2018年6月、15代目クラウンの発表とともに、クラウンマジェスタの名前が消えた。1991年にセルシオとクラウンの間に位置する車種として登場し、27年間愛されたクルマだ。
セルシオがレクサスLSに移行して以降、特殊な位置づけのセンチュリーを除くトヨタラインナップの頂上を担ったマジェスタは、なぜ廃止されたのか。トヨタディーラーマン時代の経験も踏まえて、販売の目線から、筆者がその理由を考えていく。
え? もう20年?? マジか… 20世紀最後のクルマvs.21世紀最新のクルマをガチ比較
文/佐々木亘 写真/TOYOTA
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晩年に失われたマジェスタの「堂々とした姿」
初代(S140型)クラウンマジェスタ(販売期間:1991年~1995年/全長4900×全幅1800×全高1420mm)
マジェスタの原型は、8代目クラウンまで遡る。1989年8月、セルシオに先駆けてV型8気筒4.0Lエンジンを搭載したクラウン(4000ロイヤルサルーンG)が登場。1991年に9代目クラウンへモデルチェンジをする際、このグレードが独立し、「マジェスタ」が登場する。
2006年にセルシオがドロップした後は、トヨタの最上級ドライバーズカーとして、その役割を継いだ。その後、マジェスタに大きな変革が起きたのは2013年、マジェスタとしては6代目、クラウンが14代目になった時だ。
クラウンのロイヤル・アスリートシリーズと同格に、マジェスタが並ぶこととなり、独立車種として最上級の地位をなくすことになる。トヨタ初や日本初といった、先進性を感じる独自の装備もなくなり、単にクラウンのホイールベースを75mm延長しただけのクルマになってしまった。
格下げされたマジェスタは、行き場を失い、15代目クラウンの登場とともに、その幕を下ろす。最終型からは、マジェスタの語源であるMAJESTIC(威厳のある、堂々とした)は感じられなかった。
マジェスタ廃止はレクサスへの配慮? 高級車を奪われたトヨタ販売店
6代目(S210型)クラウンマジェスタ(販売期間:2013年~2018年/全長4970×全幅1800×全高1460mm)
2013年頃から、販売店ではマジェスタがなくなるのではないかと、不安の声が広がっていた。特に、トヨタ店の顔ともいうべきマジェスタが、クラウンと同一化することを危惧していたわけだ。
「またレクサスへの贔屓が始まったか」
2006年にセルシオショックを経験しているトヨタ販売店の中には、そう考える者もいたのではないだろうか。
トヨタ店とレクサス販売店を、同系列で持ち合わせる販社はまだいいが、レクサス店を持たないトヨタ店販社は、マジェスタオーナーの流出をどう止めるか、頭を悩ませた。
筆者は2012年にトヨタ店、2013年からは系列のレクサス店で営業マンをしていた。トヨタ店在籍時は、マジェスタのオーナーから「レクサス」というワードを、ほとんど聞くことはなかったが、レクサスに着任後、トヨタ店スタッフからマジェスタオーナーを紹介されることが増え始める。
6代目から「独立車種」ではなくなったことにより、マジェスタからレクサスへ乗り換えるオーナーが続出した
特に、3代目(S170型)と4代目(S180型)のマジェスタオーナーが、LSやGSへ乗り換えることが多かった。6代目(S210型)マジェスタが独立車種ではなくなったことを受け、マジェスタへの乗り換えを拒むオーナーが増えた形だ。
筆者の体感では、マジェスタからレクサスへの買い替えは、相当数にのぼる。格式が高く、特別な存在であったマジェスタを失ったトヨタ店スタッフの苦悩は、大きなものだっただろう。
セルシオ、マジェスタとフラッグシップ2度にわたりなくしたトヨタ。そしてクラウンの廃止も噂される昨今、トヨタのフラッグシップはどこへ向かうのだろうか。
役員車はアルファードへシフト? マジェスタ廃止と「トヨタ高級車」の今後
6代目では後席を広く設定し、ショーファーカーとしての地位を確立しようとした。しかしセダン需要の下落により、2018年にクラウンに統合され、マジェスタは廃止になった
最終型では、後席の広いショーファーカーとしての地位を確立しにいったマジェスタだが、マジェスタの存在意義はショーファードリブンだったのだろうか。
一昔前は、会社社長や役員、政治家などが乗るクルマは、決まって黒塗りのセダンだった。後席の広いLSのロングボディや、マジェスタには多くの需要が集まる。
しかし、現在の会社社長や政治家が乗るクルマと言えば、アルファード/ヴェルファイアに代表される高級ミニバンだ。アルファード/ヴェルファイアに設定された「エグゼクティブラウンジ」は、社用車として人気が高い。
トヨタの社長である豊田章男氏も、社用車のひとつとしてヴェルファイアを使っていたと聞く。
アルファード「Executive Lounge」。役員車としての需要は、高級ミニバンへと移行してきている
現在、ショーファーカーがミニバンに移行し、後席が広いセダンの需要も極端に落ちた。結果としてマジェスタは、クラウンと統合し廃止となる。しかし、マジェスタの存在意義は、違うところにあったのではないかと筆者は考える。
マジェスタは、トヨタの最新と最高技術を搭載し続けた。V8エンジン、ヘッドアップディスプレイ、エレクトロマルチビジョン、前側方プリクラッシュセーフティシステムなどは、すべてマジェスタから始まった装備だ。
マジェスタに乗れば、その時代のトヨタの、もっと大きく言えば日本の最新技術が詰まったクルマに乗れる。マジェスタを選んだオーナーたちは、最新と最高に乗れる歓びを感じていたのではなかろうか。
マジェスタが守ってきた最新=最高級を信じるオーナーたちはどこへ向かえばいいのだろう。現在のトヨタラインナップの中で見ると「MIRAI」がその役割を果たしてくれそうだが、トヨタからの明確なアナウンスは今のところない。
「最新技術は最高級車から」という風潮がなくなり、コンパクトやエントリーモデルにも惜しみなく、最新技術を盛り込むようになってきた。マジェスタの根本である、最高や最上級という価値観が分かりにくくなったようにも思う。
新たな価値観がクルマに対して求められている今、マジェスタの廃止は、トヨタが新たな方向へ舵を切った現れなのではなかろうか。トヨタがクルマの新たな価値観に対して、どのような提案をしてくるのか、今後の動きに注目していきたい。
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一番でなくなった時点で輝きは失われてしまうのは世の常です。