様が、ベースのチンクエチェントは大好きなんだけど、そこから「あれ、これはちょっと可愛らしいな」とか、「あれ、これちょっと違って私にあってる」と、そういったものを我々は絶えず提供したいと思っています。これはステランティスになる前からやっていたことですので、それを継続させていただきます。お客様の志向にあったスペシャルバージョンという形で、ICEの500も出していきます。
ひさびさのワンボックス導入にご期待ください
──フィアットとアバルトのカスタマー像というのは大きく異なりますか?
フィアットは一言でいうとポップなブランド。キーワードは可愛い、楽しい、ハッピー。チンクエチェントの顔を見るとこっちもハッピーになれる。女性が自立するにあたって、クルマを持つということはひとつステップアップなんですね。行動範囲が広くなるとか、男性が運転するクルマの横に乗って移動するだけではなくて、自分でどこへでもいけるというか。だから、フィアットは女性を応援するブランドでありたいし、女性にたくさん乗ってもらいたいと思っています。
一方のアバルトは、サーキットが似合うクルマ。左ハンドル、そしてマニュアルトランスミッションのクルマをラインナップしている。そこが強みです。実際にここをフィーチャーしたらディーラーへの来場者が増え、結果として販売にも繋がりました。アバルトはクルマのプロダクトの特徴やレコードモンツァのサウンドを楽しむといったことが求められています。だからメインターゲットは男性ですね。とはいえ、我々はスコーピオンナという女性のアバルトオーナー向けのドライビングイベントも開催しています。
──2023年、日本に導入されるクルマをお教えください
フィアットは「ドブロ」というこれまでのフィアットとは毛色の違うファミリータイプのワンボックスを導入したばかりです。アバルトについては、とてもチャレンジングなんですけど、アバルト初の電気自動車500eを入れます。フィアットにとっては久しぶりのワンボックスですし、ムルティプラ以来ですね。ディーラーからは期待されています。そして、アバルト初のバッテリーEVにもご期待ください。
──日本のフィアットとアバルトのオーナーに向けてメッセージをお願いいたします。
みなさんがフィアットとアバルトをご支援いただいたおかげで、我々がここまで業績を伸ばすことができ、ここまでブランドとして強くなれたということに本当に感謝を申し上げます。であるからこそ、ステランティスになったからということで、ガラッと変わったりすることはございません。みなさんとのコミュニケーションの場であるとか、イベントを今後も企画していきますので、ぜひ皆さん笑顔で参加してください。そのときに、我々になにか伝えたいことがあればぜひ、直接伝えていただけると嬉しいです。屈託のないフィードバックを皆さんから頂きつつ、一緒にアバルトらしさ、フィアットらしさを強くして、より強靭なブランドにしていきたいと思っておりますので、ぜひよろしくお願いいたします。
座右の書は『論語』、迷いがあるときに読み返しています
打越氏の趣味は前述のドライヴのほかに読書がある。座右の書を尋ねると『論語』であるという。ことあるごとに読み返しているそうだ。その理由を尋ねると、最後は社長とは孤独なのだからとのこと。
これまで何社かの会社の経営に携わって、そのたびにスタッフたちと頻繁にコミュニケーションをとるけれども、誰にも相談できないことが最後に出てくるという。
「最後は自分の考え、信念というものに頼らざるを得なくなるんです。そのときに自分が間違ってしまうと、会社に対して大きな損害になってしまう可能性もありますから。絶えず自分がこれだと考えているものが、正しい方向、あるいは世の中の流れに向かっているのかを見極めるために、もしくは世の中が変わっても変わらないものをいま勉強しておかなければいけないと思って『論語』を読み返しています。全部を通しで読むのではなく、そのときに自分の心に響く箇所を読んで、これは自分に置き換えるとこういうことだよなというふうに考えたりしているんですね」
今後の日本でのフィアットとアバルトの発展に、おおいに期待がもてたインタビューであった。
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