2代目BMW アルピナ B5 ビターボは300km／hを楽にこなすエレガントな4ドアサルーン【10年ひと昔の新車】

2010年7月、2代目アルピナB5が突如グッドウッド フェスティバル・オブ・スピードに姿を現した。6代目となるBMW5シリーズがその年3月のジュネーブオートサロンでデビューしているので、その登場は予想されていたが、まだM5が発表されていない段階での登場に驚かされた。そして、その性能はM5がたじたじとなるほどだった。エレガントな4ドアボディに身を包んだスーパーサルーンはどんな性能を持っていたのか。Motor Magazine誌はアルピナ本社のあるドイツ・ブッフローエで試乗テストを行っているので、その模様を振り返ってみよう。（以下の試乗記は、Motor Magazine 2010年10月号より）

5シリーズが発表されて半年、早くも登場したB5ビターボ
2010年7月、グッドウッドで開催されたフェスティバル・オブ・スピードで、アルピナの社長アンドレアス・ボーフェンジーペンと出会った。「不思議なところでお会いしますね」と挨拶をしたところ、「ここで併設されている自動車ショーにニューモデルを持ち込んだのです」という答えが返ってきた。

私はそのニューモデルとは6月に試乗したB3ビターボとばかり思っていたが、そこに展示されていたのは新しい5シリーズがベースのB5ビターボだった。発表されてまだ半年も経過していないのにもうアルピナバージョンが完成していた。アンドレアスは私の驚いた表情を楽しむように「このショーが終わったらわが社に試乗に来てください。そのときに秘密を教えましょう」と約束してくれた。

そして7月の最終日、ようやく時間を見つけた私は、南ドイツ・アルゴイ地方にあるブッフローエに向かった。いつもならさっそく試乗するのだが、今回は社長と共に敷地の奥へ向かう。するとそこにはまだ建設中の大きな建物があった。中はすでに完成しているというので入ってみると、そこはなんとシャシダイナモが3基も並んだ大規模なテストラボだったのである。この自前の開発施設は1200万ユーロ、つまりおよそ13億円を投資して建設したもので、ここで耐久シミュレーションから完成車の排出ガス検査まで、すべて済ませることができるのだ。

社長のアンドレアスは「今後の自動車業界の動きとドイツ政府およびEUの排出ガス規制などを考えると、自動車メーカーとして生き残るのに必要な投資だった」と、その決意を語った。要するにこうした自前の開発研究設備により、これまでの開発時間を大いに短縮することができたというわけである。そしてこの素晴らしい設備から誕生したのが、これから試乗するB5ビターボである。

卓越した高性能と対照的にデザインは控えめで上品
新しい5シリーズ（F10）、正確には550iをベースにしたアルピナB5ビターボは、4395ccの排気量を持ったV8ツインターボエンジンにスペシャルピストンや高効率インタークーラーなどを採用し、ターボ過給圧を0.8バールから1.0バールへ上昇させ、最高出力507ps、最大トルク700Nmを絞り出す。

そして、ZF社製のスイッチトロニック付き8速ATとの組み合わせで、スタートから100km／hまでの加速所要時間は4.7秒、最高速度は307km／hに達する。この性能はもはやスーパースポーツカーのそれで、ちなみにグッドウッドのモーターショーでこのアルピナB5ビターボは、フェラーリやランボルギーニの間に展示されていた。

一方、こうした並外れた高性能にもかかわらずエクステリアは非常に控えめで、フロントスポイラーやリアスカートなどアルピナオリジナルのエアロパーツは、まるでスタンダード装備のように5シリーズのボディと一体化している。しかしボディサイドに回ると、フロントおよびリアに組み込まれた255／35R20、そして285／30R20サイズのスポーツタイヤ、そして美しいアルピナ製スポークタイプの20インチアルミホイールによって、その素性がはっきりすることになる。

インテリアも豪華ではあるが、アルピナらしいでしゃばり過ぎない上品な仕上がりで、これから300km／hプラスのツーリングに出発すると言っても、誰も信用しないであろうエレガンスさを漂わせている。唯一、300km／h以上にスケールを広げられたスピードメーターだけが、B5の本性をチラつかせている。

走り出すと改めてV8エンジンのスムーズさとパワフルさに驚嘆する。日常の使用ではアクセルペダルはパーシャルな踏み方で十分な加速と速度を得ることができた。

スポーツモードにしてペダルを深めに踏み込むと、2トン近いボディは物理の法則を無視するかのような勢いで加速を開始する。驚くべきは、スポーツモードやマニュアルモードにおける8速オートマチックトランスミッションの行儀の良さで、ほとんどショックを感じさせずにスムーズにシフトアップ、そしてシフトダウンが可能なことだ。

調べてみると、なんとSとMのプログラムではシフト時にシリンダーを最大5気筒まで休止させ、大トルクの発生を一瞬抑えてからシフト作業を行っているのだ。実はこれはF1でもやっている技術だが、アルピナはGT選手権に参加しているB6 GT3からこのシステムを取り入れた。

エレガントな4ドアサルーンなのに平気で300km／hに達するアルピナB5ビターボ。1台で通勤、買い物、そしてスポーツ走行までを高いレベルで楽しみたいと思っている人には最適なチョイスだろう。（文：木村好宏／写真：Kimura Office）

BMW アルピナ B5 ビターボ 主要諸元
●全長×全幅×全高：4899×1860×1469mm
●ホイールベース：2968mm　
●車両重量：1995kg
●エンジン：V8DOHCツインターボ
●排気量：4395cc
●最高出力：373kW（507ps）／5500rpm
●最大トルク：700Nm／3000-4750rpm
●トランスミッション：8速AT
●駆動方式：FR
●最高速：307km／h
●0→100km／h加速：4.7秒
※EU準拠

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