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EV一辺倒に早くも限界が!? 欧州の「2035年以降内燃機関容認」で電動化戦略は変化するのか

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EV一辺倒に早くも限界が!? 欧州の「2035年以降内燃機関容認」で電動化戦略は変化するのか

 欧州を中心に世界の自動車業界の電動化への流れはもはや止められない奔流となっていたところ、欧州委員会から「2035年以降も合成燃料の使用を前提に内燃機関の使用も認める」との表明が! 風雲急のEV事情、これからどうなる!?

※本稿は2023年4月のものです
文/池田直渡、ベストカー編集部、写真/ベストカー編集部、トヨタ、日産、ホンダ、SUBARU、三菱自動車、マツダ、スズキ、メルセデスベンツ、BMW、フォルクスワーゲン、プジョー
初出:『ベストカー』2023年5月10日号

EV一辺倒に早くも限界が!? 欧州の「2035年以降内燃機関容認」で電動化戦略は変化するのか

■EV一辺倒な欧州が内燃機関を緩和!?

EV一辺倒な欧州委員会が方針を一転! 驚きの声と共に「やっぱりね」という反応も……

 地球温暖化を食い止めるためのCO2排出規制はもちろん大切だ。化石燃料を燃焼させる内燃機関はCO2を排出する。これを削減する技術開発は必須だし、メーカーごとのCO2排出総量を厳しく規制することも必要だ。

 このひとつの手段として2021年7月、欧州委員会は2035年までにエンジン車の新車販売を禁止する法案を提案。これが最終的に採択される……という流れであった。

 これに敏感に反応したのが欧州の自動車メーカーだ。次項に詳しいが、ベンツはいち早く「2030年に完全電動化」を表明し、ボルボやジャガーも2025~2030年に完全電動化とぶち上げた。

 ところが2023年3月28日、欧州委員会は「2035年以降も合成燃料の使用を前提に、内燃機関の使用も認める」方向に一転した。これがどんな影響を与えるのか? EV、どうする?

■各自動車メーカーの電動化ロードマップ

●トヨタ

 2030年にBEV、HEVなどの電動車の販売台数を約800万台とする。2050年には世界で販売する新車の走行時のCO2排出量を、2010年対比9割削減する目標。2035年までに世界の自社工場でのCO2排出を実質ゼロとする。

●日産自動車

 2030年代早期に世界の主要市場で販売するすべての新型車をEV、HEVなどの電動車とする。2030年度までに19車種のEVを含む27車種の電動車を投入。2026年度までの電動車比率は欧州:98%、日本:58%、中国:35%とする。

●ホンダ

 2040年までに世界で販売するすべての四輪車をCO2を排出しないBEV、FCVとする方針を打ち出す。2030年→2035年にかけて電動化率は日本:20%→80%、中国/米国では40%→80%と段階的に高め、2040年に100%を達成する。

●マツダ

 2030年には生産するすべての車両に電動化技術を搭載して、EV比率25~40%を想定する。将来的なカーボンニュートラル燃料として藻類を活用したバイオ燃料、再エネ由来の水素を使用したe-Fuel、水素燃料の可能性を探る。

●三菱自動車

 2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、自社工場において太陽光発電と使用済みバッテリーを利用した蓄電システムなどを導入。2030年までに販売の約50%を電動車として、事業活動を含めた自社でのCO2排出量を40%削減。

●スバル

 2030年までに全世界での新車販売の40%以上をBEV及びHEVとする。また、2030年代前半には生産、販売するすべての車両に電動化技術を搭載する。2050年にはWtoWで走行時のCO2排出量を対2010年比90%以上削減。

●ダイハツ

 当初2050年を目標としていた「生産カーボンニュートラル」の実現を2035年に前倒し。2030年までに国内で販売する新車のすべてをHEVやBEVなどの電動車両とする。ZEVやカーボンニュートラル燃料車の新車販売比率拡大を目指す。

●スズキ

 国内では今年度中に軽商用EVを投入。2030年までに6車種のBEV投入。軽、小型車向けに新型HEVシステムを開発。欧州では2030年度までに6車種のBEVを導入。インドでは2024年度に新型BEVを投入し、2030年度までに6車種とする。

●メルセデス-ベンツ

 2030年までにすべての新車販売を完全電動化(BEV)。これに向けて2025年までにすべてのモデルでBEVを選択可能とし、2025年までにPHEV、BEVの新車販売50%を達成。2030年には状況が許すすべての市場で100%BEVを達成。

●BMW

 今年までに25車の電動車を投入。さらに2030年までに世界で販売する新車の50%をEVとする。2030年までに材料調達から製造、リサイクルまでのライフサイクルでCO2排出量を対2019年比で1/3に削減する目標を掲げる。

●フォルクスワーゲン

 2030年までに自動車1台当たりのCO2排出量を対2018年比で30%削減する。2026年には販売台数に占めるBEVの比率を25%まで高め、その後2030年までにEVシェアを50%とし、2040年までにEVシェアを100%とする。

●ジャガー

 2025年までにラインナップするジャガーブランドすべてをフル電動化する。

●ボルボ

 2030年までに完全な電気自動車メーカーとなる。HEVを含む内燃機関搭載車を全世界で廃止する。

●プジョー

 2025年までに欧州で販売する新車を100%PHEV、BEVとする。

■EV戦略に変化アリ!!

日本メーカーはもちろん、各国の自動車メーカーの今後の方針は非常に興味深いところだ

 冒頭でも触れたが、欧州において「2035年以降、内燃機関車の新車販売が禁止される」という流れを受けて、各自動車メーカーは電動化、特に純EV(BEV)への動きを加速させた。2021年7月の段階で、ベンツは2030年にすべての新車販売をBEVとすることを表明していた。

 日本メーカーも全体的には「電動化」に舵を切っているのは間違いないのだが、メーカー間での温度差は少なくない。「電動化」にはハイブリッド車やPHEVなども含まれ、これらには内燃機関が搭載される。

 日本メーカーでEV化へのシフトに積極的なのがホンダで、2021年4月、現在の三部社長が就任時の会見で「2040年に全世界で販売する四輪車をEVとFCVにする」と脱エンジンを打ち出した。

 日産は比較的早くから電動化に動いているが、ホンダほど急進的ではない。トヨタは多角的なパワートレーンの可能性を主張しており、完全EVシフトには否定的なスタンスを貫く。

 そこに今回の欧州での方向転換、各メーカーの動向に変化が出るのだろうか?

■池田直渡氏の視点

欧州メーカーは「電動化」をアピールしていたが、それはある意味社会に向けたアピールで、実情は「わかっていた」のだ

 EUが2035年時点での内燃機関の存続を決めた。ただし、「e-Fuel(水素から作る合成燃料)を使用する場合に限る」と条件付きである。

 さて、その心は? おそらくそれは、既定路線どおりということだろう。

 現在のグローバル新車販売台数はおよそ8000万台。部品不足以前にはおおむね9000万台半ばだった。対して2022年、過去最高を記録したBEVの販売台数は780万台。

 BEV増産のネックになっているのはバッテリー原材料だが、レアアースを採掘する鉱山開発には10~20年かかる。2035年までの10年少々で鉱物資源の生産量を現在の10倍にするのはほぼ不可能と言っていいだろう。

 新車の100%をBEVにするのは茨の道なのである。仮にBEVの生産台数頭打ちに目を瞑って、内燃機関禁止を強行したら、クルマがまったく足りない。BEVの増産は、頑張って3000万台。奇跡が起きて5000万台が関の山。となれば全世界で見れば大減産を余儀なくされることになる。

 部品不足で1500万台ほどダウンしただけで、異常な長納期に見舞われている現状からすれば、それが世界に与えるインパクトは考えるだけで恐ろしい。納期10年待ちの世界がやってくる恐れがある。

 そうなれば、世界の自動車メーカーの半数が破綻すると筆者は考えている。それは世界恐慌の比ではない壊滅的な打撃となるだろう。どう考えても、各国がそれを受け入れられるはずはない。世界の需要を満たし、経済を回すためにも、2035年の内燃機関完全撤廃はあり得ないのだ。

■最終目標はカーボンニュートラルなのだ

欧州が表明したe-Fuelはもちろん、あらゆるカーボンニュートラル燃料を導入していくことになると池田直渡氏は予測する

 案の定、今回内燃機関の温存が発表された。しかし、これもまだまだ伏線である。バッテリーと同じく、e-Fuelもまた2035年までに石油を完全に置き換えるほどの量を生産できないのは確実だ。そこも何か対策が必要になるだろう。

 BEVにシフトできる台数はカウントから外していいがそれだけではまだ足りない。おそらくe-Fuelだけでなく、バイオ燃料もバイオエタノールも含め、あらゆるカーボンニュートラル燃料(CNF)を導入して、それらの総力戦で不足分をカバーすることになるはずだ。

 そして、おそらく、ガソリンに10~20%のCNFを混ぜて、段階的にカーボンニュートラル(CN)に近づけるというストーリーになるだろう。「新車だけでなく保有車のCN化も進められる」と言い出すだろう。

 そもそも2035年の論拠は、2050年の完全なCN化達成のためには、クルマの平均保有期間に相当する15年前には新車の100%CN化が必要だからだ。

 保有車も同時に脱炭素化できるのであれば、2035年にゴールを設定する必要がなくなる。2050年までに混入比率を100%にすればいい。時間が稼げるのだ。

 自動車メーカー各社はそんなことはとっくに見通していたが、環境団体からの攻撃をかわすために、BEVシフトをアナウンスしてきたに過ぎない。

 もちろん彼らとて環境を無視していいとは思っていないが、環境技術を開発し普及させていくにはそれなりの時間が必要なことは、やっている当人は一番よくわかっていた。スケジュールに無理がある。その端的な表われこそが、今回の内燃機関存続の決定である。

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みんなのコメント

238件
  • トヨタもずっと言ってる。敵は炭素であってエンジンではない。そして答えはBEVだけではない。
  • 実は序盤からEV一辺倒って言ってたのはメディアだけ。
    枕詞に理想は完全EVって言ってたのをなくして報道して煽ってた。他のメーカーはエンジンは長く残るってずっと言ってる。段階としてPHEVやハイブリットが過渡期ってさ。
    簡単に煽動されるミーハーが多すぎる。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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