モーターショーのプレスデイ初日といえば、各メーカーのプレス・コンファレンスが15分刻みでおこなわれ、どこも社長スピーチからはじまるのが常だ。とくにジュネーブショーでは、前年の売上や経常利益といった決算についても簡潔に触れるのが半ばお約束である。
ところがここ数年、この定石を破って、動画や生演奏などを組み合わせた、まるでショーのようなプレゼンテーションをおこなっているのがシトロエンだ。
アウディの新しい顔はアリ?ナシ?!──ジュネーブ国際自動車ショー2019リポート【第4弾:アウディ】
今年は一体どうなるのか……と、期待に胸を膨らませていたが、まさかの内容に驚いた。
パントマイム&ブレイクダンサーの動きと背景の動画、そして生歌を組み合わせて、昨年の販売実績から100年間の歴史、そして今回が初お披露目となったプロトタイプの発表まで、一言もスピーチを挟まず、一気呵成に見せるショーを展開したのだ。
スピーチごと省いてしまえば、聞き手となる観客または聴衆が何語を理解するのか関係なくなり、上演するだけで理解されるので、通訳機を配る手間も要らなくなる。
とはいえ、手間をかけないイコール手抜きではない。パントマイムとスクリーンに映し出された再生動画のシンクロぶりは入念な準備があったことを物語っているし、そこにシンガーによる歌もかぶせるのだから、凄い。デジ+アナ、ヴァーチャルとリアルを融合した演出は、相当作り込まれているように思えた。
100周年の節目であるサロンの機会というのに、あえてマイクを手に取らなかったリンダ・ジャクソンCEOにそのココロを聞いた。
「プレス・コンフォレンスも、クルマとおなじく既成概念にとらわれない内容にしたかったのです。決して私が無精をしたいのではなく(笑)。今回上演された内容はプレス・デイ終了後も、一般の来場者たちに繰り返し上演するものですし、インターネットを通じて世界中のシトロエン・ファンも見られます」
詳しくはこちらより、約16分弱の動画をご覧いただくとして、上演されたショーは3つのチャプターで構成されている。
第1部は、全世界における昨年の販売実績と、100年間の道標となるテクノロジーと市販モデルの歴史で、第2部のシトロエンそのものがタイムマシンであるかのようなCM用のショートムービーへと繋がっていく。
ショートムービーに登場する主人公のダンサーは、「2CV」から「DS」、「メアリ」そして「CX」へとヒッチハイクのクルマを乗り継ぎながら、あらゆる時代を旅するのだが、途中でセバスチャン・ローブの運転する「クサラ」のWRCカーを挟みつつ、最新モデルの「C5エアクロス」、そして今回発表されたプロトタイプ「AMI ONE」にも乗り込む。そののち、会場のコースに、実車のAMI ONEが走り込んできて、ヴァーチャルが現実に合流する。と、なかからビデオの主人公が降りてきて、AMI ONEのプレゼンが主人公のダンスとともに始まる……といった見事な構成だった。
AMI ONEはシトロエン最新のEVコンセプトであり、移動の自由とイージーさをうったえる。自動運転が前提なので、なんと乗るのに運転免許証は不要。スマートフォンさえあれば誰でも乗れるフリーフローティングのシェア・カーだ。都市におけるオブジェのような存在になるという。
まず、ドアのアンロック&ロックはスマートフォンで可能だ。出発時はメーターパネルにスマートフォン端末を嵌め込むようにセットし、目的地を読み込んだあと、走り出すという。免許証ナシで乗り込めるカーシェアリングというのは、日本の法律では無理そうかもしれないが、フランスには「voiture sans permis(ヴォワチュール・サン・ペルミ、免許不要の軽車両)」のカテゴリーがあって、その条件範囲内で完全自動運転を実現したのなら、ありえない話では決してない。
とはいえ、フリーフローティング式のカーシェアというのはAMI ONEの仮の姿で、じつはルノーの超小型EV「トゥイジー」を追撃するためのEVコミューター・スタディとも目されている。バッテリー容量などは未公表であるものの、車両重量は425kgで、自律走行距離は約100km、最高速度は45km/hと発表されている。「DS 3クロスバック」やプジョー「208」にEVバージョンが用意されるいま、シトロエンもなにかしら電化モデルを準備しているのは当然だろう。
より現実的なニューモデルとしては、既存モデルの創業100周年のメモリアル限定車、「オリジンズ」シリーズだ。かつての「トラクシオン・アヴァン」や「2CV」をイメージした内外装が特徴である。たとえば、ボディサイドのエアバンプやフォグランプあるいは内装のステッチに、温かみあるカッパー色のアクセントをくわえていたりする。日本には夏以降、C3に「オリジンズ」が導入される予定だ。
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