300km/hで走れるNA V10ファミリーワゴン
新世代で復活するステーションワゴンのBMW M5 ツーリングだが、3世代前にも実は存在した。パワートレイン技術者の夢の結晶といえる、F1用エンジンへ影響を受けた、自然吸気のV型10気筒エンジンを搭載して。
【画像】3世代前にもあった「ワゴン」 BMW M5 ツーリング(E61) 最新のM5と5シリーズ ツーリングも 全112枚
300km/hで走れるファミリー・グランドツアラーでありつつ、ランドローバー・レンジローバーに迫る実用性を備える。同じ5代目BMW 5シリーズと呼ぶには無理があるほど、大幅な改良を受けていた。
このE60/E61型M5で最大の魅力を生んでいたのが、507psを繰り出す5.0L V10ユニット。レッドラインは8000rpmに設定され、コンピューター制御されるスロットルボディが10基並ぶ。それを司るECUは、量産車では最高速だった。
最大トルクは52.8kg-mで、同時期のメルセデス・ベンツE 63 AMGやアウディRS6に比べると細かったものの、0-100km/h加速は4.7秒。249km/hで掛かるリミッターを解除すれば、329km/hでアウトバーンを疾走できた。
ちなみに発売時、M5には「2004年仕様ギミック」と呼ばれる仕掛けが実装されていた。雨天時の安全性を考慮し、エンジンの始動時は405psに制限されており、ステアリングホイール上の「パワー」ボタンを押すことで507psを開放できたのだ。
E61型M5 ツーリングの発売は、サルーンのE60型がフェイスリフトを受けた2007年。3年間での生産数は1028台と少なく、右ハンドル車は222台しか存在しない。
出色の潜在能力をヒシヒシと伝える車内
もうじき最新のM5 ツーリングがディーラーへ並ぶはずだが、英国価格は10万ポンド(約1900万円)を超える見込み。だが、E61型なら3万ポンド(約570万円)前後で探せる。もっとも、V10エンジンの修理代にも同程度の予算が必要かもしれないが。
慌てずに状態の良い例を探し出せば、素晴らしいパフォーマンスを堪能できる。当時のAUTOCARの試乗テストでは、満点の評価を獲得したほど。
ダンパーが柔らかいモードなら、橋桁の継ぎ目を優しくいなし、乗り心地はしなやか。スポーティさが抑えられたインテリアへ身を委ねれば、2000年代の上級サルーンの豊かさに浸ることができる。荷室容量は500Lと広く、沢山の遊びアイテムも運搬できる。
それでも、随所にあしらわれたMのエンブレムと、7速セミATのシフトレバー、身体へフィットするスポーツシートなどは、出色の潜在能力をヒシヒシと伝える。英国仕様のスピードメーターには、時速200マイル(321km/h)までしっかり刻まれている。
ロータリーダイヤルと8.8インチ・モニターが組み合わされた、当時のiドライブ・システムは標準。19インチ・アルミホイールにヘッドアップ・ディスプレイ、11種類のシフトモード、LEDテールライト、ステンレス製マフラーなども共通で装備した。
燃費は6.4km/Lと褒められないが、経済性を優先して選ぶクルマではないだろう。新世代がV8プラグイン・ハイブリッドになった今こそ、自然吸気V10エンジンのE61型を検討する価値は高まったといえる。
新車時代のAUTOCARの評価は?
ライバルの水準を凌駕する、高い性能を備えたモデルの登場は珍しい。新しいM5は、まさにそれ。AMGやアウディの競合とは異なる、非常にディープなキャラクターが与えられている。数か月運転したくらいでは、すべてを体験することは難しいだろう。
とてつもないパワーにも関わらず、ドライバーへ特別な技術を要求しない。一方で、腕利きドライバーを思い切り走りで報いてもくれる。
燃費は良くないし、数年後の残存価値は高くないかもしれない。しかし、完成度は素晴らしく、走りは魅力的。世界最高のクルマと表現しても、間違いではないだろう。(2004年11月2日)
オーナーの意見を聞いてみる
レベッカ・ローテンバーグ氏
「300km/hのステーションワゴンです。普通の人には、古い5シリーズ・ツーリングにしか見えないでしょう。でもファンにとっては、BMWのマスターピースの1つだと思います。欠陥はありますが」
「最大の特長はエンジン。高額な修理へ見舞われる可能性もありますが、適切なメンテナンスを怠らなければ、そこまでトラブルが多いわけではありません。むしろ、燃費が最大の弱点でしょう。ガソリンスタンドのスタッフと、親しくなれますよ」
「ガソリンタンクが小さく、高速道路でも400kmくらいしか走れません。でも、自然吸気のV10エンジンが許させてしまうんですよね」
購入時に気をつけたいポイント
エンジン
S85型V10ユニットでは、可変バルブタイミング機構、ヴァノスのオイルポンプが故障しやすい。オイルパン内に実装され、高い圧力が掛かるため、放置しておくと致命的な不具合に繋がる。油圧やヴァノスの警告灯が点いている場合は、この故障を疑う。
英国では、交換に1基あたり2000ポンド(約38万円)ほど必要。予め予算を組んでおきたい。
10基のスロットルボディは、バンク毎に1基のスロットルアクチュエータが制御している。故障時の交換費用は、英国では1000ポンド(約19万円)ほど必要とのこと。スロットルポジション・センサーも、一緒に交換する必要がある。
エンジン内のコンロッド・ベアリングは、摩耗しやすい。常に多くの負荷が掛かる部品なため、11万km手前での交換を、M5を得意とするガレージは推奨している。
トランスミッション
SMGと呼ばれるセミAT内に実装された、油圧ポンプの故障は珍しくない。修理費用は5000ポンド(約95万円)ほど。
ブレーキ
車重が1955kgもある高性能ワゴンだから、さほど活発に走らせなくても、ブレーキは減りが早い。ディスクは、6万km前後での交換が必要になる。
電気系統
当時は最先端だったとしても、まだ技術的には未完成といえた電子機器が多く載っている。オルタネーターの故障、iドライブのフリーズなどは珍しくない。ECUは、最新のソフトウエアへアップデート可能だ。
知っておくべきこと
E61型M5 ツーリングは、同時期のM6へ採用されていた、ダブルスポーク・デザインのダイヤモンドカット・アルミホイールを履いていた時期があった。リアのエアサスペンションの干渉を避けるため、サイズが違っており、珍しいオプションだった。
オーナーの話では、エンジンオイル交換は5000km毎が望ましいという。カストロール・エッジの10W60が、定番オイルとのこと。
英国ではいくら払うべき?
2万ポンド(約380万円)~2万9999ポンド(約569万円)
走行距離が16万km前後まで伸びた、E61型M5 ツーリングが英国では売られている。恐らく、何らかの修理は必要だろう。
3万ポンド(約570万円)~3万9999ポンド(約759万円)
2009年式まで含まれ、走行距離は10万km前後へ短くなる。大幅に改造された例は避けたい。中には、不当に高い値段設定もあるようだ。
4万ポンド(約760万円)以上
状態の良いE61型M5 ツーリングを英国で探すなら、この価格帯から。下記の通り、MTへ換装された例も発見した。
英国で掘り出し物を発見
BMW M5 ツーリング 登録:2007年 走行距離:9万6500km 価格:4万2999ポンド(約817万円)
6速MTへ換装されたM5 ツーリング。このコンバージョン例は、欧州では2台しか確認されていない。希少なM6風アルミホイールも履いている。走行距離は短めで、ボディの傷は最小限。ボンネットとバンパーに、飛び石傷がある程度だという。
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みんなのコメント
V10 NA 500psオーバー。純粋に乗ってみたい。
書いてあるように0~100キロが遅い。これに乗るなら頑張ってアルピナが凄くいい。