トヨタ博物館(愛知県長久手市)では現在、企画展「Here’s a Small World! 小さなクルマの、大きな言い分」が開催されています。今日まで日本の道を賑わしてきた小さなクルマの実車とミニカーを通じて、SDGs達成に向けたこれからのモビリティの可能性を探ろうとする意欲的な企画展です。国産車を中心とした全長4m以下の実車15台と約60台の1/43スケールのミニカーで構成され、年代別ではなく、個性別に3つのカテゴリーに分けられ展示されています。
■「簡素の中に光る工夫」
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タクシーやハイヤーなどの法人需要が主で、大衆がクルマを手に入れる事はまだまだ夢物語であった戦後復興期の我が国において、多くの人に手が届くようなクルマを開発すべく軽自動車規格が制定されたのは1949年です。2サイクルで排気量100ccからから始まったこの規格も1950年代には2サイクル、4サイクルともに360ccまで拡大。1960年代には小型車を中心としたマイカーブームが訪れます。
今回の展示カテゴリーの1つ「簡素の中に光る工夫」では、60~70年代の軽自動車の中でとりわけ簡素でありながら工夫が光るモデルを4台を展示しています。展示車両はスズキ アルト 3ドアバン(1979年)、スズキ スズライト キャリィ バン(1964年)、バモス ホンダ(1973年)、ダイハツ ミゼット(1963年)。展示ボードには最小回転半径の定義や、現行のクラウンやヤリスと展示車の最小回転半径比較表などが掲げられ、狭い道でも小回りが効きストレスなく運転できる実用性の高さにスポットを当てています。
■「記憶に残るデザイン」
2つ目の展示カテゴリーはデザインをテーマにしたものです。デザインの自由度にも制限のあった軽自動車や5ナンバー規格の中でもボディ剛性や車内空間を確保した機能的なクルマが展示されています。小さい=カワイイだけではない個性的な6台はイタリアのフィアット500D(1963年)や、2+2のシートレイアウトを持つマツダR360クーペ(1961年)、日産のパイクカーシリーズの第一弾 Be-1(1987年)など6台を展示しています。なお大人4人に十分な車内空間を確保したというスバル360(1965年)は実車とともにパッケージとボディ構造の説明ボードも用意されています。
■「軽さゆえの楽しさ」
「軽さゆえの楽しさ」をテーマにした展示車両はオースチンヒーレースプライト(1958年)、ホンダ ビート(1991年)、スズキ カプチーノ(1995年)、ホンダT360H(1965年)の4台。ヨー慣性モーメントの定義やホンダビートと初代ホンダNSXの車体サイズ、質量比較などを記した展示ボードがあり、慣性モーメントの小さいクルマの車両挙動や車両姿勢を認識しやすいサイズにより得られる運転の楽しさが謳われています。
テーマ別に3つに分類された「小さなクルマの、大きな言い分」を現代の技術でカタチにした1例として展示車の中央にはトヨタC+podが展示されています。必要な荷物だけ積んで細い路地でも軽快に走り、駐車スペースにも困らないC+podの個性はダイハツミゼットなど今回展示されている小さなクルマだちの現代版のようでもあります。
最小回転半径:Rの算出式やヨー慣性モーメントの定義など数式を交えた解説や数値によるタイプの違う車の比較など、ちょっぴり理系のテイストも盛り込んだ今回の企画展の展示スタイルは、自動車メーカーの博物館だからこその個性を感じます。
暖簾状の紐で仕切られた会場の入り口にはサイズの違う2つのアーチがあり、ひとつはダイハツ タントと同じ高さ、もう一つはスバル360の高さという、こちらも比較が「体験」できる遊びごころのあるものです。
ちなみに今回の企画を担当したトヨタ博物館の副館長 増茂浩之氏は長年技術者としてトヨタ/レクサスの開発を担ってきた方。開発畑のプロ目線で選ばれたバラエティに富んだ15台の展示車の個性は見ていてとても楽しいものでした。
なお、企画展「Here’s a Small World! 小さなクルマの、大きな言い分」はトヨタ博物館 文化館2階 企画展示室にて7月18日まで開催されています。
〈文と写真=高橋 学〉
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