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“伝統工芸”がもたらす極上の味わいとは?──ベントレー ミュルザンヌ試乗記

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“伝統工芸”がもたらす極上の味わいとは?──ベントレー ミュルザンヌ試乗記

2ドアクーペの「コンチネンタルGT」、4ドアセダンの「フライングスパー」、そしてSUVの「ベンテイガ」……。

それぞれのカテゴリーでトップたらんとする至極直球的なベントレーのラインナップにあって、「ミュルザンヌ」の立ち位置はちょっと特殊にみえるかもしれない。

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でも、クルマ好きであれば、それこそが格別ゆえの孤高の存在なのはじゅうじゅう理解されている。

ミュルザンヌの製造工程で機械化されているのはアウターパネルのプレスくらいで、ボディの溶接やエンジンの組み付け、杢目パネルの磨き上げ、レザーのラッピングにいたるほぼすべての項目が手仕事によって賄われる、その製造時間は約400時間! すなわち2カ月に近いあいだ、選び抜かれた熟練工員たちがつきっきりで1台のミュルザンヌに向き合うのだ。

徹底的な合理化を美徳とする自動車生産の現場で、これほど厄介なプロセスを守り続けているクルマはほとんどない。1946年からベントレーを作り続けるクルー工場(イギリス)だからこそ可能な“伝統工芸”だ。

“伝統工芸”ゆえ、作られる数は前述の3モデルにもまして限りがある。限りあるため、実車に触れられる機会も少ない。それは広報車を扱わせてもらう機会の多い、僕らのような仕事でも然りだ。だからベントレーの日本法人が、久し振りに、そして期間限定で「ミュルザンヌを貸し出します」と、連絡が入るや、僕は早速編集部にお願いし取材の段取りを組んでもらった。

思えばミュルザンヌに触れるのは何回目だろうか。もちろん片手に余る回数であるのは間違いなく、その最後は確か新しいグレードが設定された直後だから、3~4年ぶりだ。そのあいだにマイナーチェンジが実施され、新たなデザインに変わった。2008年に限定車として登場した2ドアクーペ「ブルックランズ」の流麗なフォルムが反映されたデザインだ。

ミュルザンヌのグレード構成は「標準」、「スピード」そして「EWB(エクステンデッドホイールベース)」の3つで構成する。うち、ホイールベースを250mm延長したショーファードリブンパッケージともいえるEWBは日本に正規輸入されていない。

試乗に供されたグレードは「スピード」だった。標準モデルに対し、強化されたエンジンや足まわりをもつ、平たく言えば“スポーティバージョン”に位置付けられているモデルだ。

搭載するエンジンは6.75リッターV型8気筒エンジン。ベントレー的には「6・3/4」と称するこのエンジンのルーツは半世紀以上前に遡る。かつては同門だったロールズ・ロイスでも用いられ、一時代を築いたエンジンだ。

とはいえ、エンジンは最新仕様にアップデートされている。ミュルザンヌのデビュー時、基本設計を忠実に守りながら構成部品のほぼすべてをあらため、環境要件などをクリアした。スピードに搭載するエンジンは最高出力537psを発揮。8速ATを介し0~100km/hを4.9秒でカバーし、最高速は305km/hに達する。

じゃあ車重は、そして空気抵抗値は……と、普通のクルマならこのまま数字を追いかけてしまいそうになるが、正直いってミュルザンヌの場合、そんな数字は二の次、三の次である。調べたところ圧倒的に驚くようなスペックはない。唯一呆れ果て、かつ1番意味がある数字といえば1750rpmで発生する1100Nmといった途方もないトルクぐらいかもしれない。

そのトルクをもってミュルザンヌがドライバーに味わわせてくれるのは他に類のない走りだ。

足裏にまでずしりとした重量感が伝わる鋳物のアクセルペダルに足を乗せれば、エンジンは微かな囁きとともに、巨体を“ゆるゆる”と歩むように進める。そこから踏み込んでいけば、そのぶんだけ自在に推進力が得られる。この感覚はなかなか味わえない、貴重な体験だ。なぜなら、普通のクルマであれば力の弱い低回転域の不得手を補うように、ペダルストロークよりもスロットルの開きが大きくなるようにチューニングするからだ。対して、有り余るほどのトルクを低回転域から発するミュルザンヌは着色の必要がないのだ。

ミュルザンヌの加減速フィールは意のままというだけでなく、その操作クオリティにまで自らの世界観が表現されている。大型のオーディオアンプがパワーを自在に操るため、ボリュームノブのクオリティや摺動感にこだわるのと似ている。

VWグループをあげての最新技術が投入され、リノベーションされたV8ユニットは、さぞや緻密な工業的サウンドを聴かせてくれるかと思いきや違った。

アクセルを踏み込めば台風の最中にいるかの如く、低い呻きや高い鳴きなどの風切り音のようなものが渾然一体となって、エンジンの咆哮として束ねられていく。その音量はスポーツサルーンとして適切に調整されているから会話などに不都合はないが、音質は自然の蠢きをまとめたかのようで、戦前のブロワーを搭載したベントレーの粗野なサウンドをどことなく思い出させる。

どれだけ人の手間を費やしているのか想像がつかない、豪奢なインテリアに身をおいて運転していると、ベントレーはやはりれっきとしたスポーツブランドであることを強く感じる。ギリギリで絞り出したパワーではなく、余剰に富んだトルクでコーチビルド・ボディをいかなるときも思いのままに力強く推し進める。

サーキットでコンマ1秒を削ぎ落とすのではなく、絶景のオープンロードでアクセルをワイドオープンしながらコーナーを駆ける楽しみをひとつ、ふたつ味わう。そんな楽しみ方を“スポーツ”と捉えるかどうか、といった話にはなるが、経験豊かな大人ならば、それに同意してくれると思う。

そしてミュルザンヌに乗ってあらためて感じたのは、圧倒的な物量が醸し出す自動車の“滋味”だ。時代の流れに圧されず、オリジナリティを守り続けているのが、ミュルザンヌを孤高たらしめる大きな要因でもあるのだ。

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