「本物のSUV好き」と「メルセデス探求家」の本音トーク
九島辰也さん(以下九島):ボクは2009年頃に5リッターのV8を積んだ2002年式のGクラスに乗っていたのですが、そもそもどうしてGクラスの、それもディーゼルを選んだのですか? いまやメルセデスには本当にたくさんのモデルがあるわけで、メルセデスに造詣が深いと言われている渡辺さんがその中からあえてG350dを選んだ理由がとても気になるわけです。
渡辺慎太郎さん(以下渡辺):実を言うと、最初はGクラスを探していたわけではないんです。「OM656型」と呼ばれるディーゼルエンジンが欲しくて(笑)。
九島:エンジンありきだった?
渡辺:そうです。OM656の直列6気筒ディーゼルターボは、メルセデスのエンジンの中でも珠玉のユニットだと個人的には思っていて、OM656を積んでいるなら車種はなんでもよかったんです。
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九島:Gクラスには以前から興味があったのですか?
渡辺:もうひとつ言うと、SUVは基本的には嫌いでして(笑)。厳密には嫌いというよりも、アウトドアのアクティビティをほとんどやらない自分のライフスタイルには必要ないと考えていたんです。一方で、いまだに世間ではSUVブームが続いていて、みんながそんなに惹かれる理由を知るには、いつか実際に自分もSUVのオーナーになってみないといけないとは思っていました。一応、こういう仕事を生業にもしているわけですし(笑)。そしたらたまたま、OM656を積んだG350dの中古車に遭遇して、2019年式を1年落ちで2020年に購入、今年2回目の車検を迎えます。
九島:GLEなどにもOM656を搭載するモデルがありますが、Gクラスでよかったですか?
渡辺:もし自分がSUVを買うことになったらどれを選ぶかについてはずっと前から考えていました。で、どうせ買うなら「なんちゃってSUV」はイヤで、そうなるといわゆる老舗はジープかランドローバーかGクラス。一期一会で大好きなエンジンを積んだGクラスに巡り会えたわけですから、自分にとっては結果的にベストな選択でした。ちなみに自分のGクラスのボディカラーはエメラルドグリーンなんですが、白黒シルバーでなかったこともこのクルマを選んだ理由のひとつです。とくに都内は、白黒シルバーのGクラスだらけなので。
九島:ボクも、本物のSUVとはデフロックが付いていて、さらにいえばフロントデフもロックできるモデルだと考えています。Gクラスを所有したのも、センター/リア/フロントの順にデフロックできるからでした。さて、約4年Gクラスに乗ってみた正直な感想が聞きたいですね。
渡辺:大満足です(笑)。イヤなところもほとんどありません。
九島:前回のモデルチェンジでずいぶんよくなったそうですね。
渡辺:そうなんです。以前からGクラスは気になっていましたが、オンロードにおける乗り心地など快適性にはちょっと不満で、長距離移動にはツラいかなと思っていました。ところが2018年に発表されたW463型で、快適性が飛躍的な向上を遂げたんです。乗り心地もよくなったし装備も充実した。むしろ長距離移動がめちゃくちゃ楽になりました。
九島:当時の国際試乗会でいろいろと取材されたんですよね?
渡辺:はい、チーフエンジニアとじっくり話をすることができました。彼曰く、開発当初は一部のパーツを新しくするくらいのつもりだったものの、新しいパーツがどんどん開発されて、じゃああれもこれもと取り替えたら、結局先代からの流用部品はわずか数点だけになってしまい、ほとんどすべてを刷新するに至ったそうです。だから内容的にはフルモデルチェンジ級なのに、車両の開発コードがW463のままだったのは、はじめはそういうつもりではなかったからだそうです。
九島:最新のモデルはW465と呼ぶらしいですが、W464はどこへ行っちゃったんですか?(笑)
渡辺:メルセデスに確認したところ、W464はGクラスをベースにした特装車両専用の開発コードにしたそうです。
最新Gクラスも現行メルセデスの中で、一番色濃く「昔のメルセデスらしさ」が残っている
九島:Gクラスをベースにした特装車はたくさんありますからね。渡辺さんは、最新のW465もすでに試乗しているんでしたっけ?
渡辺:はい、今年の5月の国際試乗会でG450d、AMGのG63、そしてGクラス史上初となる電気自動車のG580 with EQテクノロジーの3モデルに試乗しました。
九島:最新型はどうでしたか?
渡辺:開発コードは変わりましたけど、改良点は基本的に機能面のアップデートが中心でした。Gクラスはいろいろ遅れていたんです。いまだにタッチ式ディスプレイではないとか、ディストロニック(=ADAS)も世代遅れとか。そのあたりのほとんどは最新バージョンになっています。世代遅れといえばもうひとつ。Gクラスはメルセデスのラインアップの中で唯一、パワートレーンが電動化されていなかったんです。それが今回、ディーゼルもAMGもマイルドHVのISG仕様となり、BEVのG580と合わせてすべての仕様の電動化が完了しました。
九島:電動化になって乗り味は変わりましたか?
渡辺:G580以外、大きくは変わらないです。モーターのアシストが加わって発進時や追い越し時のレスポンスがよくなった程度でしょうか。あとはやっぱり大きいのは燃費の向上ですね。おそらく、感覚的に約20%はよくなっていると思います。
九島:見た目にもほとんど変わっていないようですね。
渡辺:Aピラーに被さっている黒いスポイラーの形状変更などにより空力は改善されました。フロントウインドウが立っていて四角いGクラスは、空気抵抗をモロに受けるボディ形状なんですが、今回の改良で風切り音が低減されたりしています。これらの改良は少なからず、燃費の向上にも寄与しているでしょう。
九島:Gクラスはその形やラダーフレームなど、初代から変わらない部分が多いですが、それはNATOとの契約などが背景にあったんですよね
渡辺:おっしゃる通りです。Gクラスは長い間、NATOとの契約があって勝手に仕様を大きく変更することができなかったんです。パーツの供給に支障を来す恐れがあったので。でもそのせいで、結果としてあの形がアイコンとして世界中で認知されるようになり、今度は変えたくても市場がそれを許さず、変えられなくなってしまった。以来、Gクラスの開発チームは、「変わったようには見えない刷新」というのをコンセプトにしてきました。そこには並々ならぬこだわりが見てとれます。たとえば、ドアハンドルは前回のモデルチェンジで先代からそのまま流用した部品のひとつで、だからいまどきキーレスが付いていなかったんです。でも今回の新型はついにキーレス仕様となりました。ドアハンドルの形状はそのままで、センサーを仕込むことにようやく成功したそうです。ドアの閉まり音や、ガッシャーンと盛大に鳴り響くオートロックの音も、わざわざチューニングしてそれまでと変わらない音質と音量に調整してあります。
九島:やっぱり開発チームはGクラスに、強いプライドを持っているんですね。
渡辺:ボンネット前端の左右に乗っているウインカーレンズ。あれも本来であれば衝突時の歩行者保護の観点からすれば突起物でNGなんです。でも知恵を絞り、ある程度の負荷がかかると下に落ちるような設計にしてクリアした。BEVにしても、ラダーフレームを使わなければ、もっと航続距離を稼げたはず。それでもそうしなかったのは、彼らのGクラスに対するプライドとリスペクトがあったからでしょう。結果的に、現行のメルセデスのモデルの中では、昔のメルセデスらしさが最も色濃く残るモデルにもなっていると個人的には思います。
【プロフィール】
九島辰也(くしまたつや)/モータージャーナリスト。2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。『Car Ex』副編集長、『American SUV』編集長など、自動車専門誌の他、メンズ誌、機内誌、サーフィンやゴルフメディアで編集長を経験。趣味はクラッシックカーと四駆カスタム。
渡辺慎太郎(わたなべ しんたろう)/1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、自動車雑誌の編集者に。2013年に『カーグラフィック』の編集長に就任。2018年からフリーランスの自動車ジャーナリストとなり現在に至る。英国『The Guild of Motoring Writers』会員、2014-2015日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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みんなのコメント
デフロックを要求してる時点で読むの辞めた。