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水素エンジンは思ったよりもずっと現実的! 水素カローラのレースでの活躍を追ったら市販車への採用の可能性が見えた

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水素エンジンは思ったよりもずっと現実的! 水素カローラのレースでの活躍を追ったら市販車への採用の可能性が見えた

 この記事をまとめると

■昨年デビューした水素カローラが今年の富士24時間レースにも参戦

発売前のフェアレディZが2台参戦! 富士24hで登場した「Nissan Z Racing Concept」の中身

■その進展状況は予想を上まわるものだった

■水素カローラの現状や市販車へのフィードバックの可能性について解説する

 水素の燃焼制御技術は着実に進化している!

 昨年5月に開催された「富士 SUPER TEC 24時間レース」でセンセーショナルにデビュー。その試みが各方面から大きな注目を浴びた水素燃料によるカローラスポーツが、今年の富士24時間レースにも姿を現した。今回は、カローラH2コンセプトと車名を変え、昨年同様、正規の市販車ではない実験、開発などを目的とした車両のために用意されたST-Qクラスでの参戦である。

 この水素燃料カローラの昨年から今年にいたる経過をかいつまんで紹介すると、富士24時間レースでデビューを果たしたあと、開発を目的に引き続きスーパー耐久シリーズに参戦。昨年4戦、そして今シーズンの初戦(鈴鹿戦)で使われ、登場から丸1年、節目となる6月3~5日に開催された2022年シーズンのスーパー耐久第2戦、富士24時間レースに再び駒を進めてきたものだ。

 なんと言っても気になったのは、カーボンニュートラル(と言うより、ゼロカーボンと表現したほうがより適切かもしれない)を可能にする、水素燃料テクノロジーの進捗度合だった。昨年の24時間レースデビュー時には、本欄でも水素燃料車の概要について触れたとおり、水素を燃やして動力源とするため、炭化水素、一酸化炭素、二酸化炭素といった炭素(カーボン)成分がいっさい排出ガスに含まれず、地球温暖化も含めた環境保全に大きく貢献する新動力システムとして紹介している。

 登場から丸1年を経た水素燃料カローラの現状について、気になる点を取材してみたが、その進展状況は、こちらが予想していたペースを上まわるもので、解決すべき問題はまだいくつかあるものの、内燃機関としてゼロカーボンを達成するきわめて有効な手段であることを強く意識させられた。

 こちらの取材に応じてくれたのは、やはり昨年同様、当初から水素燃料車の開発作業をとりまとめてきたガズーレーシングカンパニーの坂本尚之主査である。

 まず最初に、昨年のデビュー時から何か抱えてきたテーマや問題はなかったか、ということについて尋ねてみた。開発を進める上で、水素を燃料とする内燃機関の成立に関していくつかの問題点に直面していたのではないか、という意味での質問だったが、昨年はガソリン車と同等の性能が得られなかった、と即答された時には少なからず驚かされた。

 水素を燃料とする内燃機関の成立に関する問題ではなく、すでに対ガソリン機関との性能比較に開発レベルは達していた。開発側では、一般ユーザーにとってガソリン機関と同等かそれ以上の性能を持つことが、新たなパワープラントとしての必要不可欠な成立条件と見なしているようだ。

 昨年のレースは、給水素の回数やピットでのメンテナンス作業で、実質12時間程度しか走れていなかったが、車両のトラブルや、とくにエンジン関連のメカニズムが壊れることもなく、基本的な部分で合格点が与えられる水準に達していたと判断したという。

 昨年の状況は、水素燃料車の実戦初投入であり、水素機関が使い物になるか否かを長丁場の走行環境で確かめてみたい、という手探りの状態だったが、投入3戦目となる鈴鹿戦で、ガソリン機関(GRヤリス=272ps/37.7kgf-m)と同等の出力/トルクを得ることに成功。さらに今回は、レース直前の6月1日に公開されたGRカローラモリゾウエディション(304ps/40.8kgf-m)と同等かそれ以上の出力/トルクを発生するにいたったという。

 ちなみにベースエンジンは、1618ccのG16E型3気筒ターボだが、坂本氏によれば、基本設計が頑丈なエンジンで、高圧、高出力にトライする水素燃料エンジンの開発母体としては、理想的な条件を備えているという。頑丈に作られているため、過度の負荷を与えても壊れず、研究開発の作業に対して問題なく対応できるからだ。

 この出力/トルク値の向上からうかがえることは、水素の燃焼制御技術が着実に進化を果たしている、ということだろう。水素は、燃えやすい性質を持つため、これがメリットにもデメリットにもなり、とくにプレイグニションという不用意な燃焼(異常燃焼)の問題がついて回るが、こうしたあたりは着実に解決されてきたということだ。

 液体水素の実用化についても検討が始められている模様

 これに関連し、水素の理想空燃比について聞いてみたが、さすがにこれは機密事項だそうで、答えてもらうことはできなかった。だが、気体の水素を燃焼してガソリン機関以上の出力/トルク値が得るようになったことを考えれば、1回当たりの燃焼に際し、相当な量の水素がシリンダー内に送り込まれていることは疑いようもない。

 この点に関しては、高圧(高圧縮)水素をシリンダー内に直接噴射する(間接噴射では出来ない)ことで可能になったもので、トヨタが実用化してきた直噴方式、トヨタD-4システムがその土台となっていることを付け加えてくれた。

 また、これは競技(速く走ること)とは直接関連しないことだが、ガソリン燃料に対し、リーンバーン(希薄燃焼)方式に対する自由度の幅が広いことも語ってくれた。リーンバーン方式を量産車に当てはめれば、省燃費、航続距離の長さを意味することになり、排出ガス低減(といっても水素は無公害だが)、燃料代と、ユーザーの立場から見れば有利な要素がいくつか並ぶことになる。

 さらに、今回のレースで注意を引いたのは、昨年同様、給水素は補給システムの関係からピット裏の隔離された特設エリアで行われたが、その片隅に「液化水素」と記された運搬車(トレーラー方式)が置かれていたことだ。ちなみに関与企業は「イワタニ」だ。水素は、気体と液体では、その体積比は約800対1となる。もし、自動車の燃料として液体水素を使うことができれば、その携行容量は気体の800倍となる。なお、気体水素を使う現行のカローラスポーツは、トヨタの燃料電池車MIRAIと同じレベルの70MPa(メガパスカル)で気体水素は圧縮されているという。逆に言えば、MIRAIに給水素を行っているステーションであれば、カローラH2コンセプトへの給水素もできるという。

 ところで、現実的には、液体水素はロケット燃料として使われるぐらいで、民生レベル、それも自動車のような小型移動体の燃料としてはまったく想定外(?)だった。しかし、水素で走るカローラスポーツの実例を目にすると、液体水素の実用化は、俄然現実味を帯びた問題として捉えられるようになる。こうしたことを踏まえ、液体水素の可能性について尋ねたところ、これまで燃料を作る側、使う側が現実問題として取り組んできたことはなかったが、逆に、カローラH2コンセプトの実証実験がきっかけとなり、関係者が同一のテーブルに着いて検討が始められる状況に変わってきたという。

 液体水素を燃料として使う場合の問題点は、補充方法や補充に関する温度管理(液体水素の沸点は−252.6℃)などで、一朝一夕で解決できる問題ではないが、近年の技術進歩を目にすると、それほど遠い先のことではないようにも思えてくる。

 社長自ら「モリゾウ」の名前でドライバーを務め、水素燃料車の開発に積極的な姿勢を見せる姿勢は、他のメーカーでは絶対に見られない大きな特徴だ。昨年よりラップタイムで約5秒(予選タイムは1分58秒台)、平均周回数は1ラップ増えて13周、給水素時間が5~6分から2分程度にまで短縮されたカローラ水素燃料車の戦いぶりを見ていると、モーターレーシングは技術開発、研鑽の場として最高の舞台という表現が、まさに実感を伴って伝わってくる。

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