爽やかな風とフラット6をリアルに感じる快感
ポルシェはオープンモデルにこだわりを持つメーカーである。930ボディの911には、最終生産年になった1989年、3種のオープンが設定されていた。ソフトトップ仕様のカブリオレ、脱着式ルーフのタルガ、そして限定スペシャルモデルのスピードスターである。3台の中で格別人気が高いのがスピードスター。1989年だけという希少性に加え、ウインドシールドがカブリオレより数段低く、スタイリッシュな存在感をアピールするからだ。
【20世紀名車ギャラリー】風とフラット6をリアルに感じる、1989年式ポルシェ911スピードスターの肖像
930ボディのスピードスターは、1987年のフランクフルト・モーターショーに参考出品された同名プロトの市販バージョン。オープンエアがもたらす爽快感を重視した2シーターモデルである。ボディはカブリオレをベースにしており。カレラ(全幅1650mm)と、ワイドフェンダーのカレラ・ターボルック(全幅1775mm)の2タイプから選べた。生産台数はカレラが171台、カレラ・ターボルックは1894台。日本にはそれぞれ24台、67台が正規輸入されている。
ライブ感満点の走りが最高。フラット6の鼓動が全身で楽しめる
911スピードスターは、オープン走行が大好きな技術陣が仕上げた、「ちょっぴりスパルタン」な911である。シンプルな幌はあるが、基本的にはオープンで乗るモデル。青空のもとでフラット6の実力をフルに引き出すためのピュアスポーツである。
排気量3164ccのフラット6(231ps/28.6kgm)に、特別なチューニングは施されてはいない。しかしスピードスターはフォグランプやパワーウィンドウ、三角窓、リアシートが未装備で、車重はベース車比で70kgほど軽い。
ドライバーズシートに収まる。本革シートとドアトリム、そしてカーペットをホワイトでコーディネートした室内はエレガントだ。好印象なのはステアリングホイール。グリップ部の断面形状が実にしっくりとくる。「さぁ、走りに出かけよう」とドライバーに語りかけてくるようだ。
走りだして驚いたのは軽快感。独特のライトウェイト感覚がスピードスターにはある。とにかくすべての挙動がソリッドでしかもシャープなのだ。ステアリングはドライバーの意志に間髪を入れず反応し、足回りに無駄な動きはいっさいない。フルオープンボディにもかかわらず、驚くほどしっかりとしたボディもこの印象を強調する。音も魅力的だ。フルオープンのスピードスターは、フラット6の澄んだエンジン音をドライバーにストレートに届ける。スピードスターは、エンジンと直接対話しているような錯覚に陥るほどライブで心躍るサウンドの持ち主である。フラット6の存在をリアルに感じるからこそ、走りをシャープに感じるのだ。
スピードスターは、右足の踏み込みに応じて回転を上げるフラット6の鼓動とスピードの高まりが完全リンクし、さらに頬に感じる風の流れがドライビングの楽しさを倍加させる。これほど饒舌にオープンドライビングの楽しさを語りかけるクルマは珍しい。しかもボディサイズ(4300×1650×1270mm)が非常にコンパクトなため、すべてがドライバーの手の内にあることを実感する。最新モデルと比較しても、その楽しさ、刺激性は超一級品といえる。
低いウインドシールドは、一見すると風の巻き込みが多そうだが、決してそんなことはなかった。風の存在はつねに感じるものの、高速域でも不快な印象はない。これならやせ我慢せずに、常時フルオープンで走り回れる。幌は内張なしの単層構造で、開閉は手動式。
ポルシェ初のスピードスターは、1954年の356Aスピードスター(同車は1958年まで生産)。930ボディの911カレラ・スピードスターは、約30年ぶりのスピードスター復活という意味もあった。風を感じて走る最高のオープンスポーツである。
1989年ポルシェ911カレラ・スピードスター主要諸元
モデル=1989年式/911カレラ・スピードスター
全長×全幅×全高=4300×1650×1270mm
ホイールベース=2272mm
車重=1280kg
エンジン=3164cc水平対向6OHC
エンジン最高出力=231ps/5900rpm
エンジン最大トルク=28.6kgm/4800rpm
トランスミッション=5速MT
サスペンション=フロント:ストラット/リア:セミトレーリングアーム
タイヤ&ホイール=フロント:205/55VR15/リア:225/50VR16+アルミ
駆動方式=RR
乗車定員=2名
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みんなのコメント
まあ買おうと思えば買える値段だった
今じゃまるで手が出ないくらい高騰してる