国産メーカーの間で飛び交う「ゴルフ・ショック」というワード
フォルクスワーゲンから第8世代となる最新型「ゴルフVIII」が登場した。正式名称ではないが、業界内では世代番号を付けて呼称されることが近年多くなった。
国産コンパクトカー4台が宣戦布告! 世界のベンチマークVWゴルフを超えたか徹底分析
新型ゴルフが登場する度に、国産メーカー各社の中では「ゴルフ・ショック」というワードが飛び交うという。新型ゴルフの出来の良さに競合モデルを生産・販売する国産メーカーは驚愕してきた歴史があるのだ。
一番最初に「ゴルフ・ショック」が叫ばれたのは2004年に第5世代「ゴルフV」が登場した時だった。それまでフォルクスワーゲン・ゴルフと同じクラスの国産コンパクトカーで2もしくは4ドアハッチバックのFF(前輪駆動モデル)を産出しているメーカーは、自社の新型車を登場させると、お決まりのように「フォルクスワーゲン・ゴルフを超えた」と形容してきた歴史がある。だが、ゴルフVのあまりの完成度の高さに競合メーカー各社は自社製品の見直しを図らずを得なくなるほどの衝撃を受けたという。
実際、ゴルフVの出来映えは素晴らしく、2004~2005年度日本カー・オブ・ザ・イヤーのベスト・インポート・カーに選出されている。
だが、フォルクスワーゲン・ゴルフが素晴らしかったのはVだけの話ではない。
筆者が初めて運転したドイツ車が1974年に登場した第1世代のゴルフIだったのだが、その時の感動は忘れられない。
それまで経験していた国産車とは明らかに次元の異なるガッチリとしたボディ剛性。FFなのにアンダーステアが弱く、ライントレース性が正確で限界も高い。ドアの開閉に伴う重厚さ、質感の高さからも「これがドイツ車か」と思わせられる精緻さが感じられた。自然吸気エンジンはトルクフルで、エンジン振動の伝わり方が独特。ステアリングを通して伝わってくるエンジンのバイブレーションがエンジンの頑張り具合をドライバーに伝えてくるのだが、高速になるほどに振動は少なくなり、余裕を感じさせてくれるのだった。
「ゴルフを超えた」の謳い文句で登場する国産車もあったが……
その後、1985年にゴルフIをベースに開催されていたワンメイクレース「VWゴルフ・ポカール・カップ」へスポット参戦し、優勝もした。FF車でありながらレースカーとして成立する高い次元のシャシー性能に感動させられたものだ。同年は三菱自動車がFFコンパクトスポーツハッチバックの「ミラージュ・ターボ」を使用して「ミラージュカップ」を初開催。その開幕戦に出場して優勝していた僕は、レース仕様車ながらミラージュとゴルフの質感の違いに気付かされたのだ。
1980年にはマツダがファミリアをFFコンパクトスポーツハッチバックとして登場させて第一回日本カー・オブ・ザ・イヤーに輝いていた。当時の評価は「ゴルフ(I)を超えた!」というものが多く、僕もそのハンドリングに魅了されて人生初の新車としてFF323ファミリアを購入したほどだ。
しかし、ゴルフIのレース仕様であるカップカーから感じ取った剛性の高さとは比較にならなかった。1986年にゴルフIIへ進化すると、その差はさらに拡大したように感じた。ゴルフIIではポカールカップにシリーズでフル参戦し、全戦をポールトゥウィンで優勝してシリーズタイトルを獲得した。そのレースを通じて安定した性能に驚かされたのだ。
富士スピードウェイの長いストレートでスリップストリームを使いバトル。毎周順位が入れ替わる。スリップを使えば確実に前車に追いつき、横並びとなるが、横に並ぶと空気抵抗が揃って最高速が一緒になる。並びかけたライバルと顔を見合わせながら1コーナーへのブレーキ競争をしかけるのが唯一のオーバーテイク場面となった。生産車ベースでは性能の個体差が大きいのが当たり前の国産車の常識が、大きく否定されているのを知ったのだ。
さらに、車体剛性の格段の違いも眼の当たりにした。同レースに参加していた先輩ドライバーが、直線の最高速域で横並び状態のまま他車と接触。コースを横切りコンクリートウォールを飛び越え、イン側の空き地で前転を繰り返しながら茂みの中へ消えていく大クラッシュを引き起こしてしまったのだ。
その一部始終を目撃した僕は「先輩は逝ってしまった……」と確信。翌周には赤旗でレースが中断されるだろうと覚悟していた。
しかし、レースは続行。レース後、先輩は怪我もなく「ゴルフIIは凄い! あの大クラッシュでもひっくり返ったクルマから普通にドアを開けて降りて出てこれたよ」とゴルフIIのボディ剛性の高さに救われたと感嘆していたのだ。おそらく国産車だったら車体がまっぷたつにちぎれていても不思議ではないほどの激しいクラッシュだったのだ。
その後も「ゴルフを超えた」とアピールして登場する国産車は多くあったが、本当にそう思える国産車に出会うことはなかった。
そしてゴルフVが登場する。その質感、走り、性能は大衆車とはいえず、プレミアムカーのレベルに達していたのだ。
ゴルフV以降「ゴルフを超えた」とアピールする国産コンパクトFF車は無くなったと言ってもいい。そして、ゴルフVショックはゴルフ自身にとっても降り掛かることになる。続くゴルフVI、ゴルフVIIにもゴルフVが与えたようなインパクトが期待されたが、僕にはゴルフVから後退してしまったような走りの感覚しか伝わってこなかった。
そして今、ゴルフVIIIが登場したわけだ。ゴルフVIIIの出来映えを見て、改めて「ゴルフ・ショック」を叫ぶ国産メーカーがいるだろうか。少なくとも僕に「ショック」は起こらなかったのだが、今後紹介されるであろう多くのリポートからゴルフVIIIの実力を読み解いてみてもらいたい。
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