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本当に日本はEVで「立ち遅れた」のか:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第15回

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本当に日本はEVで「立ち遅れた」のか:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第15回

ジャパン・モビリティ・ショー開催でにわかに沸き立つ日本のEVマーケット。しかし現実の販売状況は日本において大きく立ち遅れている。技術では先導してきたはずの日本メーカーは、なぜEVで世界をリードできていないのか。この分野のベテランジャーナリストである御堀 直嗣が解説する。

日本の低いEV市場占有率

[新連載]知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣

日本は、世界に先駆けて電気自動車(EV)の市販に踏み切った。2009年に三菱自動車工業が、軽自動車EVの「i-MiEV」を法人向けにリース販売しはじめ、翌10年には一般消費者向けへの販売も開始した。同年には、日産自動車も小型EVの「リーフ」を発売した。この2社によって、EVの量産市販が実現し、ことにリーフは海外への販売も行われ、「i-MiEV」はフランスの当時PSA社にOEM供給された。リーフの販売は世界で累計65万台に達し、その他EVを含めると、日産は世界で100万台のEV販売の実績を持つ。そのうち、日本国内は累計23万台である。

ちなみに、米国テスラは2022年では年間で約130万台、中国のBYDは同年に約90万台規模へ成長している。

同時にまた、世界共通の充電規格であるCHAdeMO(チャデモ)も準備され、リーフが販売される世界の各地域にCHAdeMO充電器の設置が動き出した。

それらを背景に、経済産業省は2012年度補正予算で1,005億円の補助金を計上し、全国に約10万基の充電器を整備するとした。この補助金は全額支給でないため、トヨタ/日産/ホンダ/三菱自の4社が資金を拠出し、補助金で賄いきれない残額を補填することに合意した。

しかし、現在の充電器の数は、急速充電と普通充電を合わせて約2万基である。

国内の新車販売において、EVが占める割合は1%以下という状況が長く続いた。昨2022年、「日産サクラ」と「三菱eKクロスEV」が発売となり、1年で5万台以上を販売することで2%ほどの占有率になろうかという状況にある。

一方、世界全体では、EVの市場占有率が13%になる。米国は5.8%、欧州は12%、中国は21%となっており、日本がいかに低水準であるかがみえてくる。

日本でEV普及が進まなかった理由

EVの先駆者であった日本が、なぜ欧米や中国の後塵を拝するようになったのか。

最大の要因は、せっかく1,005億円という充電基盤整備に対する経済産業省の支援があったにもかかわらず、急速充電器の整備にばかり世間の目が行き、EV利用の基本である基礎充電、すなわち自宅での普通充電(200V)の重要性が広がらなかったからである。ことに、マンションなど集合住宅の駐車場と、月極駐車場への普通充電設置がほぼできなかったことが原因であった。

EVの充電は、普通充電で8~10時間、あるいはそれ以上かかるとされ、これが単純にガソリンスタンドでの給油時間と比較されて、使い勝手が悪いとさまざまな媒体を通じて流布された。いまでもそうした論調が消えていない。しかし、自宅で普通充電できれば、寝ている間に満充電になるので、翌朝出かけるときは満充電で出発できる。

戸建て住宅に住む人はそれができた。ところが、戸建て住宅でも自宅に車庫がなく月極駐車場を利用する人は、近隣の急速充電器を利用しなければならなくなった。

集合住宅に住む人は、敷地内に駐車場が併設されていても、管理組合の同意が得られず普通充電ができない状態に陥った。無知がもたらした悲劇だ。EVを買う意思があっても、手に入れにくい状況があった。

集合住宅の管理組合で賛同が得られない最大の理由は、幹事がEV時代を予測できず、また自分には関係ないとして無視され続けたことにある。設置の経費は、ことに当初は補助金と自動車メーカー4社による補填があったので、ほぼゼロであった。現在でも、施工業者が残金を負担するなどのやりくりで、集合住宅側の負担が軽く済む仕組みが出てきている。それでもなお、管理組合で合意を得るのが難しい状況は払拭できていない。

基礎充電の普及を目指す業者の間でも、さらに難しいとされるのが月極駐車場への普通充電の設置だ。月極駐車場を管理する不動産業者の理解を得にくいという。

給油と充電の誤解

これらの基礎充電に関するすべての課題は、EVの本質を正しく理解せず、エンジン車と比較し、ガソリンスタンドでの給油と急速充電が同一であるかのような誤解にあり、それを招いた報道責任は大きい。

それでも、東京都は、新築のマンションへの充電器整備を義務付けることをはじめた。マンション開発業者(デベロッパー)も、新築マンションに充電器を設置する方向へ動き出している。

初代「リーフ」が発売された当時、顧客の9割は戸建て住宅に住む人であった。その状況は今日もほとんど変わりないだろう。一方、都市部の住民の6~7割は集合住宅に住む。そこに基礎充電が整えば、EV販売は一気に増える期待がある。

EVの販売が広がらなかったもうひとつは、エンジン車と変わらぬ使い勝手のハイブリッド車(HV)で満足する傾向が強まったことだ。そして消費者は、HVに乗っていれば環境対策に貢献していると思い込んだ。

また、欧州に遅れてディーゼルターボエンジンを拡販する自動車メーカーと輸入業者が増えた。

HVとディーゼルターボ車の普及により、消費者のEVへの関心を薄れさせたといえる。背景にあるのは、やはり多くの人々が住む集合住宅への基礎充電の不備である。

日本のEVの強みとは?

別の視点での日本の強みは、所有するEVから自宅へ電力を供給するV to H(ヴィークル・トゥ・ホーム)の技術が確立していることだ。これにも補助金制度がある。

ここは欧米や中国でまだ実現できていない利点だ。気候変動による自然災害の甚大化が現実となったとき、停電の可能性が高まる懸念がある。EVから電気を手に入れられれば、スマートフォンの充電はもちろん、冷蔵庫や電子レンジ、あるいは空調などを利用し続けることができる。

この技術はまた、自宅だけでなく、屋外での家庭電化製品への電力供給や、系統電力との連携といった未来社会への電力需給の保全にも通じる。

ほかにも日産は、集合住宅のエレベーターを昇降させる電力としてEVからの電気を利用する実験を実施した。これを発展させることにより、高層の集合住宅の駐車場にEVがあることによる利便性や安心が、EVを持たない住民への説得材料につながる可能性も生まれる。

日産はまた、EV後のリチウムイオン・バッテリーを使ったポータブル電源を先ごろ発売した。EVで使い終えたリチウムイオン・バッテリーには、まだ容量が60~70%以上残っている。

EVという、一台のクルマの性能を競っているのがいまの欧米や中国だが、日本は、EVの価値を、暮らしの安心を守ることへ適用し、さらにEV後の資源の無駄をなくすことも手掛けている。

EVの価値を知り尽くしているのが日本であり、ここは先駆者として、世界をまだリードし続けている。

文:THE EV TIMES 御堀 直嗣
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みんなのコメント

11件
  • lan********
    さっき某スウェーデンメーカーのディーラーてわ聞いたけど、ディーラーに設置してあるCHAdeMOの充電器はそのメーカーのオーナーにしか使わせないんだって。
    まぁ顧客囲い込み作戦なんだろうけど、じゃあテスラみたいに独自規格でやればいいのに。
    他社のCHAdeMOはフリーライドするけど自社のCHAdeMOは使わせません。ってEV充電器が社会インフラであるという認識ないよね。
  • 藍流頓瀬奈
    >御堀 直嗣
    解散。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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