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幻のルーフベンチレーションを探せ!―― バラードスポーツCR-Xの魅力と知られざる真実

掲載 更新 10
幻のルーフベンチレーションを探せ!―― バラードスポーツCR-Xの魅力と知られざる真実

 「伝説の名車」と呼ばれるクルマがある。時の流れとともに、その真の姿は徐々に曖昧になり、靄(もや)がかかって実像が見えにくくなる。ゆえに伝説は、より伝説と化していく。

 そんな伝説の名車の真実と、現在のありようを明らかにしていくのが、この連載の目的だ。ベテラン自動車評論家の清水草一が、往時の体験を振り返りながら、その魅力を語る。

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文/清水草一
写真/ホンダ

■若者向けなのに高価だった理由とは?

「サイバースポーツ」と呼ばれた2代目CR-Xは、猛烈にスタイリッシュなクルマだったが、今思い返せば、初代であるバラードスポーツCR-Xのほうが、それより上だったかもしれない。初代CR-Xは、サイドの絞り込みの少ない素直なデザインゆえ、飾り気のない、どストレートなカッコよさにあふれていた。

1983年7月からにホンダベルノ店(当時)で販売されたバラードスポーツCR-X。ルーフの後方には「ルーフベンチレーション」と呼ばれる空気穴が見られる

 初代モデルのデザイン上のアイコンは、初期型に設定されていた「ルーフベンチレーション」だ。ホンダのリリースには、『量産乗用車世界初のルーフ・ラム圧ベンチレーションも用意。飛行機のように天井からフレッシュエアが降りそそぎ、快適な換気が可能な設計(1.5iルーフベンチレーション仕様車)』と書かれていた。ルーフ後方に設けられた開閉可能な「フタ」は、どこかラリー車のようで、秘密兵器的でもあり、私を含む当時の青少年の心に深く食い込んだ。

 1.5iを選択するとノーマルルーフは選べず、ルーフベンチレーションか電動アウタースライドサンルーフ仕様のどちらかにするしかなかった。ルーフ自体が非常に短いため、サンルーフはルーフ内に格納できず、電動でルーフがボディ外側後方にスライドする、世界初の方式を採用していた。そちらも十分ユニークだったが、潜望鏡のようなルーフベンチレーションにはかなわなかった……ように思う。

 いったいなぜこんな「フタ」が付けられたのか。当時、初代CR-Xのターゲットは、パーフェクトに若者だった。価格は99万3000円から138万円。いま考えると目玉が飛び出るほど安い。お金のない若者が、オプションのエアコンを付けられなくても、ルーフベンチレーションを開ければ夏も暑さをしのいで快適なドライブができるという、ホンダの親心だったのだ。現代(約40年前ですが)の三角窓である。

■軽量ボディに搭載されたエンジンの変遷

 ところで初代CR-Xは、シビックのホイールベースを短くして、ファストバックに仕立てたクルマだ。海外ではシビックCR-Xの名で販売されていたが、国内ではなぜ「バラード」の名が冠されたのか?

 バラードはシビックの姉妹車に当たるセダンだが、ヘッドライトだけ初代CR-Xと同じセミリトラクタブル方式が採用されていた(CR-Xとともにマイナーチェンジで固定式に変更)。つまりシビックよりもスポーティなイメージだったので、バラードのスポーツモデルのCR-X、という車名に決定したのである。

セミリトラクタブルライトが採用された初代CR-X。3代目シビックの兄弟車であるバラードとの共通点であった

 同車が登場したのは1983年。コンセプトは明確に「FFライトウェイトスポーツ」であり、車両重量はわずかに800kg(1.5L)しかなかった。現代で言えば軽自動車のN-ONE RSよりも軽い。その軽量ボディには、1.5L110馬力のパワーで十分。わずか2200mmしかないホイールベースのおかげで、動きは極めてクイックだった。

 翌1984年、ホンダはCR-Xに1.6LDOHCエンジンを追加した。後にVTECの前身となるZCエンジンで、最高出力は135馬力である。DOHC化でエンジンヘッドが高くなったため、ボンネットにはそれをクリアするための出っ張り(パワーバルジ)が設けられ、それがまた青少年をコーフンさせた。

 このパワーアップに伴い、車両重量は860kgに増加した。後に「CR-X本来のライトウェイトを捨て、パワー競争に走った」という批判も出たが、あの頃の若者は、ひたすらパワーやスペックに飢えていた。初代CR-Xは、当時ターボとともに光り輝く新技術だった「DOHC」を得たことで、マニアックなライトウェイトスポーツから、若者全員が憧れるFFハイパワースポーツへと進化したのである。

 ただ、この時のマイナーチェンジで、ルーフベンチレーションは廃止されてしまった。つまり、わずか1年4か月の命だったのである。理由は「雨漏りの発生」とも言われるが、定かではない。結果的にルーフベンチレーション付きのCR-Xは極めてレアで、個人的には一度も間近で見たことがない。

■現代に味わうあの時代のライトウェイト

 この初代CR-X、実際乗るとどんな感じだったのか。私が自動車メディア界に足を踏み入れたのは1989年。つまり、メディア関係者として新車の初代CR-Xに乗る機会はなかったが、十数年前、旧車として初めて試乗することができた。グレードは最強の1.6Si。もちろん5速MTである。

 久しぶりに見る実物の初代CR-Xは、驚くほど小さかった。しかし存在感は大きい。強いカタマリ感が心に突き刺さる。運転席に乗り込む。いかにもこの時代のホンダらしい質素なインテリアだ。エンジンをかける。いかにもホンダらしい軽いサウンドが響く。発進。パワステはないが、車体が軽いからまったく苦ではない。

 駐車場から一般道へ出て軽く加速すると、車内は昭和の青春の香りでいっぱいになった。卵かけごはんを食べながら、女の子に目を血走らせ、無意味に速く走りたいと渇望し、必死にカッコをつけていた昭和の青春。昭和の青春のFFスポーツはひたすら軽く、一切飾り気がなかった。深く考える必要がなかったあの時代、「軽くすればそれでいい」とばかりに、こんな素直なクルマが生まれていたのか……。

 800kgから860kgへの重量増が、どんなマイナスを生んだのか、私には知る術もない。しかし初めて乗る860kg/135馬力のライトウェイトスポーツは、十分すぎるほどライトウェイトで、パワステのないステアリングフィールは、あまりにも青春感満タンだった。

独特な形状のリアデザインも好評だった初代CR-Xは約4年販売されたが、1987年に2代目CR-Xへフルモデルチェンジする

 バラードスポーツCR-Xは、2代目「CR-X」へと受け継がれたのち、3代目に至って「CR-Xデルソル」にリボーンし、不評のうちにその生涯を終えた。2代目でもVTEC搭載の1.6SiRは、車両重量1tに達していた。つまり、徐々にややこしいクルマになったわけだが、この初代CR-Xがいまだに我々の心から消えないのは、ややこしさゼロ、青春一直線の星飛雄馬だったからだろう。

 初代CR-Xは、すでに極めてレアになっていて、執筆時点での中古車流通台数はわずか1台。2代目で約20台、電動トランストップの3代目デルソルも、1台のみとなっている。

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みんなのコメント

10件
  • 1.6Si持ってる
  • 1,5iノーマルルーフ乗ってました。
    車重790キロ、
    充分な運動性能、エコランすればリッター20キロ、
    良い車でした。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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