これまでも腕利きの「逃がし屋」ドライバーが登場する映画を紹介してきたが、クライムアクション映画の王道パターンとはいえ、それぞれに個性的なストーリーや出演者によって異なる魅力を放っている。
今回ご紹介する『ドライヴ』で主人公を演ずるのは『ラ・ラ・ランド』や『ブレードランナー 2049』に出演したライアン・ゴズリング。1980年テイストのクライムムービーを楽しんでほしい!
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文/渡辺麻紀、写真/バップ、Chevrolet、Chrysler
[gallink]
■アクション映画の三要素は『クルマ・ドライバー・犯罪』!?
まずはオープニングで登場するのはシボレー・インパラ。セリフ無しでもグッと引き込まれるのは良いカーチェイスの証!?
車とドライバーと犯罪というのは、クライムアクションの人気コンビネーションのひとつ。ウォルター・ヒルによる『ザ・ドライバー』(1978/いつかこの作品も紹介したい!)という映画以降、何度も作られてきた。
今回、ご紹介する『ドライヴ』(2011)もそんな1本。
車の知識とドライビングテクニックを活かして車の整備工場で働きつつ、映画のカースタントをこなし、犯罪者の逃がし屋をしている寡黙な男。整備工場のボスの夢であるNASCARのストックカーレースでドライバーを務める予定にもなっている。
「ドライバー」と呼ばれる彼の逃がし屋モードのときのモットーは、「銃は持たない。何が起きようが5分間は車で待つ。が、5分過ぎたら面倒はみない。逃走経路は俺に任せろ」
その言葉を証明するかのように冒頭、緊張感にあふれた逃走シーンが用意されている。警察の無線を傍受しつつ車を走らせる男が、最初は静かに、そして存在がバレると猛スピードでロサンゼルスの夜を駆け抜けるのだ。
聴こえてくるのは傍受した音声とラジオの実況中継と、まるで効果音のような音楽だけ。セリフは一切ない。この間、およそ5分間。これがめちゃくちゃかっこいい!
このとき“ドライバー”が調達したのはシボレーインパラ。「カリフォルニアでは目立たない」にもかかわらず300馬力を誇る、逃がし屋にはぴったりの車だからだ。
本作には“ドライバー”が、それぞれ違う車で“ドライヴ”するシーンが3回用意されている。その1回目が前記のオープニング。そして2回目が、彼の愛車73年型シボレー・シェベル・マリブSSを走らせるエピソード。
同じアパートに住む母子と親しくなった彼が、ふたりを乗せてロサンゼルスリバーの河川敷を走り、今度は母親とふたりだけでネオン輝くL.A.の夜を静かに流す。寡黙で無表情なドライバーが幸せそうな表情をみせる、ほぼ唯一の温かいシーンだ。
■主人公が情に流されると事態は悪化する
同じアパートに住む母子との心温まる交流。しかし……
3人のひとときの幸せに影を落とすのが、刑期を終えて帰って来た彼女の夫の存在。刑務所で借金を作っていた彼は、その返済と引き換えに質屋を襲う約束をしてしまうのだ。母子の幸せを考えるドライバーはその計画に参加し夫を手伝うのだが、それに失敗したことから事態はどんどん悪いほうへと向かって行く。
この質屋襲撃時が3度目の“ドライヴ”。ドライバーが使用する車はフォードマスタングGTで、それを追いかけるのはクライスラー300C。
オープニングのチェイスシーンは夜のL.A.だったが、こちらは昼間。車同士をぶつけ合ったり突き合ったりを繰り返し、サイドターンを使ってどうにか逃げ切る。3回のなかでもっとも激しいカーアクションが展開するのがこのエピソードだ。
3度目のドライヴが終わると、今度はバイオレンスに拍車がかかり、ドライバーもこれまで封印していた狂暴な顔をのぞかせる。彼の過去は一切語られていないためか、さまざまな想像を掻き立てられるのだが、そのひとつのヒントになっているのが、彼がいつも羽織っている白いキルティングのジャンパー。
背中にはサソリが刺繍されていて、劇中でもサソリとカエルの寓話が語られる。「たとえ、カエルを助けなければいけなくても、サソリはサソリの本性に抗えない」というのだ。
ということはつまり、悪に手を染めた者は、そのなかから抜け出そうとしても出来ない、ということになる。果たして、3人にはどんな結末が待っているのか?
■ゴズリング自身が選んだドライバーの愛車にも注目!
シボレー・シェベルの兄弟車であるシボレー・マリブ
まるで1980年代の映画のような映像と世界観、魅力的な主人公、さらに容赦ないバイオレンスのコンビネーションが斬新だったためか、本作は世界の映画祭で注目を集めた。
カンヌ映画祭ではニコラス・ウィンディング・レフンが監督賞に輝き、アカデミー賞でも音響賞にノミネートされ、日本でも映画ファンには大きな拍手で迎えられた。
ちなみに、ドライバーの愛車を1973年型シボレー・シェベル・マリブSSに決めたのは、その主人公を演じるライアン・ゴズリング。監督レフンに、演じるキャラクターに合うと思う車を選ぶよう言われ、廃車施設からこの車をピックアップ。レストアして使用したそうだ。
シボレー・シェベルSSといえば『ワイルド・スピード』シリーズの主人公ドミニク(ヴィン・ディーゼル)の愛車のひとつとしても知られているし、『アウトロー』でもトム・クルーズがこの車を駆って警察と大チェイスを繰り広げていた。
いかにもアメリカンなマッスルカーのイメージだからなのか、カーアクション映画には欠かせない存在のようだ。
●解説●
『ドライヴ』の監督ニコラス・ウィンディング・レフンはデンマーク出身。同国のスター、マッツ・ミケルセンを主人公にしたバイオレントなサスペンス映画『プッシャー』トリロジー(96~05)で注目され、イギリスで『ブロンソン』(08)を発表。本作でハリウッドデビューを飾った。
主演のライアン・ゴズリングは『ハーフネルソン』(06)、『ラ・ラ・ランド』(16)でアカデミー主演男優賞にノミネートされ、演技派として知られる役者。
彼が愛するようになる母親を演じるキャリー・マリガンも『17歳の肖像』(09)、『プロミシング・ヤング・ウーマン』でアカデミー主演男優賞にノミネートされた英国の演技派。
整備工場のボスを演じたブライアン・クラクストンも演技派で、闇社会の男を演じたアルバート・ブルックスは本作でさまざまな賞にノミネートされている。実は役者は演技派ばかりという贅沢さだったりもするのだ。
レフン監督は、「脚本も適当で、現場でどんどん変えて行くから、どんな映画になるのか、自分でも想像がつかない」と言っているが、少なくとも『ドライヴ』には計算された美しさがある。
レフン自身は車に興味がなく、運転免許ももっていない(8回試験を受けて8回落ちた説あり)ので、車パートはかなりライアン・ゴズリングの意見が取り入れられたようだ。ゴズリングもほとんどのドライビングシーンを自分でこなしている。
* * *
『ドライヴ』
原作:ジェイムズ・サリス(ハヤカワ文庫刊)
Blu-ray&DVD発売中
発売元:バップ
(C)2011 Drive Film Holdings, LLC. All rights reserved
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