排出量ゼロの車両を増やす
「どの業界においても、これまでで最も注目すべき介入の1つだ」
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今年初めに英国政府が導入したゼロ・エミッション車(ZEV)義務化について、英国自動車製造販売者協会(日本の自工会に相当)のマイク・ホーズ会長はこう述べた。
ZEV義務化(ZEV mandate)は英国内で新車を販売している自動車メーカーを対象に、販売台数の一定割合を排気ガスを出さないZEVとすることを法律で義務付けるものだ。不適合車の販売が上限を超えた場合、1台につき1万5000ポンド(約300万円)の罰金を課す。
英国で販売されるすべての新車に影響を及ぼすものであり、当然ながら日本のメーカーも対象となる。
2024年のZEV販売比率は22%と定められ、この比率は少なくとも2030年まで毎年上昇していく。
北極星となっているのは、2050年までに炭素排出量をネットゼロにするという英国の法的コミットメントである。そこから逆算して、ゼロ・エミッションでない新車の販売禁止は2035年に設定されている。
「(大気中に排出される)炭素の大部分は道路輸送によるものだ。2035年から2050年までの15年間で、ほとんどの “古い” 自動車は道路から消える」とホーズ会長は言う。
そのため、英国政府は2050年のネットゼロ達成に向けて自動車分野に最も重点を置いており、単に電気自動車(EV)を奨励するだけでなく、ZEV以外のクルマの販売を禁止するという思い切ったアプローチをとった。
2021年には新車EV購入に対する優遇措置を廃止したが、通勤や出張で使われる社用車(カンパニーカー)ユーザーには減税措置が残っている。今のところ、新車EVには自動車税(VED)がかからないが、来年度からは変更される見込みだ。
ZEV義務化は気候変動法(Climate Change Act)の中に位置づけられ、基本的な内容は米カリフォルニア州の同等の制度をベースとしている。しかし、主な違いとして、カリフォルニア州の制度は業界や市場動向に応じて何度も調整されていること、プラグインハイブリッド車(PHEV)を認めていること、インセンティブがあることが挙げられる。
英国の法律では、自動車メーカーに対して毎年ZEVの販売比率を高め、2030年には80%とすることを義務付けている。ZEVの定義は、車両からのCO2排出がゼロで、1回の充電で160km以上の航続距離(欧州WLTPサイクル)を持つものとされる。8年または16万kmのバッテリー保証が必要で、それまでにバッテリー容量が70%を下回った場合、交換されなければならない。
2035年までの年間目標
ZEVの販売比率は、2024年に22%、2025年に28%、2026年に33%、2027年に38%、2028年に52%、2029年に66%、2030年に80%と定められている。バンなどの小型商用車(LCV)についても同様の目標があり、2024年に10%からスタートし、2030年には70%となる。
しかし、2030年以降は目安に過ぎない。2031年に84%、2032年に88%、2033年に92%、2034年に96%、2035年に100%となっている。
また現段階では、2035年以降のエンジン車の新車販売を禁止する法律はない。2030年までに新車販売の80%をZEVにすることを義務づける法律があるだけだ。
以前の英国の法律では、メーカーはCO2排出量の企業平均目標を達成しなければならなかった。これがZEV義務化に組み込まれ、CO2に関する欧州連合の法律は廃止された。
少し複雑になるが、メーカーはZEV販売比率やCO2排出量を「プール」したり、「貯金」や「借金」したりすることができる。
まず簡単なところから説明すると、例えばフォルクスワーゲン・グループやステランティスといったグループ企業は、傘下ブランドでZEV比率とCO2排出量をプールすることができる。
グループであろうと、単独であろうと、メーカーは貯金(bank)と借金(borrow)ができる。貯金は、ZEV販売台数の超過分を文字通り蓄え、翌年の落ち込みに備えることができる。借金はその逆で、不足分を翌年から前借りすることができる。
ただし、借金には上限があり、2024年はZEV比率22%のうち90%までしか借りられない。2025年は50%まで、2026年は25%までとなっている。また、借り入れた分には3.5%の利子がつくため、翌年以降の目標達成は難しくなっていくばかりだ。
どのメーカーも、英国で販売する新車のZEV比率を公表していない。平均としては18~20%と推測されるが、あるメーカーは8%程度と考えられる。
他社とのEV比率・排出枠取引も可能
また、これも複雑な仕組みだが、ZEV比率とCO2排出量を「取引」することができる。例えばZEVで目標達成した場合、その超過分をクレジットとしてCO2の未達分を賄えるのだ。
CO2クレジットを利用してZEV不足分に賄うことは、レートの違いから経済的なメリットが少ないとされている。また、賄える上限は2024年に65%、2025年に45%、2026年に25%となっている。
借り入れや取引を行ってもZEV比率を達成できない場合は、メーカーに1台あたり1万5000ポンド(約300万円)の罰金が課される。この金額は、ZEVとエンジン車の「コスト差」と、過剰なCO2排出量に対する罰金に基づいている。
注目すべきポイントは、メーカーが他社から超過分のクレジットを購入できるということだ。例えば、JLR(ジャガー・ランドローバー)はクレジットを購入すると公言している。一方で、BYDやテスラなどは良い売り手となるだろう。クレジットの相場は不明だが、罰金額を超えることはないはずだ。
温室効果ガスの排出枠を国や企業が売買する排出権取引のように、こうした罰金回避のための取引は自動車業界に限ったものではない。
英国での年間販売台数が2500台未満のメーカーはZEV義務化から免除され、1000台未満のメーカーはCO2規制からも免除される。
抜け穴はない。ある関係筋は、この法律を「まるで自動車メーカーが書いたかのような防水性能(水も漏らさぬ内容)だ」と評している。
しかし、この法律には2026年に一度見直すという規定があり、その際には目標を変更することができる。政権交代によって計画が頓挫する可能性もあるが、2050年の北極星は動かないだろう。法律の廃止は現実的ではない。
消費者への影響は?
EVを購入予定の消費者にとっては、この法律はおおむねポジティブなものだ。一部のメーカーはEVの販売台数を伸ばすため、お得なリースプランなどを提供している。
例えばホンダは以前、電動クロスオーバー「e:Ny1」のPCP(個人向けローン)契約において8000ポンド(約160万円)の実質割引プランを提供していた。定価はエンジン車より高いが、これにより月々の支払額はHR-V(日本名:ヴェゼル)と同等になった。その後、e:Ny1の定価を5000ポンド(約100万円)引き下げ、現在3000ポンド(約60万円)の割引を提供している。
また本稿執筆時点では、ヴォグゾール・モッカ・エレクトリックは、2106.36ポンド(約42万円)の初期費用と年間8000kmの走行距離制限、契約期間は2年間で、月額175.53ポンド(約3万5000円)からリースすることができる。
もしEVに乗り換えるつもりがないのなら、ZEV義務化は悪いニュースになるかもしれない。メーカーは目標達成のためにエンジン車の販売を制限する可能性もある。
欧州フォードのゼネラルマネージャーであるマーティン・サンダー氏は最近、英フィナンシャル・タイムズ紙主催の自動車カンファレンス「Future of the Car」で、「需要に反してEVを市場に押し込むことはできない」と語った。そして、「唯一の選択肢は、英国への(エンジン)車両の出荷を減らし、それの車両を別の場所で販売することだ」とした。
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