15psのパワーアップと10kgのダイエット
2019年に発売された、マクラーレンGT。ミドシップ・プラットフォームを始めとする多くの技術は、他のモデルと基本的に共通していた。収益性を高め、ユーザー層を拡大するという重要な狙いが、まだ若かったスーパーカー・ブランドにはあった。
【画像】プラス15ps&マイナス10kg マクラーレンGTS 競合するグランドツアラーと写真で比較 全159枚
だが、期待通りの売れ行きにはないようだ。英国の自動車製造販売協会(SMMT)の情報によれば、現状では720S/750Sと、570S/600LT/アルトゥーラの方が販売数は多いとか。
そんなモデルを勢い付かせる目的が、今回のアップデートにはある。GTというモデル名は、印象を新しくするためGTSへ変更。パワーアップとダイエット、スタイリングのリフレッシュを受け、2024年の秋を迎えることになる。
といっても、見た目の変化は小さい。マクラーレンのラインナップでは、1番穏やかな雰囲気を漂わせることに変わりはない。全長4683mm、全幅1930mm、全高1213mmと、ワイド&ローのスリムなフォルムを持つスーパーカーだ。
各部を引き締めていたサテンクローム・トリムは、ブラックへ変更。僅かに抑揚を増したエアインテークには、エアロカウルが与えられた。オプションで、試乗車のようにカーボンファイバーで主張させることもできる。
4.0L V8ツインターボエンジンの最高出力は、従来から15ps増し。635psをリアアクスルへ伝える。64.1kg-mの最大トルクに変更はないが、車重は10kg削られている。
ゴルフクラブ・バッグを積めるマクラーレン
現行のマクラーレンでは最高出力が1番低いものの、多くのライバルよりパワーウエイトレシオでは勝ると、同社は主張している。シャシーはカーボン製タブで、サスペンションにはアダプティブダンパーを採用する。
シザーズドアを開き、低いキャビンへ腰を下ろす。GTSの弱みといえるのが、乗降性の悪さだろう。サイドシルが高く、身長が高いと特に足の出し入れが簡単ではない。
750Sやアルトゥーラより普段使いしやすいモデルとして、GTの時代から位置づけられているはず。ポルシェ911などと同等の日常性を求めるなら、開口部はもう少し広い方が良いと思う。
ただしマクラーレンの説明では、既存のGTユーザーは、この点をさほど気にしていないとか。ゴルフクラブ・バッグが載せられるマクラーレンであることを、多くの人は喜んでいるのだろう。ガラスハッチの下に広がる、大きな荷室をGTSは維持している。
キャビンを観察すると、アルトゥーラなどに備わる、車載機能の操作系とは異なることへ気付く。インフォテインメント用タッチモニターは、7.0インチと小さめ。スマートフォンとのミラーリングには、従来どおり有線でも対応していない。
低い位置には、パワートレインとハンドリングのモードセレクター。ロータリーノブは扱いやすいが、最新の雰囲気というわけではない。
自然なグリップ感と清々しい敏捷性
マクラーレンは、15ps強化されたものの、運転体験はGTから大きく変化していないと説明する。やや大きめのボディを持つが、自然なグリップ感と、清々しい敏捷性は従来どおりだ。
ステアリングホイールには、不満ない感触が伝達され、印象はポジティブ。乗り心地は、路面からの情報が多く隔離性が高いとはいえないが、充分にしなやか。贅沢な雰囲気を醸し出すとはいえないものの、郊外の道を気持ちよく飛ばせる。
V8エンジンは、特に中域トルクが豊か。6割程度の深さでアクセルペダルを傾けても、それ以上踏み込んだような力強さがある。吹け上がりも滑らかだ。
一方で、サウンドの聴き応えにはもう少しを望みたい。動力性能とは裏腹に、ライバルのV8エンジンのように、心を震わせる個性があるとはいえないようだ。
トランスミッションは、デュアルクラッチの7速オートマティック。滑らかに変速し、トラック(サーキット)・モードでは、極めて素早く反応してくれる。
全体的な操縦性の印象は素晴らしい。ライバルと比較しても、正確性や安定性は遥かに高い。飛ばすほど、運転へのめり込んでしまう。
反面、快適性や外界との隔離性では及ばない。長距離旅行を終始リラックスして過ごしたいという希望には、充分には応えられなさそうだ。
燃費は、高速道路をクルージングさせた条件で9.6km/L。1度の満タンで走れる距離は、690km前後と考えられる。
更なる変化が与えられても良かった
アップデートに伴い、英国価格は約1万ポンド(約192万円)上昇し、17万9260ポンド(約3442万円)から。オプションが沢山載った試乗車は、約20万ポンド(約3840万円)だった。
これは、素の状態のアルトゥーラに並ぶ金額。ポルシェ911 ターボSやアストン マーティン・ヴァンテージ、メルセデスAMG GTなど訴求力ある競合も、同等以下の金額で狙えることが悩ましい。
しなやかなグランドツアラーとして、特有の魅力を漂わせるGTS。高次元のパフォーマンスだけでなく、優れた操縦性や実用性など、多くの強みを備えることは間違いない。ただし、GTSという新しい名前を得たほどの進化は、獲得していないといえる。
マクラーレンのミドシップスーパーカーらしいが、GTから大幅に使い勝手が良くなったわけではない。プラグイン・ハイブリッドのアルトゥーラが宿す、二面的な個性へ一層の魅力を感じたとしても、筆者は納得できる。
同社3番目という販売順位を繰り上げるなら、更なる変化が与えられても良かった。インテリアやデジタル技術には、その余地が少なからずあったと思う。
◯:マクラーレンらしい機敏な動的特性 抑えられた価格上昇 ポルシェ・ボクスターに並ぶ荷室容量
△:ライバルの方が利便性では上 グランドツアラーとして一層の洗練性が欲しい インテリアやデジタル技術はアップデートが必要
マクラーレンGTS(英国仕様)のスペック
英国価格:17万9260ポンド(約3442万円)
全長:4683mm
全幅:1930mm
全高:1213mm
最高速度:326km/h
0-100km/h加速:3.2秒
燃費:8.4km/L
CO2排出量:270g/km
車両重量:1520kg
パワートレイン:V型8気筒3994cc ツイン・ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:635ps/7500rpm
最大トルク:64.1kg-m/5500-6500rpm
ギアボックス:7速デュアルクラッチ・オートマティック(後輪駆動)
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