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幹部がひらめいて“現場に無茶振り!” ドイツ電撃戦の舞台裏 どう考えても無謀だった空挺作戦、強行した結果は

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幹部がひらめいて“現場に無茶振り!” ドイツ電撃戦の舞台裏 どう考えても無謀だった空挺作戦、強行した結果は

ムッソリーニ救出にも使われたFi156

 1940年5月、ドイツ軍は破竹の勢いでフランスへ進撃していました。いわゆる「電撃戦」と呼ばれた侵攻作戦です。当時のドイツ軍戦車は、スペック上はそれほど高性能ではありませんでしたが、歩兵や砲兵、偵察オートバイ部隊、空挺部隊、さらには空軍との緊密な連携により、連合軍を翻弄していました。「スピードが命」、それがドイツ軍の戦い方でした。

【写真】「電撃戦」をはじめ様々な作戦に使われたFi156

 5月10日、ベルギー南部の主要都市ヌーシャトーを制圧する作戦が始まります。主力は第1、第2装甲師団ですが、グロースドイッチュラント歩兵連隊第3大隊の2個中隊が先行して進路を確保し、ベルギー国境のトーチカ群の背後から圧力をかけるため「ニヴィ作戦」が実行されました。

 この作戦で使われたのが、連絡機Fi156「シュトルヒ」(ドイツ語で「コウノトリ」の意味)による空挺強襲という大胆な構想でした。

 Fi156は、非常に短い距離で離着陸できるSTOL(Short TakeOff and Landing)能力という特異な性能を備え、向かい風の条件下では、離陸時の滑走距離は50m、着陸には20mあれば十分とされています。この能力を活かせば、輸送機が使えない地点にも兵員を空中から投入できるという現代のヘリボーン作戦(ヘリコプターの特性を活かし、地上部隊を目的地に輸送し展開する戦術)にも通じる発想といえるでしょう。このアイデアは、空軍トップのヘルマン・ゲーリング元帥が発案したともいわれています。

 Fi156のユニークな性能は、第二次大戦中に重要な役割を果たしています。最も有名なのが、1943年9月12日に行われた「グラン・サッソ襲撃作戦」です。

 この作戦では、失脚して標高2000mの山脈稜線にあるホテルに幽閉されていたイタリアの独裁者ムッソリーニを、ドイツ軍特殊部隊が救出し、Fi156で空路脱出に成功します。当初計画は、世界最初の量産ヘリコプターFa223「ドラッヘ」(ドイツ語で「竜」の意味)が使われることになっていましたが、移動中に事故を起こして使用不能に。その結果、「コウノトリ」の愛称を持つFi156が「竜」の代役を果たしたのです。

「電撃戦」においては、Fi156は指揮官を乗せて「空飛ぶクルマ」として使われました。スピード最優先で目まぐるしく機動する部隊と変化する戦況の中で、適時適切な指揮を執るため、高級指揮官たちはこの機体で前線を飛び回りました。有名なのはエルヴィン・ロンメル将軍です。

 一方、フランス軍をはじめとする連合軍では、高級指揮官が後方の司令部に籠って、情報伝達は電話や伝令に限られていました。この違いにより、臨機応変に指揮統制できるドイツ軍の方が有利なのは明らかでした。Fi156は、電撃戦の機動力と柔軟性を支える重要な役割を果たした機体でした。

「どう考えても無理な作戦」開始

 このようにFi156はヘリコプターのような使い方もできましたが、あくまで小型の連絡機で、パイロットのほか搭乗できるのは2人です。

「ニヴィ作戦」に動員されたのは2個中隊約400人という兵力でした。その兵員を輸送するためにかき集められたFi156は100機で、そこに400人を分乗させて前線に投入するというのは、明らかに常軌を逸しています。ゲーリング元帥のひらめきが、そのまま現場の作戦になったとされ、実行部隊はその無茶振りに振り回される嫌な予感がするパターンです。

 作戦では、2個中隊がそれぞれ、第2装甲師団の進路にあたる北部の町ニヴィと、第1装甲師団の進路にある南部の町ヴィトリーを制圧し、5月10日中には装甲師団をヌーシャトーに到達させることが目標とされました。

 同日の早朝5時20分、二派に分かれて作戦が開始されます。しかし、Fi156は低速で離陸地点から降着点までの往復に2時間かかり、敵の対空砲火や航法ミス、天候不良によって降着はバラバラに分散してしまい、再集結して行動できたのは14時頃でした。スピードが命をモットーとする電撃戦ではありえないもたつきぶりです。

 北部のニヴィを目指した部隊は、約190人が集結できましたが、降着地点は当初の目標よりかなり離れていました。一方、南部のヴィトリーを目指した部隊は分散しすぎてしまい、指揮官のもとに集まったのはわずか9人という有様。指揮官は後に「コソコソとまるで『追いはぎ』のようだ。敵軍どころか地元警察に逮捕されるのではないか」と述懐しています。

 それでも、部隊は守備についていたベルギー軍の後方を遮断し、孤立させます。しかし、ベルギー軍は立て籠もって抵抗したため、装甲師団の先行オートバイ部隊は前進を阻まれ、抵抗を排除するのに砲兵の支援まで必要になり、結局、師団主力は5月10日中に目標のヌーシャトーに到達できませんでした。

 皮肉なことに、5月10日早朝にベルギー軍司令部はヴィトリーの守備隊に対し、敵軍と接触したら撤退するように命令を出していたのです。しかし、9人のドイツ軍部隊が通信回線を遮断したため、その命令は守備隊には届かず、結果としてベルギー軍は立て籠もって奮戦することになるのです。

 グロースドイッチュラント連隊は、電撃戦で活躍した機械化歩兵であり、装甲師団に配属されていたことからも、先行して敵軍の背後を脅かすという作戦目的は妥当だったといえます。しかし、その手段に、特殊な性能を持つFi156を投入したことには、目的と手段の逆転が起こっているようにも見えます。華々しい成功に彩られたドイツの電撃戦ですが、その裏には、こうした試行錯誤と失敗があったのです。(月刊PANZER編集部)

文:乗りものニュース 月刊PANZER編集部

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みんなのコメント

2件
  • hat********
    今でも米国の航空ショーで飛んでいるシュトルヒがあり、
    滑走路を走りだすと数メートルで離陸する映像を見た。
    着陸も、弱い向かい風があればほとんど垂直に降りて
    来てストンと停まるのに驚かされた。
  • mai********
    フィーゼラー156シュトルヒですか、記事にもある短距離離着陸性能はシュトルヒの代表的な機能、加えると一定の向かい風が吹いていたら空中にほぼ静止状態で滞空する事も出来たとか、戦後もスイス等の山岳地帯ではその性能が評価され活用されたようですね。ロンメル将軍の愛機としても知られてますね、アフリカ戦線ではこの機体に乗り各部隊を回り視察と激励に飛び回っていたとか、有名なエピソードとしては最前線を飛び回っていた為に時折ロンメル将軍の正確な所在が分からず地上の幕僚達が混乱したとか、ライセンスを所持していないにも関わらずロンメル将軍自らシュトルヒの操縦桿を握った事もあるとか。
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