2006年秋、ようやくアウディQ7が日本にやってきた。ポルシェ カイエンやフォルクスワーゲン トゥアレグの開発にも関わったと言われるアウディが、ついに自らもオリジナルSUVを登場させたのだ。アウディ独自のアプローチで開発されたQ7は、カイエン、トゥアレグとどう違うのか。Motor Magazine誌ではさっそく比較テストしている。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年1月号より)
Q7はこれまでのSUVの常識からはみ出した存在
とにかくデカい。それも、ばかデカいんじゃなく、妖々しくデカい。
【くるま問答】最近のクルマにテンパータイヤはない。パンク修理キットをどう使う? 最高速は?
円い鼻先が、ぐぅっと割り込んできたかと思うと、まるで水族館の鯨が悠然と目の前を横切るように、空気を押し開いていく。従来のビッグSUVみたく、壁のような威圧感はない。これまで見たことのないディメンジョン比だから、言葉は悪いが、不気味である。オーナーになれば、それはそれで優越と感じることだろう。やはり、妖々しい。
ようやく日本上陸を果たしたアウディQ7だが、実物を屋外で目の当たりにすると、SUVというカテゴリーで語りきるにはちょっと枠が小さいかも知れぬとさえ思えた。既存の枠に収まらない、はみ出した存在、というべきか。
ハマーH2やメルセデス・ベンツGLクラスのように(この2台は、かなりばかデカい部類だ)、配下に幾千もの同種形をもつ既存SUVの親玉としてではなく、今は少ないがこれから追従する形があっという間に拡がるであろうクロスオーバーカー(=さらにスポーティなルックスのSUVちっくなワゴンモデル)の頂点に、Q7はいきなり君臨してしまった。ライバルとして相応しいのは、本当は、メルセデス・ベンツRクラスのロングボディ(日本未導入)あたりが適当なんじゃないかとも、思えてならない。
そう感じてしまう最たる理由、それはスタイリングだ。武骨なクロカン時代から最近のSUV世代まで、そのディテールに硬軟あったとはいうものの、基本的にはボックス型キャビンを骨太なタイヤの上に載せてきた。ジープワゴニア然り、レンジローバー然り、BMW X5然り。
リフトアップされた最低地上高も勇ましく、背の高さをさらに強調する四角いキャビンを載せ、居住性の高さと壁のような存在感をもたらす。それこそが、SUVというカテゴリーに力強さを感じさせる要因となり、他のカタチでは到底得ることのできない満足を与えてくれる。
———で、あったハズだが。
Q7のアピアランスは、そんなこれまでのSUVを「いつまで格好をしているつもりかい?」とあざ笑うかのごとき、流麗さである。
巷では、アウディ初の本格SUVと称されることが多い。けれども、私には、大きなオールロードクワトロと呼ぶ方がしっくりくる。
アウディらしいと言えば、らしい。ステーションワゴンではななく、頑なにアバントと言い続けてきたスタイリッシュブランドにとって、やはりボックスキャビンの武骨なSUVルックスは、いわく許し難いカタチではあったのだろう。
さて。私的なSUVルックス論はこれぐらいにして、やっと日本上陸を果たしたQ7 4.2FSIクワトロである。その実力をしかと試すことにしよう。
トゥアレグとカイエンとは違うアプローチのQ7
本誌の読者であれば承知されていることと思うが、Q7はトゥアレグとカイエンに次ぐ、ポルシェ・フォルクスワーゲン・アウディ一家の3番目のSUVだ。シャシ構造など、基本設計やコンセプトを一つにするものではあるが、それぞれのブランドに見合ったテクノロジーなり、パフォーマンスなり、スタイリングが与えられているのは既存の2モデルを見てもわかる。Q7のそれは、どうか。
3兄弟の違いを発見しつつ、Q7をじっくりと味わうために、今回はカイエンターボとトゥアレグV6シュトルツを一緒に連れ出してテストを行った。
直噴V8自然吸気、V8ターボ、V6、とエンジン仕様はそれぞれ異なってはいるが、それぞれにそのブランドらしさが滲み出ている仕様だと思う。兄弟とはいえ、各々個性はまるで違うはず。それを見極めるに、もってこいの組み合わせだ。
スタイリング手法以外に、Q7が他の兄弟と最も異なる点を1つ挙げろと言われれば、それは3列シートのSUVであることに尽きる。ために、ホイールベースは3mとなった。そういう意味では、直接のライバルは、メルセデス・ベンツGL550となろうか。7シーターを基本とし、2列目にゆったりキャプテンシートを備えた6人乗りも選べる。欧州仕様には5人乗りの設定もあるらしい。
カイエンとトゥアレグが、そのドアパネルやフロントウィンドスクリーンを共有し、互いに雰囲気を残し合っていたのに対し、Q7はいずれのボディパネルも他兄弟との互換性はない。
特にリアドアなどは、3列目シートへの乗降性を高めるため、見比べても相当に大きいものだ。
ただし、だからといって、2列目シートのレッグスペースが、兄弟よりも広いわけではない。基本的には他2台と変わらず、純粋に3つめのシートを置くためにホイールベースは延ばされている。
さらに、3列目シートはと言えばメルセデス・ベンツGLクラスとは違って、見るからにエマージェンシーレベルである。これにはちょっとがっかり。座り込めば我慢できるものの、やはり物理的に小さく、子供用と言わざるを得ない。
もっとも、この手の7シーターは、アメリカ市場をたぶんに意識している。そして、かの地において3列目シートは、正に子供を乗せるための場所なのだ。日本では物理的に大きいクルマだからこそ、大は小を兼ねるとばかりに、もっとちゃんとしたシートを望みがちだが、そんなことをしてせっかくのスタイルをぶち壊してしまうと、元も子もない。これは、メルセデスではなく、アウディなのだから。
室内に入ると、アウディ以外のなにものでもない雰囲気に包まれる。ダッシュボード全体のイメージは、ちょうどA6系のそれを縦に引き伸ばしたような感じで、例のセンタークラスターやインストルメントパネルをドライバー側に傾けた、懐かしいけれどもモダンなデザインだ。
スタートボタンを押し、エンジンを掛ける。音も様子も至ってこれまでどおりの、アウディ4.2L V8FSIが目覚めた。
駐車場から歩道の段差を超え、道路に侵入し、50mほど走る。最初に訪れた感想が、「ああ、こいつはアウディだ」、であった。
お得意のASFを使わなかったにもかかわらず、硬く薄い殻に囲まれて、シャシだけが機敏に動き、車体の上下動には粘り気がある、A6オールロードクワトロあたりと同じテイストで走る。兄弟に比べても、軽快な印象が強い。
ちなみに、ASFでなくとも、できるだけ軽く仕上げることには細心の注意を払っている。ホイールベースを長くしているにもかかわらず、同じV8エンジン搭載モデルで比較してもほぼ同等か、軽い。フェンダーやボンネット、テールゲートをアルミニウム製としたほか、軽量スチール構造を用いたモノコックボディなど、努力のあとは伺える。
乗り味の同一性こそがブランドの「らしさ」性能
アウディらしく走ること。当たり前のように聞こえるかも知れないが、今、ドイツのプレミアムブランドが世界中で人気を呼んでいる要因のひとつが、実はこれなんだと私はひそかに思っている。
仮に目をつぶって運転することができたとすれば、Q7に乗っても、TTに乗っても、このクルマはアウディだと感じることができる。そんな乗り味の同一性。
メルセデス・ベンツ、BMW、アウディ、そしてポルシェは、そのあたりを徹底しているから売れる。見栄えだけではく、走りにもちゃんと個性をもたせる。それがブランドを造ると、彼らはわかっているのだ。アメリカ車にも、日本車にも、「足りない性能」だろう。
だから、当然、同じプラットフォームを使っていても、カイエンターボはちゃんとポルシェな、トゥアレグV6はきっちりフォルクスワーゲンな、走り味を見せてくれる。そこが、凄い。
せっかくだから、それぞれの印象を手短かに報告しておくと、トゥアレグV6シュトルツは、まるでパサートのようにしみじみといいクルマ=SUVだ。
インテリアは誰もがウエルカムな雰囲気で、落ち着きの中にも華があって、買って良かったときっと思ってもらえる風情である。それでいて、スタイリングには昨今のSUVに求められる威圧感もあり、走りはといえばゴルフの延長線上というべき安心と信頼に満ちている。
ステアフィールは最も重い。それゆえか、街中では世間と調和しながらゆったりと進み、高速ではその重量を生かした重厚な走りを見せる。これはもう、ビッグSUVのベストバイと言い切っていいだろう。
片やカイエンターボには、911で言えば4S以上のテイストが、その走りからは滲み出ていた。ポルシェらしくそっけないインテリアに迎えられ、V8ターボの咆哮を聞くや否や、走り出してもいないのに、すでに空気が硬くなる。この感覚はポルシェ911そのものだ。
街中では、911同様にその硬い床に辟易するが、4ドアSUVたるカイエンにはエアサスが入っているから、コンフォートにして何とか誤魔化し乗るしかない。それでも、有り余る力を蓄えたパワートレーンだけは常に走りたがっていて、ブルブルブルブルと振動し、忙しない。
こいつのステージは、やはり高速道路だ。速度を上げていけば見る見るうちにフラットな乗り心地となり、硬いけれども悪いとは思えない、これぞポルシェな走りをみせてくれる。2.5トンをものともしないパワーも健在。もちろん、強力無比なブレーキが、余剰な力をきっちりセーブする。この分なら、ワインディングだって、サーキットだって、スポーツカーのように走ってくれそう。そんな予感をさせるに十分なパフォーマンスぶりだ。
余談だが、スーパーSUVの世界もメルセデス・ベンツML63AMGの登場でまた新たな局面を迎えていると思う。超ハイレベルなオールマイティ性の前には、さしものポルシェブランドも少々霞んで見えるからだ。
材料は同じであっても料理人が違うと別物になる
この2台の兄弟車に比べれば、オプションのアダプティブエアサスペンションを奢ったQ7は、大きなA6オールロードクワトロのように走るというしかない。
街中ではまず、減衰力をソフトにしたコンフォートモードで走ってみた。ステアフィールは最も軽い。大きさからくるゆるみからか、外殻の存在をA6オールロードクワトロよりも多少強く感じるものの、全体的にはまずまずの乗り心地である。
個人的には、オートマチックモードで過ごすほうがより上質な乗り味になると思う。コンフォートとオートマチックの両モードでは、ライドハイトそのもののコントロールロジックは変わらない。
日本仕様には、例の武骨なサブミラーの代わりとしてサイドビューカメラが備わり、その画像がインナーミラーの横で映し出される。ちょっと目障りな位置ではあった。
高速道路では、いずれの兄弟とも異なる、軽快なグランドツーリングカーへと変身する。ダイナミックモードを使えば、乗り味はA6オールロードクワトロそのもの。ロールスタビレーションプログラムによって、背の高いクルマ特有の挙動も抑制されている。空気の抵抗も明らかに少なく感じられ、もはやSUVに乗っているという気にはまったくもってならない。
同じ設計のプラットフォームを持つ3台のドイツプレミアムSUV。当初は、そんな安直なと危惧したものだが、トゥアレグとカイエンがまったく違う個性を見せてくれていたように、新たに加わったアウディQ7もまた、他2車とは異なるテイストに満ちていた。
しかも、3台が3台とも、彼らにとって新たなカテゴリーゆえ、それぞれのブランドに忠実で、より深い雰囲気や乗り味を有しているのが、印象的である。
調理人が違えば、たとえ材料が同じでも、料理の見栄えや味わいは別次元に。美味いなら、文句はない。(文:西川淳/Motor Magazine 2007年1月号より)
アウディQ7 4.2FSIクワトロ 主要諸元
●全長×全幅×全高:5085×1985×1740mm
●ホイールベース:3000mm
●車両重量:2350kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:4163cc
●最高出力:350ps/6800rpm
●最大トルク:440Nm/3500rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:945万円(2006年)
ポルシェ カイエンターボ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4800×1950×1700mm
●ホイールベース:2855mm
●車両重量:2480kg
●エンジン:V8DOHCツインターボ
●排気量:4510cc
●最高出力:450ps/6000rpm
●最大トルク:620Nm/2250~4750rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD●車両価格:1344万円(2006年)
フォルクスワーゲン トゥアレグV6シュトルツ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4770×1930×1730mm
●ホイールベース:2855mm
●車両重量:2270kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3188cc
●最高出力:241ps/6200rpm
●最大トルク:310Nm/3200rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:529万円(2006年)
[ アルバム : アウディQ7、ポルシェ カイエン、フォルクスワーゲン トゥアレグ はオリジナルサイトでご覧ください ]
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