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【ヒットの法則410】アウディA5は新時代を切り開く革新的なニューモデルだった

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【ヒットの法則410】アウディA5は新時代を切り開く革新的なニューモデルだった

2008年2月、アウディから待望の2ドアクーペ「A5」が登場した。パワートレーンのレイアウト変更という英断の末に誕生した美しいクーペはどんなモデルだったのか。美しいデザインを作り出すための前後重量配分の適正化は走りにどんな効果をもたらしたのか。ここでは日本上陸早々に行った試乗の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年4月号より)

前輪位置を前出しする新しいプロポーションを実現
美しいフォルムこそが一番の売り物の、フル4シーターのクーペ。「プレミアム」を標榜するブランドの大半は、そんなモデルを以前からラインアップに加えていたところが多い。

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具体例を挙げるならば、メルセデス・ベンツのCL/CLK、BMW 6シリーズ/3シリーズクーペがその代表格となろう。後席居住性はちょっとタイトになるものの、ボルボのC70やインフィニティG37 (スカイラインクーペ)、さらにはアルファロメオのブレラやプジョーのクーペ407なども、そうした範疇に含めて良いかもしれない。そういったクーペモデルを持つことがプレミアムである証という面もある。一方で、そうしたカテゴリーにその名を連ねることのなかったのが、意外にもアウディだったのだ。

確かに、このブランドにはTTクーペが存在する。しかし、このモデルの後席スペースは4シーターを名乗るにはあまりにもタイトで、むしろ「2+2」と呼ばれるべきもの。実際そのオープンバージョンであるTTロードスターは完全な2シーターのデザイン。アウディには「流麗なスタイリングを持つフル4シーターのクーペ」は、これまで存在しなかったのである。

しかし、メルセデス・ベンツ/BMWという両巨頭を直接のライバルとするアウディにとって、またここ数年の世界累計販売台数でも右肩上がりの成長を遂げてきたアウディにとって、「敵にあって自らには存在しない」という事柄は、内心忸怩たる思いであったに違いない。

とは言え、クーペの命はまずはその美しいスタイリング。フロントのオーバーハング上にエンジンをマウントするという縦置きFF/クワトロのパワーパックを持つアウディでは、そんな既存のメカニカルコンポーネンツを用いる限り、流麗なプロポーションを実現するのは不可能だった。あまりにも前輪位置が後ろ過ぎるという大問題があったのだ。

そこで、パワートレーンのレイアウト変更という英断を行ってまで、「前輪位置」を理想的なポジションへと修正した第1号のモデルが、いよいよ日本上陸となったA5というわけだ。すなわち、フロントデフの位置をクラッチ/トルクコンバーターの右前下方向へ移すことによって、従来よりフロントアクスルを15cmほども前方に移動。こうしたリファインの目的は、公式には「前後重量配分の適正化」などとされるが、「カッコ良いクルマ(クーペ)を実現のためには必須で不可欠の大手術だった」というのが、この駆動系レイアウト変更に対するボクの見方だ。

A4の美しさを予感させるクーペの知的な出で立ち
「A5」というネーミングからも察しがつくように、その生い立ちをありていに言えば、「A4のクーペ版」となる。日本ではほとんど同じタイミングでデリバリーが開始となるA5と新型A4だが、ヨーロッパ市場ではA5は2007年3月のジュネーブオートサロン、新型A4は2007年9月のフランクフルトショーでデビューと、意図的に半年ほどの時間差が与えられてきた点に注目したい。

すなわち、こうしてアウディラインアップの中では最もポピュラーな存在であるA4のモデルチェンジに先駆けて、長年の「空白地帯」を埋めるA5を先に披露したことは、フル4シータークーペ市場への新規参入をより強いインパクトでアピールしたい、新型A4の新しいパッケージをスムーズに展開していきたい、というアウディの戦略と見て取れる。

そんなA5とは、昨年2007年5月のイタリアで開催された国際試乗会以来の再会となった。

今回用意された日本仕様の3.2FSIクワトロは、オプション設定のアルバブルー・パールエフェクトという、ちょっと淡いブルーのエクステリアカラーを纏ったモデルだった。さらに、やはりオプション設定であるバング&オルフセン製のオーディオや、車速感応式の電子制御可変ギア比ステアリングや同じく電子制御による可変減衰力ダンパーなどからなる「アウディ ドライブセレクト」、さらにはリアビューカメラなども装備し、本体価格の695万円に64万円を加えた総額759万円の仕様となっていた。

右/左の双方が選択可能であるS5に対し、A5のステアリング位置は右のみの設定。また、トランスミッションはS5も含め6速ATのみの設定で、欧州では当然用意のあるMT仕様は導入されないという。

それにしても、青く澄んだ日本の空の下で改めて目にするA5のルックスは、とても知的で魅力的だ。R8ばりに表情が豊かな例の「シングルフレームグリル」を中心とした顔付きには多少なりとも賛否が分かれそうだが、その伸びやかなシルエットを流麗と感じない人などきっといないだろう。

そんなA5の美しさを文字通り「下から支える」のは、やはり「適正化された前輪位置」の影響がとても大きいと実感する。もしも旧来のレイアウトを踏襲し、前輪が15cmほども後ろに存在したとしたら……なるほどそれでは『美しいクーペ』の実現など到底不可能だったと思わざるを得ない。ここで、これまでアウディにフル4シーターのクーペが存在しなかった理由にも、思わず納得してしまうのだ。

新しい車両思想を実感させる運転席左側の大きな膨らみ
一方で、そのような優美さの実現には「代償」も認められる。それは、ドライビングポジションにどうしても不自然な印象が拭えないことだ。

これはトランスミッションの右側に、前輪を駆動するための短いプロペラシャフトが新たに置かれたことに起因する。それが、フロント右フロアの左側に大きな膨らみを生み出すため、フットレストの位置が理想と思われる場所よりも靴一足分ほども右に押され、しかも妙に奥まっているのだ。

実は、国際試乗会で左ハンドル車をテストドライブした際にすでにそれは懸念された事柄だったが、こうして実際に右ハンドル仕様で乗ってみると、新しい車両思想を実感すると同時に、やはり左側通行の市場ではいささか問題がないわけではないと思える。

日本仕様の場合、2ペダルのATモデルしか導入されていないのでまだ幸いだが、このクラスでも3ペダルのMT仕様がポピュラーな英国などではフットレストはクラッチペダルの下側とならざるを得ないはずで、それが右にオフセットされるとともに奥まった位置に置かれた原因と推測できる。

一方、後席やトランクスペースにはかなりのゆとりが感じられる。手放しに広いと感激するほどではないが、とくに大柄な人でなければ大人でもリアシートで相当な長時間を過ごせそうだ。リアのシートバックに分割可倒機構が採用されたトランクルームは、実際に大人4人が小旅行に出掛けられる程度の荷物を軽々飲み込んでくれる。A5は流麗なクーペボディの持ち主でありながら、長距離ツアラーとしての適性もしっかり備えているのである。

インテリア各部のクオリティの高さは、さすがはアウディだ。どこをとっても質感が高く、この点はライバル各車に対して大きなアドバンテージになるに違いない。惜しむらくは、マルチメディア・コントローラー「MMI」の表示レスポンスが改善されなかったこと。操作に対して表示がわずかに遅れるため、時にダイヤル操作量などをオーバーシュートしてしまいがちなのだ。直感的に理解しやすい優れたロジックの持ち主であるだけに、この「MMI」のウイークポイントは残念だ。

滑らかな高速路面で見せる抜群のフットワーク
3.2Lエンジン+6速ATの組み合わせは、1.7トン弱のボディに十分な加速力を与えてくれる。走り始めの瞬間からその力感にはゆとりが大きく、特に2000~3000rpm付近での太いトルク感が心地良い。直噴システムや可変バルブリフトシステムなどの最新メカの投入により、アクセルワークに対する応答性の良さも魅力的だし、高回転域にかけての伸び感も良い。日本の環境下で乗るにあたっても何の違和感もないプログラミングが施されたATとも相まり、A5の動力性能には高得点が与えられる。これは文句なく気持ちがいい。

平滑度の高い路面でのフットワークも、好感の持てるものだった。ヒタヒタと路面をしっかり捉えながら進む感じが実に心地良い。舗装のコンディションが優れた、まだ新しい高速道路などでのA5の走りは快適そのものだ。

しかし、そんな好印象は路面に凹凸が目立ってくると、残念ながら低下してくる。今回のテスト車は標準仕様の18インチタイヤを履いていたが、それでも突き上げ感がやや強く、先ほどまでの「良路」でのバネ下の動きが軽やかな感覚も急速に失われてしまうのだ。目に見える程のわだち路面に遭遇すると、ワンダリング現象が発生して直進性が明らかに低下。これは、今回のモデルがいわゆるアクティブステアリングをオプション装着し、日本の市街地での常用速度域で特にステアリングのギア比を早めているであろう点とも関係がありそうだ。

ちなみに、アウディでは「ダイナミックステアリング」と称するこの速度感応式の可変ギア比ステアリングシステムは、微低速時はもちろん100km/h程度の速度に達してもまだ通常システムよりも早いギア比を採り続ける実感がある。日本車の同種のシステムが30~40km/hをピークにギアの増速をストップし、すでに80km/h付近では減速側に転じるというセッティングを採る場合が多いのに比べると、やはり「欧州基準の高速型セッティング」とも受け取れる。

BMWに採用された初期の仕様ほど極端ではないが、そんなギア比の早さを違和感と判断する人も少なからずいそうだ。ワンダリング現象の話題も含め、このオプションをチョイスする際には考慮したほうがいいだろう。

今回のテストドライブでは特に大きな横Gを発生するシーンでの印象は確認できなかったが、素直なターンインやその後のコーナリングの感覚から察すれば、前輪位置が前進したことによる重量配分の変化やヨー慣性モーメントの減少、リアに60%の駆動バイアス比が掛けられた4WDシステム採用による運動性能の高まりは、ある程度の実感が得られたと報告できる。

こうなると、当然今後に続く次期A4の仕上がり具合にも期待が持てるというもの。A5は単に美しいクーペというだけではなく、そんな「A4プレビュー」の意味も含んでの新世代アウディの幕開けとしての存在意義も大きいモデルなのだ。(文:河村康彦/Motor Magazine 2008年4月号より)



アウディ A5 3.2FSI クワトロ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4625×1855×1375mm
●ホイールベース:2750mm
●車両重量:1670kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3196cc
●最高出力:265ps/6500rpm
●最大トルク:330Nm/3000-5000rpm
●駆動方式:4WD
●トランスミッション:6速AT
●車両価格:695万円(2008年)

[ アルバム : アウディ A5 3.2FSI クワトロ はオリジナルサイトでご覧ください ]

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